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三人目の花嫁
ムースの正体
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「誰が何も出来ない仕立屋のババアだって?」
「お姉さん。その紋章──」
うわ、マジかよ。
声はどう聞いても30代から40代のババアにしか聞こえねぇのに。
仮面とマントを取ればツリ目の美女とか聞いてねぇぞ。俺の好みじゃねぇけど。
ダボダボのマントで覆い隠していた豊満な胸元が真っ先に視界へ入り込み、俺は慌てて皇女様へ視線を戻す。
「詐欺じゃねぇか……」
「なんだって?」
「ハレルヤは、おっきい方がいいんだ……」
「俺はそこのデカさは気にしてねぇからな?皇女様はまだ成長途中だし、いくらでも──」
「ドサクサに紛れて、変な妄想を口にするんじゃないよ!」
「うっせぇな、ババ……」
やべぇな。
もうババアって、呼べなくなっちまってるじゃねぇか。
あいつの名前、なんだっけ?ムース?ハムチーズと言い、変な名前の奴らばっかだな。
「あんたの名前、ムースだったか」
「アゼスト厶・ムーストだ!」
「大体合ってればいいだろ。ババアと呼ばれるよりはマシじゃねぇか」
「このクソガキが……あたいの姿を見て、胸がでかい以外に言うことはないのかい!?」
茶髪、紫の瞳。
泣きぼくろの他に、指摘すべき特徴的な箇所?
触れたくなかったんだよ。察しろ。
「アゼリアの花……?」
俺が現実逃避をしていれば、皇女様がそれを指摘した。
ムースの全身には、皇女様やハムチーズのように、特徴的な紋章が刻み込まれている。
俺にはなにかの花を象っていることしか理解できねぇけど、皇女様はすぐにそれがアゼリアの花であると指摘した。
さすが皇女様。レース編むか本を読んで暇つぶしをするしかなかっただけはあるな。
「キサネは博識だね。そうさ。あたいの身体に刻まれた紋章は、アゼリアの花を象ってる。元々は妹のもんだったけど、妹が息を引き取った瞬間に、あたいの身体に刻み込まれた」
「じゃあ、ムースお姉さんが……。三人目の女狐……」
「女狐?馬鹿言うんじゃないよ。誰がこんなクソガキと結婚したいなんて思うんだい。あんたは、キサネのもんだろ」
「わかってれば、いいけどな」
「年下と婚姻なんてごめんだね。あたいは包容力のある、年上の男が──」
「ムースお姉さん、年上のお兄さんがいいの?」
「恋愛適齢期の人間なんざ、滅多に魔界へ落ちてこないからね。あたいが誰かと一緒になることはないよ。一生独身。気楽なもんさ」
魔王の花嫁レースは、辞退するってことでいいんだよな?
俺はムースが参戦してくることがないと知り、ほっと胸を撫で下ろす。
俺は皇女様しか眼中にねぇからな。
ハムチーズも皇女様との仲が拗れたら言い寄ってきそうな雰囲気ではあるけど、今のところは安全だ。
まだ見ぬ魔王の花嫁候補は、残り2人。
ハムチーズの話じゃ、最大3人から5人って話だったからな。このまま打ち止めになることを願うしかねぇ。
「あんたが男捕まえて、女としての幸せを掴み取る、取らないは俺に関係ねぇ。話を元に戻すぞ」
「はーい。レースとドレスの話だよね?」
「おう。皇女様とあんたの間に、金銭のやり取りは発生させなくていいぞ」
「キサネに、無一文で労働させるのかい!?」
「あんたが皇女様の作ったレースを使ったドレスを完成させて、人間界で売り捌くことで金銭を得ようって話だ。人間から巻き上げた金は、あんたが管理して皇女様に渡してくれ」
「あたいが管理って……。1着20万はするドレスをなんだと思っているんだい。そんな大金持ってたら、命がいくつあってもたりないよ!」
個人で管理できるような金額じゃねぇよな。
強盗に押し入られて、タンス預金を根こそぎかっぱらわれたら終わりだ。
ムースはタダでやられたりはしねぇだろうけど、不安になるのはわかる。魔界にも銀行があるみてぇだけど、人間の村で暮らすムースが、信頼して大金を預けられるかは、また別の話だからな……。
「人間界でドレスを、売り捌いてる話なんてしなければいいだけじゃねぇか」
「隠そうとしたって、秘密はどこからか漏れていくものさ。あたいの命、きちんと保証してくれるんだろうね」
「魔王と懇意にしてるやつに、手を出す輩がいるのか?」
「いるかもしれないから、怯えてんだろ」
「ムースお姉さんも、魔城で暮せばいいんじゃないの?」
俺たちが言い争っていると、皇女様が首を傾げながら提案して来た。
花嫁候補たちは今、全員が魔城で暮らしてる。
ムースは紋章を仮面やマントで生活することに慣れ切ってるみたいだけどな。
魔城に来れば、紋章を隠すために仮面やマントを身に着ける必要はない。
絶対に安全な場所だからな。
「そうしよう!仮面とマントを脱ぎ捨てたら、すぐに花嫁候補だってわかるもん。誰も文句なんて言わないよ!」
皇女様はムースとずっと一緒だと大喜びしているが、魔城には魔族が頻繁に出入りしている。
魔族を嫌悪しているからこそ人間の村で暮らしているムースが、皇女様の申し出に了承を返すとは思えねぇんだけど……。
「お姉さん。その紋章──」
うわ、マジかよ。
声はどう聞いても30代から40代のババアにしか聞こえねぇのに。
仮面とマントを取ればツリ目の美女とか聞いてねぇぞ。俺の好みじゃねぇけど。
ダボダボのマントで覆い隠していた豊満な胸元が真っ先に視界へ入り込み、俺は慌てて皇女様へ視線を戻す。
「詐欺じゃねぇか……」
「なんだって?」
「ハレルヤは、おっきい方がいいんだ……」
「俺はそこのデカさは気にしてねぇからな?皇女様はまだ成長途中だし、いくらでも──」
「ドサクサに紛れて、変な妄想を口にするんじゃないよ!」
「うっせぇな、ババ……」
やべぇな。
もうババアって、呼べなくなっちまってるじゃねぇか。
あいつの名前、なんだっけ?ムース?ハムチーズと言い、変な名前の奴らばっかだな。
「あんたの名前、ムースだったか」
「アゼスト厶・ムーストだ!」
「大体合ってればいいだろ。ババアと呼ばれるよりはマシじゃねぇか」
「このクソガキが……あたいの姿を見て、胸がでかい以外に言うことはないのかい!?」
茶髪、紫の瞳。
泣きぼくろの他に、指摘すべき特徴的な箇所?
