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悪事を働く聖騎士をざまぁした俺が進む道

魔力譲渡

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「ありがとうございます、お兄さん…!本当に、なんとお礼をしたらいいか…!」

 落ち着きを取り戻したフレシアは俺に何度も何度も頭を下げる。
 何度頭を下げられたって俺がしたことなど大したことはないと返すことしかできないのに、よくやるよ。
 7年も苦しんでいたんだ。どんなにお礼を言っても、フレシアからしてみれば言い足りないのかもしれないが…。

「フレシア、大げさ~」
「ラスシア!お兄さんにちゃんとお礼言って!お兄さんがあなたにしてくれたことはとてもすごいことなのよ!?お医者様ですら、ラスシアが寝たきりになる原因がわからないと言われていたから…!」
「んん~?おにーさん、すごい人なの~?」
「いや、そのことなんだが…」
「そうだよねえ?凄いのは、精霊のお姉ちゃんだもんね!?」
「精霊…?」
「ラス、見たよ!ラスのこと導いてくれた精霊さんが、ラスの悪い所を全部吸い取ってくれたの!」
「あの…ラスシアが言っている意味…わかりますか?」

 説明を求めるラスシアの声にどう答えればいいのやら。
 スピカのことは極力話すべきではないのだろうが、これからあの野蛮な聖騎士を処刑する手前、話しておくべきかーー

「…幻覚でも見たんだろう」
「フレシア、ラスの言うこと信じてくれないの!?」
「お姉ちゃんだって言っているでしょ!?」

 わーきゃーわーきゃー、取っ組み合いの喧嘩が始まってどうしようかと思った。
 ラスシアは病み上がりだと言うのに、反撃するフレシアはまったく遠慮がない。
 この二人、実は仲が悪いのだろうか。どうやって止めるべきかと頭を悩ませる。唸っていれば、スピカから一言だけ「原因」と単語が囁かれた。その手があったか。

「ラスシアの、病気!原因なんだがーー」
「わかった!?」
「フレシアこわ~い」
「お姉ちゃんだってば!」
「ラスシアは魔力中毒を起こしていたんだ」
「ま、魔力中毒!?」
「フレシアがわんこそばみたいにどんどん魔力を注いでくるから、ラス。酔っ払っちゃってあっぷあっぷしていたの。溺れそうな所を、精霊さんが助けてくれたんだよ!」
「ほ、本当、ですか…?」
「ああ。マルクス・メイホールの魔力濃度が高すぎて、ラスシアの小さな身体では体内に宿る魔力と馴染ませて放出できなかったんだ。今は適切な治療をして、魔力を空にした所。元気に言い争いできるような状態じゃないはずなんだが」
「そうだ!お兄さん!魔力ちょーだい!」
「ああ、それはもちろん…」
「やったあ!」

 ラスシアはぴょん、とベッドから勢いよく飛び降りると、俺の胸に飛びついてきた。男から女へ魔力譲渡するには、身体接触が必要になる。
 男女の交わいが一番女性の魔力を回復するのに効果的ではあるのだが、身体が未発達な女性にも魔力を分け与えられるように考えられているらしく、手を繋ぐだけでも、手が触れ合う期間は魔力保管の魔石を持つ女へ、勝手に魔力が譲渡される。

「…っ!」

 魔力譲渡に性的興奮が伴うのはヒストリカル王国においては知らぬものはいない常識だ。
 久々に感じる、魔力がゆっくりと自らの魔石から吸い上げられていく感覚に思わず目を抑えそうになり、太ももを強く握りしめる。

 義眼に埋め込まれた魔石が、快楽を求めて疼く。
 もっと気持ちよくなりたい。もっと、魔力を譲渡したいとーー魔力譲渡のことしか考えられなくなる。
 俺はこの感覚が嫌いだった。女と合法的に触れ合えるこのシステムをありがたがるものは多いが、魔石を持つ女がいなければ真の快楽を得ることはできないと神に諭されているようでーー

「ああー!お兄さん、目がとろんってしているよ?気持ちいい?」
「っ、…っ、はっ…、…久しぶりで、馴れないだけ、だ…!」
「遠慮なんてしなくていいのに…」
「…あるじさま、うわき」

 魔力譲渡によって生まれる快楽を受け流していれば、耳元で普段よりも低い声が聞こえる。
 人間の姿を取っていたなら、スピカはジト目でこちらを見つめていただろう。「あるじさまの伴侶はスピカなのに」目の前で主の喘ぎ声のような押し殺した声を聞かされてスピカはご立腹のようだ。
「生理現象だから仕方ないだろ」と反論できず、もういいだろとラスシアをベッドへ突き飛ばすので精一杯だった。

「あぁっ!もう~。もうちょっと欲しかったのに」
「も、もう…、充分、だろ!」
「お兄さんの魔力とラス、とっても相性がいいみたい!また魔力譲渡してね!」

 ラス、お腹いっぱいになったら疲れちゃったぁ。二度寝するね、おやすみ~。

 お休み3秒とはこのことか。
 ラスシアは俺から魔力を奪うとベッドにごろりと横たわり、布団も掛けずに眠ってしまった。

 ーーほんとに勝手だな、こいつ…。

 魔力中毒のまま放置しとけば大人しかっただろうに。
 外野の俺が振り回されて姉のフレシアは大変だなと感じても、フレシアにとってラスシアはたった一人の妹なのだ。病気で床に伏せるより、多少迷惑を掛けられても元気な姿が見たかったのだろう。

「フレシア」
「はい」
「3つの約束は覚えている?」
「もちろんです」

 幼いラスシアが深い眠りに誘われたことを確認し、俺の目的を叶えるべく行動に移した。
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