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2・人生三度目の、悪役令嬢ですわ!
前世を思い出して(3)
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この世界は、かなり治安が悪い。
絢爛豪華なドレスを身に纏った貴族が1人で外出するなど、悪人にとっては格好の餌だ。
――よくわからないモブに殺されるくらいなら、ダグラスに命を奪われたほうがよほどマシだもの……。
悪役令嬢として生まれて死んだ記憶だけを保持いたら、絶対に思わなかったもしもの可能性を考えるのには理由がある。
実は前世で木隠瑠璃として「悪役の後悔と悲願」を読んだ際、私の推しキャラはダグラスだったのだ。
『サラッサラの銀髪! ルリミカへ向けて秘める愛に、どうしてこの子は気づかないの……!?』
この当時はまさか、自分がルリミカになって彼に殺されることになるなど思いもしなかった。
――原作とまったく同じ結末を迎えていたら、私は今頃……。
ゾッと背筋が凍るような寒気を感じながら、平民のふりをして町中を闊歩する。
小劇場では「黒の歌姫」とみんなから呼ばれているが、特徴的な衣装を脱げばただの小娘だ。
襲われたら、ひとたまりもない。
私は人混みに紛れ、危なげなく側使えとの合流場所としてよく使う酒場へ訪れた。
「お嬢様……!」
「いつも言っていますわよね。ここでは、その呼び方はしないでくださるかしら」
「し、しかし……! いくら身分を隠すためと言えども、君主を呼び捨てでお呼びするなどできません……!」
「私とあなたの仲ではありませんの。今さら、不敬な態度を取られたって気にしませんわ」
小さな身体を覆い隠すように朝布でできたマントに包まっていた少女は、私の姿を確認した瞬間にこちらへ駆け寄ってきた。
侍女は焦りの色が隠せない様子で、「早く帰りましょう」と促してくる。
彼女は身分を偽り、「黒の歌姫」として活動することをよしとしていない。
公爵令嬢らしく、屋敷に籠もっていてくれと懇願するタイプの少女だ。
何かあった場合に侍従長から叱咤されるのを恐れて、口煩く騒ぎ立てている。
私はそれをよくわかっているからこそ、さっさと屋敷へ戻ると決めた。
「お嬢さん。もう帰るのかい?」
「ええ。いつもありがとう」
「せっかく来たんだ。果実酒の一杯くらい飲んで、休憩していけばいいのに……」
「私、ある人物に追われていますの。ちんたらしていたら、捕まってしまいますわ」
女店主はこちらを心配そうに見つめ、提案してくれる。
「そいつは大変だ。不審者かい? ここで待ち構えて、自警団に突き出してやりなよ」
「いいえ。そこまでは望んでいませんわ。彼、いいところのお坊ちゃんですもの」
「そうなのかい?」
身分を隠した公爵令息のストーカー被害を訴えかけたところで、握り潰されるのがオチだ。
私は両親との仲もあまりよくはないし、「なぜ問題を起こしたんだ」と怒鳴りつけては堪らない。
「寄付金を増やしますから、出禁にしてくださる?」
「もちろん。お嬢様には、いつも世話になっているからね。それで、そいつの名前はなんて言うんだい?」
私は行きつけの店の女性店主を味方につけて、胸元で両腕を組んで胸を張る。
その後、堂々と彼の名を宣言した。
「ダグラス・ゼヴァイツ。15歳の、青年ですわ」
店主は彼の名を聞いた瞬間、驚愕した。
ゼヴァイツ公爵家はこの国で知らぬものはいないとされるほどに有名で、代々王立騎士団の団長を輩出してきた名家だからだ。
「色恋沙汰かい?」
「まぁ、そんなところですわ」
王太子の婚約者にゼヴァイツ公爵家の嫡男がちょっかいをかけているなどと知られれば、格好の醜聞だ。
面白おかしく騒がれるのは容易に想像ができる。
――これも、円満な婚約破棄をするために必要な策の一環だ。
「それでは皆様、ごきげんよう。今後とも、ご贔屓に」
