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2・人生三度目の、悪役令嬢ですわ!
前世を思い出して(4)
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「いやだわ! もう! ジェラルド様ったらぁ!」
侍女が勢いよくエントランスに繋がる扉を開いた直後、妹が婚約者を呼ぶ声が聞こえてきた時はどうしようかと思った。
――こんなに早く浮気現場に遭遇するなんて、思いもしませんでしたわ……。
脚を前に進める気もなれずに固まっていると、こちらに気づいて露骨に嫌そうな顔をする殿下と目が合った。
「ルリミカ……」
「まぁ、殿下。いらしていましたの?」
「姉様ったら、酷いです! こんなにも長い間、ジェラルド様を待たせるなんて……!」
「随分と、お楽しみだったようですわね」
気まずそうに私の名を呼ぶジェラルドに「会いに来なくてよかったんですのよ」と言わんばかりの態度を取れば、その様子を見かねた妹が会話に割って入ってきた。
その光景すらも、苛立って仕方がない。
「姉様? 一体、なんの話ですか?」
「勘違いすんじゃねぇ。これは……」
「隠さなくたって、いいんですのよ。私、あなたの好みはよく知っていますもの」
「なんだって?」
私はすっとぼける殿下に隠しても無駄だと伝えるために、訳知り顔で吐き捨てた。
「感情の起伏が乏しい女性よりも、可憐でかわいらしい娘のほうが好ましいと思うのは、自然の摂理ですわ」
「それって、わたしを褒めてる? 嬉しい! ありがとう! 姉様!」
妹は貴族の娘とは到底思えぬ口調で、こちらの嫌味も諸共せずに満面の笑みを浮かべる。
その姿に見惚れる婚約者には苛立って仕方がなかったが、今となってはどうでもいい。
彼に執着したところで、私達に幸せな結末が訪れることはないのだから……。
「引き続き、殿下のお相手をお願いできるかしら?」
「いいの?」
「もちろんよ。私、外出先でいろいろあって疲れてしまいましたの。こちらのことは気にせず、引き続きご歓談をお楽しみくださいな」
「な……っ!」
婚約者の相手を妹へ任せると宣言すれば、なぜかジェナルドがわなわなと震え始めた。
どうやら、私の態度がお気に召さないらしい。
「オレはあんたへ会いに来てやったんだ。具合が悪いなら、看病してやる。それは婚約者として、当然の権利だ!」
「お断りいたしますわ」
何度も人生をやり直していなければ、「殿下の言うことは絶対」だと、どれほど妹に苛立っていたとしても黙って彼の言葉を受け入れていたかもしれない。
しかし――。
このまま許婚の指示に従い、自分が不在の間にリナリアとよろしくやっている殿下へ媚びを売ったところで、彼の心は手に入らない。
それをよく知っているからこそ、私はとてもじゃないがジェラルドの言うことを聞く気にはなれなかった。
「一体、オレを誰だと……!」
「リナリア」
「はーい! ジェラルド様! わたしと、もっと交流を深めましょう!」
「は、離せ! オレは、あの女と……っ!」
ジェラルドは大声で騒いでいたが、リナリアを突き飛ばしてまでこちらを追いかける気にはならなかったようだ。
私はどうにか無事に侍女とともに自室へ辿り着くと、勢いよく寝台の上に倒れ込む。
「はぁ。疲れた……」
次から次へと主要人物達が姿を見せたせいで、気が休まる瞬間がなかった。
ようやくゆっくりと心を落ち着かせられると一息つけば、強烈な眠気が襲いかかる。
「お嬢様。よかったのですか? 殿下とリナリア様を一緒にするのは……」
侍女のラルラが先程の対応について苦言を呈しているが、理由を口にする気にもならない。
「少し、休むわ……」
最後の気力を振り絞って荒い息を吐き出したあと、私の意識はぷつりと途絶えた。
侍女が勢いよくエントランスに繋がる扉を開いた直後、妹が婚約者を呼ぶ声が聞こえてきた時はどうしようかと思った。
――こんなに早く浮気現場に遭遇するなんて、思いもしませんでしたわ……。
脚を前に進める気もなれずに固まっていると、こちらに気づいて露骨に嫌そうな顔をする殿下と目が合った。
「ルリミカ……」
「まぁ、殿下。いらしていましたの?」
「姉様ったら、酷いです! こんなにも長い間、ジェラルド様を待たせるなんて……!」
「随分と、お楽しみだったようですわね」
気まずそうに私の名を呼ぶジェラルドに「会いに来なくてよかったんですのよ」と言わんばかりの態度を取れば、その様子を見かねた妹が会話に割って入ってきた。
その光景すらも、苛立って仕方がない。
「姉様? 一体、なんの話ですか?」
「勘違いすんじゃねぇ。これは……」
「隠さなくたって、いいんですのよ。私、あなたの好みはよく知っていますもの」
「なんだって?」
私はすっとぼける殿下に隠しても無駄だと伝えるために、訳知り顔で吐き捨てた。
「感情の起伏が乏しい女性よりも、可憐でかわいらしい娘のほうが好ましいと思うのは、自然の摂理ですわ」
「それって、わたしを褒めてる? 嬉しい! ありがとう! 姉様!」
妹は貴族の娘とは到底思えぬ口調で、こちらの嫌味も諸共せずに満面の笑みを浮かべる。
その姿に見惚れる婚約者には苛立って仕方がなかったが、今となってはどうでもいい。
彼に執着したところで、私達に幸せな結末が訪れることはないのだから……。
「引き続き、殿下のお相手をお願いできるかしら?」
「いいの?」
「もちろんよ。私、外出先でいろいろあって疲れてしまいましたの。こちらのことは気にせず、引き続きご歓談をお楽しみくださいな」
「な……っ!」
婚約者の相手を妹へ任せると宣言すれば、なぜかジェナルドがわなわなと震え始めた。
どうやら、私の態度がお気に召さないらしい。
「オレはあんたへ会いに来てやったんだ。具合が悪いなら、看病してやる。それは婚約者として、当然の権利だ!」
「お断りいたしますわ」
何度も人生をやり直していなければ、「殿下の言うことは絶対」だと、どれほど妹に苛立っていたとしても黙って彼の言葉を受け入れていたかもしれない。
しかし――。
このまま許婚の指示に従い、自分が不在の間にリナリアとよろしくやっている殿下へ媚びを売ったところで、彼の心は手に入らない。
それをよく知っているからこそ、私はとてもじゃないがジェラルドの言うことを聞く気にはなれなかった。
「一体、オレを誰だと……!」
「リナリア」
「はーい! ジェラルド様! わたしと、もっと交流を深めましょう!」
「は、離せ! オレは、あの女と……っ!」
ジェラルドは大声で騒いでいたが、リナリアを突き飛ばしてまでこちらを追いかける気にはならなかったようだ。
私はどうにか無事に侍女とともに自室へ辿り着くと、勢いよく寝台の上に倒れ込む。
「はぁ。疲れた……」
次から次へと主要人物達が姿を見せたせいで、気が休まる瞬間がなかった。
ようやくゆっくりと心を落ち着かせられると一息つけば、強烈な眠気が襲いかかる。
「お嬢様。よかったのですか? 殿下とリナリア様を一緒にするのは……」
侍女のラルラが先程の対応について苦言を呈しているが、理由を口にする気にもならない。
「少し、休むわ……」
最後の気力を振り絞って荒い息を吐き出したあと、私の意識はぷつりと途絶えた。
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