触れたくなかったんだよ。察しろ。
「アゼリアの花……?」
俺が現実逃避をしていれば、皇女様がそれを指摘した。
ムースの全身には、皇女様やハムチーズのように、特徴的な紋章が刻み込まれている。
俺にはなにかの花を象っていることしか理解できねぇけど、皇女様はすぐにそれがアゼリアの花であると指摘した。
さすが皇女様。レース編むか本を読んで暇つぶしをするしかなかっただけはあるな。
「キサネは博識だね。そうさ。あたいの身体に刻まれた紋章は、アゼリアの花を象ってる。元々は妹のもんだったけど、妹が息を引き取った瞬間に、あたいの身体に刻み込まれた」
「じゃあ、ムースお姉さんが……。三人目の女狐……」
「女狐?馬鹿言うんじゃないよ。誰がこんなクソガキと結婚したいなんて思うんだい。あんたは、キサネのもんだろ」
「わかってれば、いいけどな」
「年下と婚姻なんてごめんだね。あたいは包容力のある、年上の男が──」
「ムースお姉さん、年上のお兄さんがいいの?」
「恋愛適齢期の人間なんざ、滅多に魔界へ落ちてこないからね。あたいが誰かと一緒になることはないよ。一生独身。気楽なもんさ」
魔王の花嫁レースは、辞退するってことでいいんだよな?
俺はムースが参戦してくることがないと知り、ほっと胸を撫で下ろす。
俺は皇女様しか眼中にねぇからな。
ハムチーズも皇女様との仲が拗れたら言い寄ってきそうな雰囲気ではあるけど、今のところは安全だ。
まだ見ぬ魔王の花嫁候補は、残り2人。
ハムチーズの話じゃ、最大3人から5人って話だったからな。このまま打ち止めになることを願うしかねぇ。
「あんたが男捕まえて、女としての幸せを掴み取る、取らないは俺に関係ねぇ。話を元に戻すぞ」
「はーい。レースとドレスの話だよね?」
「おう。皇女様とあんたの間に、金銭のやり取りは発生させなくていいぞ」
「キサネに、無一文で労働させるのかい!?」
「あんたが皇女様の作ったレースを使ったドレスを完成させて、人間界で売り捌くことで金銭を得ようって話だ。人間から巻き上げた金は、あんたが管理して皇女様に渡してくれ」
「あたいが管理って……。1着20万はするドレスをなんだと思っているんだい。そんな大金持ってたら、命がいくつあってもたりないよ!」
個人で管理できるような金額じゃねぇよな。
強盗に押し入られて、タンス預金を根こそぎかっぱらわれたら終わりだ。
ムースはタダでやられたりはしねぇだろうけど、不安になるのはわかる。魔界にも銀行があるみてぇだけど、人間の村で暮らすムースが、信頼して大金を預けられるかは、また別の話だからな……。
「人間界でドレスを、売り捌いてる話なんてしなければいいだけじゃねぇか」
「隠そうとしたって、秘密はどこからか漏れていくものさ。あたいの命、きちんと保証してくれるんだろうね」
「魔王と懇意にしてるやつに、手を出す輩がいるのか?」
「いるかもしれないから、怯えてんだろ」
「ムースお姉さんも、魔城で暮せばいいんじゃないの?」
俺たちが言い争っていると、皇女様が首を傾げながら提案して来た。
花嫁候補たちは今、全員が魔城で暮らしてる。
ムースは紋章を仮面やマントで生活することに慣れ切ってるみたいだけどな。
魔城に来れば、紋章を隠すために仮面やマントを身に着ける必要はない。
絶対に安全な場所だからな。
「そうしよう!仮面とマントを脱ぎ捨てたら、すぐに花嫁候補だってわかるもん。誰も文句なんて言わないよ!」
皇女様はムースとずっと一緒だと大喜びしているが、魔城には魔族が頻繁に出入りしている。
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