木製の処刑椅子が美少女に!?悪事を働く聖騎士(笑)ざまぁして何が悪い?〜処刑椅子の妻と俺が復讐を終えて幸せに暮らす方法〜

桜城恋詠

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偽物聖騎士と聖女と護衛騎士

洗礼名

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「聖騎士の単独行動は認められていないはずだが」
「そ、そうでしたっけ?非番の際には制限なんかなかったはずですよ…ね」
「…自らを偽るのならばもっとうまくやれ。どのような状態でメイホールを名乗っているのかは知らないが、喋り方からして違う。よく成り代わったものだ」
「ああ…お知り合いでしたか…。俺、頭を強く打ち付けて…記憶がないんですよ…。聖騎士であることは着ている服と身分証で把握できたんですが…昔の記憶はさっぱりで…」
「考え抜いた設定の説明など必要ない。目的は」
「馬鹿正直に話すと思います?」
「剣の錆になりたいか」
「えーっと…本気、ですよね?」
「聖女暗殺を企てる罪人として処刑する。他に理由があるなら言え。3秒以内だ。3…2…1…」
「わ、わかった!全部話す。全部話すから!」

 マルクス・メイホールの上司か、同僚か…。
 謎の護衛騎士は聖剣に手を掛け俺に殺意を向けたので、思わず両手を上げて降参だと情けない声を上げた。

 スピカの処刑椅子で処刑しようにも、顔を突き合わせて話を始めた時点で揉み合って処刑椅子に突き飛ばすくらいしか対策がなく、もし処刑椅子で処刑を成功させてしまえば、室内にいる聖女が1人になってしまう。
 聖女と名乗るくらいだ。
 腐った聖騎士のように大罪を侵しているならともかく、言葉通りの洗礼潔白な少女であれば俺が自ら罪を犯すしかないわけで…。
 現実的ではないと判断した。

「そのお話、わたくしにもお聞かせ願えますか」
「メロリーチェ様」
「あなたは…。人ならざる神の御使いに愛されているようですね。わたくしは、お話をしてみたいのです。あなたが罪人であるか、善人であるかは、神の御使いに尋ねればよいこと」
「…お下がりください」
「募る話もおありでしょう。どうぞ中へ。神の御使いにも、姿を現して頂きたいので」
「メロリーチェ様。そのような…」

 今お茶を用意致します、とパタパタキッチンに走る聖女様は俺の思い描く聖女像とは程遠い。
 聖女ってもんは教会本部に引きこもって祈りを捧げる人間のことを示すんじゃないのか?護衛騎士1人と聖女1人。
 ボロ布を着て巡礼している上、身の回りを行う侍女すらつけず自ら聖騎士をもてなすため茶を入れるなど…。

「粗茶ではありますが、よろしければ」
「ご、ご丁寧にどうも…」
「今はプライベートに該当するのでしょうか」
「公の場ですよ、聖女様」
「ありがとう。わたくしは聖女メロリーチェ。こちらは聖騎士ティトマスです。あなたと神の御使いのお名前をお聞かせ願えますか」
「俺は…」
「聖騎士マルメークです」
「へ?」
「マルクス・メイホールはあくまで本名。教会内部では洗礼名で呼び合うのが習わしです。出会ったのが私でよかったですね。本名を名乗ろうものなら、悪魔に魂を売ったかと司祭の前に突き出されていたことでしょう」

 聖騎士マルメーク?それが俺の偽名として利用しているマルクス・メイホールの呼び名だと言う。
 知らずにうっかり本名で噂を流してしまったのは不味かったか。
 ただ、この…護衛騎士ティトマスは、俺のことメイホールと呼んだんだよな…。

「洗礼名があることも知らず、よくもまあ聖騎士に成り代わろうと思いましたね」
「じ、事故だった!俺だって、成り代わろうとして成り代わったわけじゃない」
「では、処刑椅子と共にいる理由をお聞かせ願えますか。その椅子は言うことを聞かないと協会内部では有名でした。あまりにも言うことを聞かないので、無理矢理命令を聞くように首輪をつけた程です。上位権限を持つ聖騎士に成り代わったと言えども、大人しく肩に載せられているなどありえない」
「スピカは俺のことを気に入ったみたいで。実は俺、処刑されそうになって。スピカに助けて貰った際…エンゲージしています」
「…まあ。神の御使いと…」
「…自分が生きるため恐ろしい過ちを犯したと理解しているのですか」
「いや、だって。スピカの手を取らなかったら俺は今頃この世にいないんだぜ。たとえその手が地獄に繋がる道であろうとも、差し伸べられた手は取るよ」

 聖騎士ティトマスは難しい顔で腕を組む。
 言葉にはしないもの、理解しがたいと全身で表現している。
 一方、聖女様はスピカが気になるようで、部屋の片隅に置かれた椅子の前をぐるぐると回っては舐め回すよう見て回っている。
 まったく、好奇心旺盛な聖女様だ。スピカの表情は窺えないが、もし人の姿で顕現していたならばむすっとむくれていたに違いない。

「自らが生きるためなら手段は選ばないと」
「そうだな。スピカが生きるためには犯罪者の血肉が必要だ。俺が生きるためには、金と衣食住が必要になるように。俺はスピカと生きていくために、スピカが犯罪者を殺すことに関しては許容している。罪の意識など微塵も感じない」
「なるほど。それで、よくもまあ聖騎士マルメークを名乗れたものです。成り代わってから教会に顔を出したことはありませんね」
「ああ。ないな」
「あなたは聖女をどのような存在だと考えておりますか」

 この聖騎士、質問多いな…。
 いい加減だるくなってきて、床に胡座をかいて座る。
 聖女の前で行儀が悪いと聖騎士ティトマスは顔を顰めたが、あっちだって到底聖女とは思えない、神々しさの欠片もない姿で俺の前に姿を表したのだ。
 俺の態度が悪くても多めに見てほしい。

「本人を前にして、どう思っているかなどよく聞けるな」
「罵倒されたって屈しませんよ、この聖女は。貴族上がりではありますが、庶民の生活に親しみがあるようですので」
「…ティトマス。それは嫌味と取りますよ」
「モウシワケゴザイマセン、聖女様」
「わかればよろしい」

 聖女様は一通り木製椅子が処刑椅子と呼ばれる呪いの椅子であるようには見えないことを確認したのか、俺と同じように床へ腰を下ろすと自ら入れた茶を口に含む。
 ティータイムを楽しむ場面だけは優雅さを感じるが、みすぼらしい姿では台無しだ。
 視界の端に苛立つティトマスの姿を捉え、俺は自らの気持ちを正直に打ち明けることにした。
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