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2章<人魚とロリコン>

魔城へお誘い

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 「ロリコン野郎のことは、皇女様だって嫌いだろ?」
「うん。大嫌い」

 皇女様はロリコン野郎と再会した当初はどうでもいい存在として認識してたんだけどな…。5年もしつこく皇女様へ会おうとしてきたら、嫌いにもなるわな。嫌がってんだから関係を持とうとすんなよ。
 そういう所が嫌われてんだぞ。面と向かっても伝わらねぇから、余計に嫌われるんだよな。俺の手をわずらわせるなって、皇女様は相当キレてた。
 キレた皇女様も可愛いのは確かだけど、感想を抱いて良いのは俺だけなんだよなぁ…。ロリコン野郎はすっこんでろ。マジで。

「闇魔法で有名だったんだよな、あいつ」
「うん。皇帝に危険視されたんだって!」
「それが事実かはわかんねぇけど…。人間を魔族に生まれ変わらせるって、やべぇだろ」
「そっくりさんの話が事実なら、私達は魔族の血が四分の一流れてる。魔族の血を活性化させれば、不可能でもないんじゃないかなぁ?」

 成功例がここにいるんだから、疑う余地はねぇよな。
 皇女様は、性格が待兼によく似てる。
 そっくりさんが使い物にならなくなれば──あいつらは、皇女様に狙いを定めるだろ。

 あいつらを満足させる生贄として、そっくりさんをあいつらの所へ突き飛ばすのは簡単だ。あいつらがどちらか一人だけ魔界で暮らしていればそっくりさんの幸せを犠牲にすべてが丸く収まったけどな…。
 野郎2人に女一人の組み合わせじゃ、新たな惨劇を生むだけだ。
 皇女様の身に危険が及ぶくらいなら、そっくりさんを生贄に捧げるなんて考えは、捨てるべきだろうな。

「どうやったのかは興味ねぇから、どうでもいいか。俺も、あんたが名前を出した奴らに思うことがあるんだよ。ちょうどいいから、魔界から追い出してやるよ」
「ほ、本当…ですか…?」
「おう。隠れて暮らさなくてもよくなるようにしてやる。あんたがここで暮らしているのは、理由でもあんの?」
「チーズちゃんが…木を隠すなら、森の中だって…」
「あんたさえ良ければ、魔城で匿ってやってもいいけど」
「魔城…?」

 そっくりさんは魔界に落とされてからかなり早い段階で社会と隔絶されているらしく、魔城がどんな所かを知らなかった。
 魔城の土地は、恐ろしく広い。
 大きな池を作ってやれば、今まで通りの生活が営めるだろ。セキュリティ面を考えれば、水槽の方がいいかもしれねぇけど。
 水槽はビジュアル的に…実験対象、ペットって感じがして、窮屈だからな。

「チーズちゃんに、聞かないと…」
「自分で決めればいいでしょ」
「皇女様…」
「私の姉ならどっちも皇女だよね?私はハレルヤの特別でしょ?そっくりさんとは明確な違いがあるんだから!」

 皇女様は、俺がそっくりさんを魔城へ案内すれば、不機嫌になった。
 まぁ、そうだよな。魔城で暮らしてるのは魔王の花嫁候補達だけだ。紋章が刻み込まれていないそっくりさんを魔城へ連れて行くのは抵抗があるんだろう。

 元人間の魔族だしな…。人魚姫の童話みたいに、悪い魔女に頼めば人間の足が生えてくるなら脅威だけど…そんな様子はなさそうだ。
 下半身が魚の尾ひれである限り、自由に彼女は移動ができない。俺を誘惑してくることだってないだろ。

「ハムチーズは、あんたと俺たちが会うことに難色を示していた。今はキフロ・アジェシスの足止めを買って出てる。ロリコン野郎の方もあんたを狙ってるなら、こっちに来る可能性が高い」
「ひ…っ」
「決断は早めにするべきだな。死にたくなければ」
「ぅ…うう…。でも…」
「ハレルヤ、魔王様みたいでかっこいいー!」

 ロリコン野郎の名前を出せば、そっくりさんは喉を引きつらせて怯えた。ヒレを動かして距離を取るそっくりさんと俺たちの間に、距離ができる。

 皇女様はそっくりさんなんてどうでもいいのか、俺がかっこいいとキャーキャー悲鳴を上げていた。
 ほんと、皇女様は天真爛漫だな。俺は皇女様が可愛くてしょうがなくて、そっくりさんから目を離す。
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