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7・マジックミラー越しに、羞恥プレイ
秘書さんと私(3)
「ご無沙汰しております」
リムジンの中で抱き潰されて意識を失った私が目覚めた時、目の前にいたのは片平さんではなく――かつて自分を逃がしてくれた、塩谷さんだった。
彼女がいると言うことは、あの人がここにはいないと言うことだ。
私は冗談めかして、聞いてみた。
「今回も、逃亡の手助けをしてくださったりは……」
「わたくしは、賭けに負けました」
しかし、塩谷さんの発言によってそれが無理だと瞬時に悟る。
彼女が別れ際に告げた言葉を、思い出したからだ。
『試してみたいのです。彼が本当に、あなたを愛しているのか』
きっと片平さんは、私と離れている間の彼の様子を間近で見てきたのだろう。
あの人に好意をいだいていたからこそ、つけ入る隙があれば妻に立候補しようと目論んできたのに――。
その宛が外れた以上、こちらに味方する理由はなくなった。
そう考えるべきだ。
「もう、無意味な悪あがきはおやめください」
片平さんを想い続けているからこそ、この期に及んでも逃げようとする私が不快で仕方がないのだろう。
彼によく似て無表情を貫きがちな彼女が切なげに瞳を細めるなんて、異常事態もいいところだ。
――誰がどう考えても、塩谷さんの言う通りに片平さんから離れようとするのは辞めるべきだった。
「参考程度に、お聞きしたいんですが……」
「内容にもよります」
「私と別れてから、彼はどんな様子でした……?」
「それを、わたくしに聞くのですか……」
彼女は「なぜこんな女を好きになったのか」と心底不思議で堪らないと言わんばかりに、悔しさを滲ませた。
「錯乱状態と言う表現が、一番しっくり来るかと。酷いものでした」
「そう、ですか……」
「彼は何度も口にしていました。あなたがいなければ、生きている意味がないと。それほどまでに、武彦様は結月さんを愛しておられるのです。いい加減、受け入れて差し上げたらどうでしょう」
私が彼から逃げたせいで、たくさんの人々を悲しませてしまった。
片平さんを愛する秘書さん。
産まれてからこの方、父親の顔を知らずに生きる羽目になった夏希。
そして、異常としか言いようのない愛を己に向ける彼氏は――。
離れている間の6年間で、さらに屈折した想いを向けるようになった。
自分の預かり知らぬ場所でどこかへ逃げていかないように、手錠と鎖で四肢を拘束するくらいだ。
――今度私が彼の前から姿を消そうとして、捕らえられたら……。
命さえも奪われてしまいかねない危うさがあった。
「夏希は……」
「今は、兄と一緒にいます」
「お兄さん、ですか……?」
「武彦様の、運転手をしております」
「ぁ……っ!」
昔のようにこの身1つで逃げ出すならばいざ知らず、今は幼い娘が一緒にいるのだ。
どちらにせよ、あの子と引き離されてしまってはどうにもならない。
夏希の無事を人伝でもいいから確認しようと試みたところ、彼女の口から新事実が明かされて驚きを隠せなかった。
――片平さんにお仕置きと称して散々イカされ捲っている声を聞いていたのって、秘書さんのお兄さんだったんだ……。
まさかの展開になんと言えばいいのかわからず、頬を赤らめて項垂れるしかない。
「ご安心ください。口の固い男ですので」
「は、はぁ……」
「希美」
気の抜けた相槌を打てば、私の名を呼ぶ男性の声が遠くから聞こえてきた。
それが誰かを瞬時に悟った塩谷さんは、会釈をしてから部屋の外へ出て行ってしまう。
「ま……っ!」
2人きりにしないでと叫びたい気持ちは、最後まで言葉にはならなかった。
彼女と入れ替わりで目の前にやってきた彼が剣呑な表情でこちらを睨みつけたあと、唇を塞いできたからだ。
リムジンの中で抱き潰されて意識を失った私が目覚めた時、目の前にいたのは片平さんではなく――かつて自分を逃がしてくれた、塩谷さんだった。
彼女がいると言うことは、あの人がここにはいないと言うことだ。
私は冗談めかして、聞いてみた。
「今回も、逃亡の手助けをしてくださったりは……」
「わたくしは、賭けに負けました」
しかし、塩谷さんの発言によってそれが無理だと瞬時に悟る。
彼女が別れ際に告げた言葉を、思い出したからだ。
『試してみたいのです。彼が本当に、あなたを愛しているのか』
きっと片平さんは、私と離れている間の彼の様子を間近で見てきたのだろう。
あの人に好意をいだいていたからこそ、つけ入る隙があれば妻に立候補しようと目論んできたのに――。
その宛が外れた以上、こちらに味方する理由はなくなった。
そう考えるべきだ。
「もう、無意味な悪あがきはおやめください」
片平さんを想い続けているからこそ、この期に及んでも逃げようとする私が不快で仕方がないのだろう。
彼によく似て無表情を貫きがちな彼女が切なげに瞳を細めるなんて、異常事態もいいところだ。
――誰がどう考えても、塩谷さんの言う通りに片平さんから離れようとするのは辞めるべきだった。
「参考程度に、お聞きしたいんですが……」
「内容にもよります」
「私と別れてから、彼はどんな様子でした……?」
「それを、わたくしに聞くのですか……」
彼女は「なぜこんな女を好きになったのか」と心底不思議で堪らないと言わんばかりに、悔しさを滲ませた。
「錯乱状態と言う表現が、一番しっくり来るかと。酷いものでした」
「そう、ですか……」
「彼は何度も口にしていました。あなたがいなければ、生きている意味がないと。それほどまでに、武彦様は結月さんを愛しておられるのです。いい加減、受け入れて差し上げたらどうでしょう」
私が彼から逃げたせいで、たくさんの人々を悲しませてしまった。
片平さんを愛する秘書さん。
産まれてからこの方、父親の顔を知らずに生きる羽目になった夏希。
そして、異常としか言いようのない愛を己に向ける彼氏は――。
離れている間の6年間で、さらに屈折した想いを向けるようになった。
自分の預かり知らぬ場所でどこかへ逃げていかないように、手錠と鎖で四肢を拘束するくらいだ。
――今度私が彼の前から姿を消そうとして、捕らえられたら……。
命さえも奪われてしまいかねない危うさがあった。
「夏希は……」
「今は、兄と一緒にいます」
「お兄さん、ですか……?」
「武彦様の、運転手をしております」
「ぁ……っ!」
昔のようにこの身1つで逃げ出すならばいざ知らず、今は幼い娘が一緒にいるのだ。
どちらにせよ、あの子と引き離されてしまってはどうにもならない。
夏希の無事を人伝でもいいから確認しようと試みたところ、彼女の口から新事実が明かされて驚きを隠せなかった。
――片平さんにお仕置きと称して散々イカされ捲っている声を聞いていたのって、秘書さんのお兄さんだったんだ……。
まさかの展開になんと言えばいいのかわからず、頬を赤らめて項垂れるしかない。
「ご安心ください。口の固い男ですので」
「は、はぁ……」
「希美」
気の抜けた相槌を打てば、私の名を呼ぶ男性の声が遠くから聞こえてきた。
それが誰かを瞬時に悟った塩谷さんは、会釈をしてから部屋の外へ出て行ってしまう。
「ま……っ!」
2人きりにしないでと叫びたい気持ちは、最後まで言葉にはならなかった。
彼女と入れ替わりで目の前にやってきた彼が剣呑な表情でこちらを睨みつけたあと、唇を塞いできたからだ。
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