殺人鬼が転生したら、魔王になるとか聞いてない。~愛する皇女を救い魔王となった俺は、前世で因縁のある奴らを始末し、世界征服を目指す~

桜城恋詠

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魔界<人間の村>

無から有を生み出せ

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「今まで、どうやって仕立屋を営んでいたんだよ」
「魔法使いは定期的に魔力を消耗しなければ、身体に異常をきたすので……。私が必要な素材を魔力で錬成していました」
「闇の魔力で、ドレスの素材を錬成したの?それって呪いのドレスだよね?大丈夫なの?」
「この村に暮らす住人は全員闇属性の使い手なので、問題ありません」
「そういうものかなぁ……?」

 闇の魔力は、人間の身体に悪影響を及ぼす。不吉な存在。
 呪われし忌み子として人間界では蔑まれてきた。
 闇の魔力を持って生まれた者同士を一緒にすると潰し合いを始めるから、闇の魔力を持つ子どもが生まれた地域に、複数の子どもが生まれることはないと言い伝えられていたはずだ。

 この村では人間界から迫害された闇の魔力を持って生まれた人間が、身を寄せ合い静かに暮らしている。
 人間が闇の魔力を持って生まれた子どもたちを、魔界へ追放する為にでっちあげた嘘の可能性が高いんだよな。これ。
 誰が考えたのか知らねぇけど……。

 やっぱり癌は、皇帝か……?

「おい、ババア」
「ババアじゃないと、何度言えばわかるんだい!?」
「皇女様のドレスを10着作る為に、必要な材料を記せ」
「10着だって?バカ言わないでおくれよ。タダ働きなんて、ごめんだね!」
「金は払う。言い値でいいぞ」
「私のドレスだけじゃなくて、ハレルヤの服も頼まなくちゃ!」
「俺の服は、後でもいいんだよ。大事なのは、皇女様の麗しい身体を覆い隠すドレスだ」
「私の醜い身体を、褒めてくれるなんて……!」

 皇女様は感動しているようだ。
 瞳を潤ませて俺に飛びつく皇女様といちゃついていれば、嗚咽が聞こえてくる。あのロリコン野郎、まだいたのかよ。
 てめぇが付け入る隙はねぇから。すっこんでろ。

「うぅ……。キサネ皇女殿下の幸せそうなお姿を確認できて、私は天にも登る気持ちです……」

 そのまま昇天しろよとは言えず、俺はババアが必要な素材を記載するまで、皇女様と戯れていた。

 ハムチーズから、俺が思い描いたものはなんでも実現できるって聞いているからな。
 業者レベルの材料を用意しろとババアから命令されたって、どうとでもなんだろ。

「ほんとにこの量、全部調達してくれんだろうね?」
「俺は魔王だぜ?不可能なんざねぇんだよ」
「大丈夫なのかい?この量は、スミリーズだって1回じゃ出せないよ」
「そうですね……。僕だったら3日に分けます」

 ロリコン野郎に格の違いを見せつける、いい機会じゃねぇか。
 俺はババアから差し出された紙を手に取り、皇女様を地面に下ろす。
 巻き込んじまったら困るからな。皇女様は地に足をつけると当然のように俺の腰へしがみつき、キラキラと期待を込めた様子で見つめてくる。

 その期待に、答えてやろうじゃねぇの。
 俺は目を瞑ると、右手の平を床へ掲げる。

 身体の奥底に秘めたる魔力へ呼びかけ、ドレスに必要な素材を生み出した。

「わぁ……!魔力ってすごいね!」

 皇女様は魔法みたいに何もない場所へ、大量の素材が生み出されたことに大はしゃぎしている。魔法みたいじゃなくて、魔法なんだけどな。
 床の上に山積みとなった素材を生み出しても、ピンピンしてるとか……魔王ってすげぇ。

「化け物じゃないか。どうなってんだい?」
「ハレルヤは魔王様だもん!このくらい、朝飯前だよ!」
「魔力を使う分には、まったく問題ねぇな」
「わーい。これで露出の激しい服を着なくてよくなるし、ハレルヤがもっとイケメンな魔王様になるね!お姉さん。私、ハレルヤとペアルックがいいなぁ~」
「どんなデザインがいいんだい」
「リクエスト、聞いてくれるの!?」

 皇女様は全身をすっぽりフードで覆い隠し、仮面で顔を隠したババアにも物怖じしなかった。
 キラキラと瞳を輝かせて、あれこれドレスのデザインを提案する皇女様がかわいくて辛い。
 おい、そこ。皇女様を見て涙を流すな。俺のもんだぞ?

「キサネ皇女殿下は、私の光です。必ず、私のものに……。二度と失敗を、繰り返すことはしません──」

 なんだって?
 二度と失敗を、繰り返すことはない?

 一度目の失敗が何を指すかによって、俺はこいつを放置しておくわけには行かなくなるんだよな。どうやって確かめる?
 そう。それが問題だ。

 ロリコン教師の名前を出して、ド直球に問い質すか?
 大量に魔力を消費した後だ。相手は闇の魔法使い。魔王になって1日目の俺が皇女様を守りながら、こいつを黙らせられるかどうかは怪しいもんだ。

 こいつは要注意人物として、マークしておくに留めるべきだ。
 勝てると確証を持ってから、喧嘩を売らねぇと後悔する。俺はこの魔界を統べる魔王だからな。魔王に敗北の二文字はねぇんだよ。

 絶対に勝てる勝負しか挑まねぇ魔王ってのも、それはそれで卑怯だけどな。
 今日だけは、見ないふりをしてやる。
 次、あのロリコン教師を連想させたら──皇女様の前に、二度と姿を見せられねぇようにしてやるからな。覚悟しとけよ。

「あんたら、時間あるかい?」
「時間、あるよ!ね?ハレルヤ!」
「おう。あんまり時間掛けると側近が乗り込んでくるからな。一度連絡はしてぇけど」
「時間があんなら、採寸させとくれ。一着ずつなら、今日中に渡せるよ」
「ほんと!?やったー!」

 皇女様は大喜び。採寸は男女禁制だと追い出されそうになったが、俺の腰に引っ付いたまま離れたがらない皇女様と、絶対離れないとババアへ宣言をしたことで、どうにか目を瞑ることによって採寸の同行を許された。

「キサネ皇女殿下。お会いできて、良かったです」
「スミリーズ先生、ばいばーい!」

 熱っぽい視線でロリコン野郎が皇女様の姿を見ていることなど一切気にした様子のない彼女は、屈託のない笑顔でロリコン野郎へ別れを告げると、ロリコン野郎が仕立屋に戻ってくることがないように内鍵を締める。
 用意周到だな。笑顔を浮かべていても、内心では……そんな感じか。
 俺は皇女様の心がロリコン野郎へ奪われることなく別れたことに安堵しながら、ゆっくりと目を瞑った。
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