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三人目の花嫁

ムースの敵は皇女様の敵

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「伝えなかったら、どうなるんだい」
「エムリカさんは、僕たち人間の敵になります」
「そうかい。あたいはあんたとはじめて出会った時から、ウマが合わないと思ってたんだ。いつ敵対しても、いいけどね……」
「エムリカさんに、僕と互角に渡り合える魔力はないでしょう」
「甘く見てると、痛い目見るよ」

 ムースは自身の身体に、魔王の花嫁である証が刻まれていることを隠している。
 ロリコン野郎は闇の魔法使いとして名を馳せた奴だって皇女様が言ってた。
 魔力の流れを探れば、ムースが魔王の花嫁なのは隠しきれねぇ気がするけど──仮面とローブで身体を覆い隠すと、ムースの魔力が感知できないんだよな。
 普通の人間にしか見えなくなるよう、認識阻害魔法機能でもついてんのか?

「スリミーズ先生、お姉さんの敵になるの?」
「エムリカさんの態度次第では……その可能性が高いです」
「そっかぁ。じゃあ、スリミーズ先生は私の敵だね!」
「キサネ皇女殿下?」

 ロリコン野郎は、皇女様が自分の味方をすると信じ切っていたようだ。
 はっ。ざまぁねぇな。
 皇女様を物欲しそうな目で見つめてくるやつに、皇女様がありがたがってすり寄るわけねぇだろ?
 皇女様には俺がいるから、てめぇが入り込む隙間なんざねぇんだよ。引っ込んでろ。

「だって、ムースお姉さんの敵になるんでしょ?私はスリミーズ先生よりも、お姉さんとハレルヤが大事だもん!お姉さんとハレルヤを守るために私が先生と敵対するのは、当然のことだよね?」
「おう。何も疑う余地はねぇな」
「キサネ……あんた、ほんとにいい子だね……」
「えへへ~。だって私、ムースお姉さんの妹分だもん!お姉さんがいい人なんだから、いい子に決まってるよ!」

 俺の皇女様がかわいくて辛い。
 なんでこんなにかわいいんだよ……。
 背中に天使の羽根が生えてんじゃねぇの?
 なんで魔界にいるんだよ。日の当たるところで、大切に慈しまれるべきだろ。

 権力だけは無駄にあるクソ見てぇな両親の元に生まれちまったから、慈しまれず魔界にいるんだけどさ。
 日の当たる場所で愛されなかった分だけ、俺がたくさん愛してやるからな。
 あー。抱きしめてぇ。

「……僕が敵対したら、キサネ皇女殿下は笑いかけてくれない……それは大変由々しき事態です」
「攻撃してくるなら、私とハレルヤが容赦しないからね!お姉さん、はやく行こー!」
「き、キサネ皇女殿下!お待ち下さい!僕はあなたの味方です!」

 このロリコン、チョロすぎんだろ……。

 皇女様の意思に反することなどしない、忠実な犬のように見えて、皇女様が見えない所で邪魔な人間を始末するタイプの人間だろ。
 ムースを一人にしたらやばそうだな。
 ある意味で、皇女様の提案は天才だったかもしれねぇ。
 流石は俺の皇女様。思いやりがあって心優しい花嫁は、何をしたって天使に見える。

「ムースお姉さんと敵対するって先に宣言したのはスリミーズ先生だよね?私、そんな簡単に敵側へ回ろうとした人を、信じないよ?」
「ど、どうか……!定期的に、僕へ会いに来てください!」
「なんで?」

 皇女様は屈託のない笑顔で問いかけた。

 俺は笑いを堪えるのに必死だ。ムースなんか、皇女様にもっとやれと言わんばかりに握りしめる手の力を強め、鼻で笑ってる。

「スリミーズ先生に会えるとは思えなかったから驚いたけど、私がわざわざ人間の村に顔を出して、スリミーズ先生に会う理由がないよ」
「僕はキサネ皇女殿下に、お会いしたいです……!」
「私に会いたいって気持ちは否定しないけど、私へ会いにこいって命令するのは違うよね。私を誰だと思ってるの?」
「殿下……!」
「私は魔王の花嫁だよ」

 俺が皇女様呼びしても、気にした素振りはねぇけど……興味のない人間から皇女呼ばわりされるのを嫌がってるっぽいな。
 ロリコン野郎を無表情で見つめた皇女様は、ロリコン野郎が膝をつく姿を一瞥すると、俺たちに迂回を促してそのまま魔城へ繋がる道を歩いていく。

 俺たちが項垂れるロリコン野郎を、振り返ることはなかった。

「ざまぁないね」
「先に喧嘩を売ってきたのはあっちだよ?ムースお姉さんと私がどこに行こうが、あの人には関係ないよね」
「ちょうどいいタイミングだったな。あのままムースが村に残ってたら、死んでたかもしれねぇぞ」
「タダで殺されるわけにはいかないさ。あたいは襲われたら禁呪に手を染めてでも、相打ちに持ち込むよ」
「ムースお姉さん、死んじゃやだ……!」
「キサネがあたいを魔城に誘ってくれたお陰で、生きながらえたかもしれない命さ。この命は、あんたの為に使うよ。安心しな」

 ほんとにこいつら、仲がいいな。

 俺はロリコン野郎が襲い掛かってくる可能性を考慮して警戒しながら、魔城へ向かって歩みを進める。

 皇女様とムースは、仲良くなった。
 問題は、ハムチーズとの相性か……。

 皇女様は今でこそハムちゃんなんて呼んでるが、ハムチーズのことをあまりよく思っていない。
 隙を見せれば、いつでも俺を奪おうとする女狐扱いしてるくらいだからな。ムースがハムチーズを嫌えば、皇女様は姉と慕うムースの味方をするだろう。

 3人の女が2対1に別れると──めんどくせぇな。

 俺は3人が魔城で仲良く暮らしてくれるよう、願うしかなかった。
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