この作戦が吉と出るか凶と出るかは、もう少し先になってみなければわからない。
私はその日を楽しみに待ちわびながら、公爵家へ戻った。
絢爛豪華なドレスを身に纏った貴族が1人で外出するなど、悪人にとっては格好の餌だ。
――よくわからないモブに殺されるくらいなら、ダグラスに命を奪われたほうがよほどマシだもの……。
悪役令嬢として生まれて死んだ記憶だけを保持いたら、絶対に思わなかったもしもの可能性を考えるのには理由がある。
実は前世で木隠瑠璃として「悪役の後悔と悲願」を読んだ際、私の推しキャラはダグラスだったのだ。
『サラッサラの銀髪! ルリミカへ向けて秘める愛に、どうしてこの子は気づかないの……!?』
この当時はまさか、自分がルリミカになって彼に殺されることになるなど思いもしなかった。
――原作とまったく同じ結末を迎えていたら、私は今頃……。
ゾッと背筋が凍るような寒気を感じながら、平民のふりをして町中を闊歩する。
小劇場では「黒の歌姫」とみんなから呼ばれているが、特徴的な衣装を脱げばただの小娘だ。
襲われたら、ひとたまりもない。
私は人混みに紛れ、危なげなく側使えとの合流場所としてよく使う酒場へ訪れた。
「お嬢様……!」
「いつも言っていますわよね。ここでは、その呼び方はしないでくださるかしら」
「し、しかし……! いくら身分を隠すためと言えども、君主を呼び捨てでお呼びするなどできません……!」
「私とあなたの仲ではありませんの。今さら、不敬な態度を取られたって気にしませんわ」
小さな身体を覆い隠すように朝布でできたマントに包まっていた少女は、私の姿を確認した瞬間にこちらへ駆け寄ってきた。
侍女は焦りの色が隠せない様子で、「早く帰りましょう」と促してくる。
彼女は身分を偽り、「黒の歌姫」として活動することをよしとしていない。
公爵令嬢らしく、屋敷に籠もっていてくれと懇願するタイプの少女だ。
何かあった場合に侍従長から叱咤されるのを恐れて、口煩く騒ぎ立てている。
私はそれをよくわかっているからこそ、さっさと屋敷へ戻ると決めた。
「お嬢さん。もう帰るのかい?」
「ええ。いつもありがとう」
「せっかく来たんだ。果実酒の一杯くらい飲んで、休憩していけばいいのに……」
「私、ある人物に追われていますの。ちんたらしていたら、捕まってしまいますわ」
女店主はこちらを心配そうに見つめ、提案してくれる。
「そいつは大変だ。不審者かい? ここで待ち構えて、自警団に突き出してやりなよ」
「いいえ。そこまでは望んでいませんわ。彼、いいところのお坊ちゃんですもの」
「そうなのかい?」
身分を隠した公爵令息のストーカー被害を訴えかけたところで、握り潰されるのがオチだ。
私は両親との仲もあまりよくはないし、「なぜ問題を起こしたんだ」と怒鳴りつけては堪らない。
「寄付金を増やしますから、出禁にしてくださる?」
「もちろん。お嬢様には、いつも世話になっているからね。それで、そいつの名前はなんて言うんだい?」
私は行きつけの店の女性店主を味方につけて、胸元で両腕を組んで胸を張る。
その後、堂々と彼の名を宣言した。
「ダグラス・ゼヴァイツ。15歳の、青年ですわ」
店主は彼の名を聞いた瞬間、驚愕した。
ゼヴァイツ公爵家はこの国で知らぬものはいないとされるほどに有名で、代々王立騎士団の団長を輩出してきた名家だからだ。
「色恋沙汰かい?」
「まぁ、そんなところですわ」
王太子の婚約者にゼヴァイツ公爵家の嫡男がちょっかいをかけているなどと知られれば、格好の醜聞だ。
面白おかしく騒がれるのは容易に想像ができる。
――これも、円満な婚約破棄をするために必要な策の一環だ。
「それでは皆様、ごきげんよう。今後とも、ご贔屓に」
この作戦が吉と出るか凶と出るかは、もう少し先になってみなければわからない。
私はその日を楽しみに待ちわびながら、公爵家へ戻った。
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