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2・人生三度目の、悪役令嬢ですわ!
前世を思い出して(1)
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――生まれた時から国母となることを定められていた自分にとって、歌うことはストレス解消の一環だ。
喪服のようなドレスを身に纏い、顔を覆い隠すヴェールのついた黒のトークハットをつける。
身分を隠し、平民に混ざって古びた小劇場で歌声を響かせているうちに、いつの間にか「黒の歌姫」と呼ばれるようになった。
どこかで聞き覚えのある2つ名に引っかかりを感じながら、12歳の誕生日を迎えるまでは何事もなく暮らしていた。
しかし――平穏な日々は、小劇場にある青年が姿を見せたことで終わりを告げる。
「君の歌は、本当に素晴らしい」
「あ、ありが……!」
太陽の光を浴びて鈍色に光り輝く銀髪と、水色の瞳を持つ男性。
10年後に王立騎士団の団長として名を馳せる15歳の青年は――ダグラス・ゼヴァイツ。
かつての私を死に追いやった人物が、自分へ会いに来たと知ったからだ。
「う……っ」
笑顔でお礼を言う気にはなれなかった。
一度目の人生で己を殺した人間になど、心を開けるはずがない。
「う、ぁ……っ」
「どうした」
そう、思っていたからだ。
なのに――。
脳裏にはなぜか、存在しない記憶が山程浮かんでは消えていく。
『瑠璃ちゃん! おはよ!』
『おはよう!』
胸元に見覚えのない紋章の書かれた真っ白なブラウスと紺のプリーツスカートとローファーを身に纏い、友達と挨拶をする。
それが制服と呼ばれる衣装だと、自分はなぜ知っているのだろうか?
一度目の人生では、そんな奇抜な格好をした人の姿など、見た覚えがないのに……。
「ルリミカ……」
「私の、名前は……!」
ヒーローから己の名を呼ばれ、違うと否定しかけたのには理由があった。
それは――。
「あ、悪役令嬢の名前じゃん……!」
今の自分が三度目の人生を歩んでいると、ようやく自覚したからだ。
――順を追って説明しよう。
私は木隠瑠璃として日本で暮らし、23歳の時に銀色の猫を助けるために車道へ飛び出し、命を落とした。
その後、悪役令嬢に転生し、前世の記憶を失ったまま22歳でその人生を終えた。
それが、先程まで一度目だと思っていた話。
つまり、本来ならばそれが二度目だったということだ。
漫画の世界の登場人物に生まれ変わったというだけでも驚きなのに、さらにバッドエンドを迎えて回帰や巻き戻りという現象に遭遇するなんて、到底受け入れられなかった。
一般人の私が、どうしてこんなことに……?
頭をかかえて蹲っているのをいいことに、状況が飲み込めぬまま自問自答を繰り返す。
――転生してすぐに前世の話を思い出せなかったのは不運だったが、ある意味では幸運だったかもしれない。
大人気少女漫画「悪役の後悔と悲願」で語られていた彼女の気持ちを、実際に追体験できたのだから。
作中では描かれていなかった場面も何度か目にして、自分だけが悪いわけではないと認識できた。
あとは、2次元のお話として語り継がれた未来と悲劇の結末を迎えないよう、今から自分がうまく立ち回ればいいだけだ。
――もう二度と、バッドエンドなんかごめんなんだから!
妹に現を抜かす婚約者と縁を切り、私の命を奪っておきながら愛していると嘘ぶく銀髪野郎の魔の手から逃れ、素敵な旦那様と縁を繋ぐか。
それとも、生涯独身を選んで清く正しく美しい修道女ルートを目指すか。
歩むべき道は、2つに1つだけだ。
喪服のようなドレスを身に纏い、顔を覆い隠すヴェールのついた黒のトークハットをつける。
身分を隠し、平民に混ざって古びた小劇場で歌声を響かせているうちに、いつの間にか「黒の歌姫」と呼ばれるようになった。
どこかで聞き覚えのある2つ名に引っかかりを感じながら、12歳の誕生日を迎えるまでは何事もなく暮らしていた。
しかし――平穏な日々は、小劇場にある青年が姿を見せたことで終わりを告げる。
「君の歌は、本当に素晴らしい」
「あ、ありが……!」
太陽の光を浴びて鈍色に光り輝く銀髪と、水色の瞳を持つ男性。
10年後に王立騎士団の団長として名を馳せる15歳の青年は――ダグラス・ゼヴァイツ。
かつての私を死に追いやった人物が、自分へ会いに来たと知ったからだ。
「う……っ」
笑顔でお礼を言う気にはなれなかった。
一度目の人生で己を殺した人間になど、心を開けるはずがない。
「う、ぁ……っ」
「どうした」
そう、思っていたからだ。
なのに――。
脳裏にはなぜか、存在しない記憶が山程浮かんでは消えていく。
『瑠璃ちゃん! おはよ!』
『おはよう!』
胸元に見覚えのない紋章の書かれた真っ白なブラウスと紺のプリーツスカートとローファーを身に纏い、友達と挨拶をする。
それが制服と呼ばれる衣装だと、自分はなぜ知っているのだろうか?
一度目の人生では、そんな奇抜な格好をした人の姿など、見た覚えがないのに……。
「ルリミカ……」
「私の、名前は……!」
ヒーローから己の名を呼ばれ、違うと否定しかけたのには理由があった。
それは――。
「あ、悪役令嬢の名前じゃん……!」
今の自分が三度目の人生を歩んでいると、ようやく自覚したからだ。
――順を追って説明しよう。
私は木隠瑠璃として日本で暮らし、23歳の時に銀色の猫を助けるために車道へ飛び出し、命を落とした。
その後、悪役令嬢に転生し、前世の記憶を失ったまま22歳でその人生を終えた。
それが、先程まで一度目だと思っていた話。
つまり、本来ならばそれが二度目だったということだ。
漫画の世界の登場人物に生まれ変わったというだけでも驚きなのに、さらにバッドエンドを迎えて回帰や巻き戻りという現象に遭遇するなんて、到底受け入れられなかった。
一般人の私が、どうしてこんなことに……?
頭をかかえて蹲っているのをいいことに、状況が飲み込めぬまま自問自答を繰り返す。
――転生してすぐに前世の話を思い出せなかったのは不運だったが、ある意味では幸運だったかもしれない。
大人気少女漫画「悪役の後悔と悲願」で語られていた彼女の気持ちを、実際に追体験できたのだから。
作中では描かれていなかった場面も何度か目にして、自分だけが悪いわけではないと認識できた。
あとは、2次元のお話として語り継がれた未来と悲劇の結末を迎えないよう、今から自分がうまく立ち回ればいいだけだ。
――もう二度と、バッドエンドなんかごめんなんだから!
妹に現を抜かす婚約者と縁を切り、私の命を奪っておきながら愛していると嘘ぶく銀髪野郎の魔の手から逃れ、素敵な旦那様と縁を繋ぐか。
それとも、生涯独身を選んで清く正しく美しい修道女ルートを目指すか。
歩むべき道は、2つに1つだけだ。
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