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魔王覚醒
魔界へ
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「お迎えに上がりました、魔王様」
ハムチーズは再び、俺のことを魔王と呼んだ。魔王の生贄になりたくないと泣き叫んでいた皇女様は、俺は魔王と呼ばれることにどのような反応を示すのだろう。
俺はハムチーズから視線を逸らし、俺の腕にすっぽりと収まっている皇女様の顔色を窺う。
「ハレルヤ、魔王様なの?」
「詳しい話は、全部終わった後で聞くことになってる」
「ふぅん……」
皇女様は俺が魔王と呼ばれていてもあまり興味を抱かないらしく、胸元に頬を寄せた。俺は皇女様から恐れられなかったことにほっとしながら、恭しく頭を垂れるハムチーズに声をかける。
「かしこまる必要とか、ねぇぞ」
「いえ。我が主の許可なく、頭を上げるわけには参りません」
「気にしなくていいから、普通に接してくれ」
「……承知致しました」
「ねぇ、ハレルヤ。この人、だれ?」
「俺たちのこと、助けてくれた人だ」
「魔王様の花嫁候補、キサネ・チカ・マチリンズ皇女殿下ですね。私はエムリカ・ハムチーズ。同じく魔王様の、花嫁候補です」
「魔王様の……お嫁さん候補……」
ハムチーズの名を耳にした皇女様の機嫌が急降下したのは、それからすぐのことだった。
皇女様は、魔王の花嫁候補であると名乗ったハムチーズを睨み付けると、俺を見上げる。下を向けば皇女様の唇に口付けられそうな距離感だ。
アホか……。
唇同士をくっつけて、何になる。
俺は不機嫌そうな皇女様から視線を反らし、ハムチーズを見た。
「魔王様。魔界へ参りましょう」
「魔界って……あれだろ。魔物が住んでる所だよな?」
「人間もおります」
「居場所がなくなった奴か……」
皇女様似たようなもんだ。
この国では、闇の魔力や呪いをその身に宿す人間を迫害している。特に呪いを宿した人間の人生は悲惨だ。
人々に不吉を振りまくと嫌われた奴らは、魔王へ捧げる生贄と称して、魔界へ突き飛ばされる。そうして生贄に捧げられた人間達は死んだことになっているが、魔界で第二の人生を歩んでいたってことなんだろう。
「魔王様は、魔界を統べる王となるのです」
「王って言われてもな……」
俺は腕の中にいる皇女様を見下ろした。
この国の皇女様である彼女は、本来であれば魔界とは無縁の存在だ。
呪い持ちであることから迫害され、魔王の生贄として捧げられる運命を義務づられているが……。
ん?魔王の生贄として、捧げられる運命?
皇女様を一人、この国においていくのは不安だ。皇女様は呪いの紋章を全身に刻み込まれ生まれてきたが、闇の魔力を使役できるわけではない。
俺が守ってやらねぇと、大した抵抗もできずに殺されてしまう。
皇女様は俺に守ってもらうのが当然──だとは思ってねぇだろうが、自分の命よりも俺の危機に敏感だった。
ハムチーズに魔王と呼ばれ魔界に誘われている俺を不安そうに見つめる彼女は、俺と離れないように。強く胸元に縋りついている。
「魔王が人間の女を連れて行ったら、魔界の奴らはなんて言うと思う?」
「賛否両論が出るかと思いますが、魔界を統べる王たる魔王様のご意思は絶対です。魔王様の意にそぐわぬものには、罰を与えればいいだけのことでは?」
「……そういうもんか」
「魔王とは、そういうものです」
「ハレルヤ……。私を置いて、魔界に行くの……?」
皇女様が潤んだ瞳を俺に向ける。
今にも涙が、頬を伝いこぼれ落ちてしまいそうだ。
ほんとに泣き虫だな、皇女様は。
「置いていかねぇよ。どっちにしろ、皇女様は魔王の生贄に捧げられるんだろ」
「……うん」
「魔王が俺なら、捧げられんのが早いか遅いかの違いでしかねぇ」
「……ハレルヤ……?」
「地獄としか思えねぇ場所に、皇女様をおいていったりしねぇよ」
俺が一人で魔界へ顔を出そうもんなら、皇女様はボロ雑巾になるまで虐げられ、魔王の生贄として捧げられる。
サンドバッグにすらなれないなら、王族を名乗られるだけでも迷惑ってことだろう。俺が皇女様の手を離したら、酷い目に会うとわかってんのに。俺が皇女様を一人にするわけがねぇだろ。
皇女様は、斉藤正晴として愛していた女によく似ている。
ハレルヤ・マサトウレとしても、皇女様には俺を従者としてそばにおいてくれた恩があるからな。仇で返したりしねぇよ。
俺は斉藤正晴として、愛する女よりも先に息絶えた。今度こそ、長寿を全うするまで……俺は愛する人を、守ってみせる。
「一緒に来るだろ、皇女様」
「……うん!私も、ハレルヤと一緒に魔界へ行く!」
