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5・公爵家の愛娘、毛糸を作る
父は娘の為に(ジェナロ)・3
「あれ? 父さん」
幼子2人が眠るには大きすぎるベッドの上に座るジュロドは、小さな妹を抱きかかえたまま不思議そうに父親を見上げた。
「ジュロド……。ロルティは……」
「疲れて眠っちゃったんだ。うさぎとお揃いのリボンを作るって、張り切っていたんだけど……」
「メイドから聞いている」
「そっか。なら、細かい説明は必要ないね」
ジェナロは扉を閉めると、ほっとしや様子で兄妹のいるベッドまで歩みを進め、縁に腰掛けた。
スヤスヤと寝息を立てて眠るロルティは、とても気持ちよさそうだ。
優しい瞳で愛娘を見つめた彼は、彼女の頭を優しく撫でた。
「あれ? 父さん、続きを作ってくれるの?」
「ロルティが最後まで、自分の手で生み出したがっていたんじゃないのか」
「うーん……。そうなんだけど……。ロルティは、今すぐ欲しいみたいなんだ。寝ている間に出来ていたら、きっと喜ぶよ」
息子に唆されたジェナロは、大喜びする娘の姿を脳裏に思い描く。
『ありがとう、おとうしゃま! 大好き!』
そんなロルティを間近で見るためには、ジェナロの地道な努力が必要不可欠だ。
抱きかかえていたバスケットの中から神獣の刈り取った毛で紡いだ糸を取り出すと、彼は当然のように両手で針を持ち、黙々と編み物を始める。
その指先の動きに迷いはない。
「へぇ。父さんって、手先も器用なんだね。編み物って、女性だけがやるイメージだったけど……」
「本来であれば、男には不要なスキルだ」
「なら、どうして……」
「……ロルティの母親から教わった」
「ふぅん」
ジュロドは自身の母親が夫に愛されていなかったことをよく知っている。
それでも彼がジェナロを嫌うことなく父親として慕っていられるのは、産みの母が息子に対しても酷い扱いをしていたからだった。
(幼い頃の記憶は、鮮明に残る……)
夫に対しても、子に対しても。
いい母親になれなかった女性は、離縁状を叩きつけ出て行った。
ジュロドは恐らくそんなろくでもない女と妹の母親を思い浮かべ、脳内で比べているのだろう。
その視線は何か言いたげに揺れていた。
「ねぇ、父さん。どうして僕は、母さんの息子として生まれたんだろう……?」
「それが運命だからだ」
「父さんが同じなせいで、僕は中途半端だ。兄としてでしか、ロルティのそばにいられない……」
息子の苦悩を耳にしたジェナロは、彼の肩をポンっと叩いて慰める。
その後、口元を和らげて至極当然のことを言った。
「俺達だけが、ロルティの家族だ」
「父さん……」
「奪われたくなければ、守ればいい」
「ロルティに近づく男は、全員敵だと思っていいの?」
「ああ。煮るなり焼くなり好きにしろ」
「……うん。僕、強くなるよ。ロルティは絶対、誰にも渡さない」
息子に伝えたところで認めないだろうが、妹に対する執着心は大嫌いな母親によく似ている。
(そして、俺にも……)
だからジェナロは、息子が苦手だった。
ロルティがやってくる前はつかず離れずの距離で成長を見守るつもりだったが、彼女が姿を見せてくれたおかげで親子としての絆が深まったような気がしてならない。
「全員で身につけるか」
「お揃いのリボンを?」
「ああ」
「父さんが胸元にうさぎの毛を使ったかわいらしいリボンをつけていたら、何事かと二度見されるだろうね」
「公爵家を笑い者にするような人間は、全員剣の錆にしてやればいい」
「確かに」
ジュロドはロルティが大事に育てているアンゴラウサギが神獣だと知らないが、貴族の中にはこの毛糸を目にしただけでそれが神聖な力を帯びているとすぐに気づくだろう。
(もう二度と、愛しき我が娘に手出しはさせない)
決意を込めたジェナロは全員分のリボンを編み終えると針を置き、息子と自分の胸元に結びつける。
「ありがとう。父さん」
「ああ」
相槌を打った彼は気持ちよさそうに目を閉じている神獣の耳にリボン結びつけたあと、ロルティの髪に括りつけた。
(こうしてみると、本当にそっくりだな……)
彼女の母親が自らこの世に生み出した編み物達が、1つも手元に残っていないことが惜しまれる。
(命さえ続いていれば、それだけでいい……)
失ったものは元には戻らない。
だからこそ、今手元にあるものを大切にするべきだ。
ジェナロは愛娘の髪を優しく撫でたあと、ゆっくりと身体を離した。
(愛する娘を守るためにそれが必要不可欠であるとすれば、役目をほっぽり出すわけにはいかない)
四六時中そばにいることはできないが、ジェナロが愛娘を大切に思う気持ちだけは本物だ。
「また来る」
「うん」
彼は再び息子にあとのことを頼むと、ジュロドと別れて執務室を目指した。
幼子2人が眠るには大きすぎるベッドの上に座るジュロドは、小さな妹を抱きかかえたまま不思議そうに父親を見上げた。
「ジュロド……。ロルティは……」
「疲れて眠っちゃったんだ。うさぎとお揃いのリボンを作るって、張り切っていたんだけど……」
「メイドから聞いている」
「そっか。なら、細かい説明は必要ないね」
ジェナロは扉を閉めると、ほっとしや様子で兄妹のいるベッドまで歩みを進め、縁に腰掛けた。
スヤスヤと寝息を立てて眠るロルティは、とても気持ちよさそうだ。
優しい瞳で愛娘を見つめた彼は、彼女の頭を優しく撫でた。
「あれ? 父さん、続きを作ってくれるの?」
「ロルティが最後まで、自分の手で生み出したがっていたんじゃないのか」
「うーん……。そうなんだけど……。ロルティは、今すぐ欲しいみたいなんだ。寝ている間に出来ていたら、きっと喜ぶよ」
息子に唆されたジェナロは、大喜びする娘の姿を脳裏に思い描く。
『ありがとう、おとうしゃま! 大好き!』
そんなロルティを間近で見るためには、ジェナロの地道な努力が必要不可欠だ。
抱きかかえていたバスケットの中から神獣の刈り取った毛で紡いだ糸を取り出すと、彼は当然のように両手で針を持ち、黙々と編み物を始める。
その指先の動きに迷いはない。
「へぇ。父さんって、手先も器用なんだね。編み物って、女性だけがやるイメージだったけど……」
「本来であれば、男には不要なスキルだ」
「なら、どうして……」
「……ロルティの母親から教わった」
「ふぅん」
ジュロドは自身の母親が夫に愛されていなかったことをよく知っている。
それでも彼がジェナロを嫌うことなく父親として慕っていられるのは、産みの母が息子に対しても酷い扱いをしていたからだった。
(幼い頃の記憶は、鮮明に残る……)
夫に対しても、子に対しても。
いい母親になれなかった女性は、離縁状を叩きつけ出て行った。
ジュロドは恐らくそんなろくでもない女と妹の母親を思い浮かべ、脳内で比べているのだろう。
その視線は何か言いたげに揺れていた。
「ねぇ、父さん。どうして僕は、母さんの息子として生まれたんだろう……?」
「それが運命だからだ」
「父さんが同じなせいで、僕は中途半端だ。兄としてでしか、ロルティのそばにいられない……」
息子の苦悩を耳にしたジェナロは、彼の肩をポンっと叩いて慰める。
その後、口元を和らげて至極当然のことを言った。
「俺達だけが、ロルティの家族だ」
「父さん……」
「奪われたくなければ、守ればいい」
「ロルティに近づく男は、全員敵だと思っていいの?」
「ああ。煮るなり焼くなり好きにしろ」
「……うん。僕、強くなるよ。ロルティは絶対、誰にも渡さない」
息子に伝えたところで認めないだろうが、妹に対する執着心は大嫌いな母親によく似ている。
(そして、俺にも……)
だからジェナロは、息子が苦手だった。
ロルティがやってくる前はつかず離れずの距離で成長を見守るつもりだったが、彼女が姿を見せてくれたおかげで親子としての絆が深まったような気がしてならない。
「全員で身につけるか」
「お揃いのリボンを?」
「ああ」
「父さんが胸元にうさぎの毛を使ったかわいらしいリボンをつけていたら、何事かと二度見されるだろうね」
「公爵家を笑い者にするような人間は、全員剣の錆にしてやればいい」
「確かに」
ジュロドはロルティが大事に育てているアンゴラウサギが神獣だと知らないが、貴族の中にはこの毛糸を目にしただけでそれが神聖な力を帯びているとすぐに気づくだろう。
(もう二度と、愛しき我が娘に手出しはさせない)
決意を込めたジェナロは全員分のリボンを編み終えると針を置き、息子と自分の胸元に結びつける。
「ありがとう。父さん」
「ああ」
相槌を打った彼は気持ちよさそうに目を閉じている神獣の耳にリボン結びつけたあと、ロルティの髪に括りつけた。
(こうしてみると、本当にそっくりだな……)
彼女の母親が自らこの世に生み出した編み物達が、1つも手元に残っていないことが惜しまれる。
(命さえ続いていれば、それだけでいい……)
失ったものは元には戻らない。
だからこそ、今手元にあるものを大切にするべきだ。
ジェナロは愛娘の髪を優しく撫でたあと、ゆっくりと身体を離した。
(愛する娘を守るためにそれが必要不可欠であるとすれば、役目をほっぽり出すわけにはいかない)
四六時中そばにいることはできないが、ジェナロが愛娘を大切に思う気持ちだけは本物だ。
「また来る」
「うん」
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