瞳に涙を浮かべていた皇女様は、俺の誘いを了承した。その喜びようは、宝くじで一等に当選したことが発覚した時に近い。
わーわーきゃーきゃー、頬を赤らめて喜ぶ皇女様は、とてもかわいらしくい。俺は皇女様の頭を優しく撫でつけ、背後にハムチーズを伴い魔界へ転移した。
ハムチーズは再び、俺のことを魔王と呼んだ。魔王の生贄になりたくないと泣き叫んでいた皇女様は、俺は魔王と呼ばれることにどのような反応を示すのだろう。
俺はハムチーズから視線を逸らし、俺の腕にすっぽりと収まっている皇女様の顔色を窺う。
「ハレルヤ、魔王様なの?」
「詳しい話は、全部終わった後で聞くことになってる」
「ふぅん……」
皇女様は俺が魔王と呼ばれていてもあまり興味を抱かないらしく、胸元に頬を寄せた。俺は皇女様から恐れられなかったことにほっとしながら、恭しく頭を垂れるハムチーズに声をかける。
「かしこまる必要とか、ねぇぞ」
「いえ。我が主の許可なく、頭を上げるわけには参りません」
「気にしなくていいから、普通に接してくれ」
「……承知致しました」
「ねぇ、ハレルヤ。この人、だれ?」
「俺たちのこと、助けてくれた人だ」
「魔王様の花嫁候補、キサネ・チカ・マチリンズ皇女殿下ですね。私はエムリカ・ハムチーズ。同じく魔王様の、花嫁候補です」
「魔王様の……お嫁さん候補……」
ハムチーズの名を耳にした皇女様の機嫌が急降下したのは、それからすぐのことだった。
皇女様は、魔王の花嫁候補であると名乗ったハムチーズを睨み付けると、俺を見上げる。下を向けば皇女様の唇に口付けられそうな距離感だ。
アホか……。
唇同士をくっつけて、何になる。
俺は不機嫌そうな皇女様から視線を反らし、ハムチーズを見た。
「魔王様。魔界へ参りましょう」
「魔界って……あれだろ。魔物が住んでる所だよな?」
「人間もおります」
「居場所がなくなった奴か……」
皇女様似たようなもんだ。
この国では、闇の魔力や呪いをその身に宿す人間を迫害している。特に呪いを宿した人間の人生は悲惨だ。
人々に不吉を振りまくと嫌われた奴らは、魔王へ捧げる生贄と称して、魔界へ突き飛ばされる。そうして生贄に捧げられた人間達は死んだことになっているが、魔界で第二の人生を歩んでいたってことなんだろう。
「魔王様は、魔界を統べる王となるのです」
「王って言われてもな……」
俺は腕の中にいる皇女様を見下ろした。
この国の皇女様である彼女は、本来であれば魔界とは無縁の存在だ。
呪い持ちであることから迫害され、魔王の生贄として捧げられる運命を義務づられているが……。
ん?魔王の生贄として、捧げられる運命?
皇女様を一人、この国においていくのは不安だ。皇女様は呪いの紋章を全身に刻み込まれ生まれてきたが、闇の魔力を使役できるわけではない。
俺が守ってやらねぇと、大した抵抗もできずに殺されてしまう。
皇女様は俺に守ってもらうのが当然──だとは思ってねぇだろうが、自分の命よりも俺の危機に敏感だった。
ハムチーズに魔王と呼ばれ魔界に誘われている俺を不安そうに見つめる彼女は、俺と離れないように。強く胸元に縋りついている。
「魔王が人間の女を連れて行ったら、魔界の奴らはなんて言うと思う?」
「賛否両論が出るかと思いますが、魔界を統べる王たる魔王様のご意思は絶対です。魔王様の意にそぐわぬものには、罰を与えればいいだけのことでは?」
「……そういうもんか」
「魔王とは、そういうものです」
「ハレルヤ……。私を置いて、魔界に行くの……?」
皇女様が潤んだ瞳を俺に向ける。
今にも涙が、頬を伝いこぼれ落ちてしまいそうだ。
ほんとに泣き虫だな、皇女様は。
「置いていかねぇよ。どっちにしろ、皇女様は魔王の生贄に捧げられるんだろ」
「……うん」
「魔王が俺なら、捧げられんのが早いか遅いかの違いでしかねぇ」
「……ハレルヤ……?」
「地獄としか思えねぇ場所に、皇女様をおいていったりしねぇよ」
俺が一人で魔界へ顔を出そうもんなら、皇女様はボロ雑巾になるまで虐げられ、魔王の生贄として捧げられる。
サンドバッグにすらなれないなら、王族を名乗られるだけでも迷惑ってことだろう。俺が皇女様の手を離したら、酷い目に会うとわかってんのに。俺が皇女様を一人にするわけがねぇだろ。
皇女様は、斉藤正晴として愛していた女によく似ている。
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俺は斉藤正晴として、愛する女よりも先に息絶えた。今度こそ、長寿を全うするまで……俺は愛する人を、守ってみせる。
「一緒に来るだろ、皇女様」
「……うん!私も、ハレルヤと一緒に魔界へ行く!」
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