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2章<人魚とロリコン>
皇女様に対する違和感
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パチリと音が鳴れば、愛おしい皇女様が目の前に──
「びしょ濡れじゃないか」
「お前かよ……」
俺たちの寝室になんでムースがいるんだと落胆すれば、背中を叩かれた。
寝室にはムースしかおらず、皇女様とそっくりさんの姿が見当たらない。
「キサネは?」
「人魚と一緒に風呂場だよ。姉妹水入らずで、話がしたいんだってさ」
「何だそれ」
姉妹水入らずって……。そんなに仲いい姉妹じゃなかったろ。
あいつら、二人きりにしたらまずくないか?
どう考えたってまずい。皇女様はそっくりさんを警戒していた。そっくりさんは皇女様を妹として認めているようだったが、惨劇が起きていてもおかしくねぇ。
「何で二人にすんだよ!?」
「なんだい、大声出して。大袈裟だね……」
「大袈裟じゃねぇし!」
ムースは姉妹の事情をよく知らねぇから、呑気なこと言ってられていいよな!?
俺はダッシュで風呂場へ向かい、扉を開ける前に声を掛けた。
「キサ……っ」
「ハレルヤー!お帰り!」
「うわ!?」
ドタドタと床を蹴る足音を聞き分けた皇女様は、声を掛けて俺が扉を開けるよりも先に、内側からドアを開けて勢いよくタックルしてきた。5年前のつもりでタックルされたら、当然俺は勢いを殺しきれず──背中を床に叩きつけ、皇女様に押し倒される。
「痛ってぇ……」
「ハレルヤ!大丈夫だった?怪我は?ずぶ濡れだよ!?水浴びしたの?」
「なんともねぇけど……」
「よかった!あのね、私、ハレルヤと二人きりで、たくさんお話したいことがあるんだ!いいかなぁ?」
「キサネとなら、いつだって話したいけどさ」
「やったー!」
「お前、そっくりさんはどうした?」
ニコニコごきげんな笑顔を浮かべていた皇女様の瞳から、光が薄れた。
あ。これ、やべぇやつだ。
俺は皇女様の地雷を踏んだことに気づいて慌てるが、皇女様は瞳を潤ませて小首を傾げる。
「ハレルヤは……私よりも、あの顔が好きなの……?」
「まさか!俺はキサネの全部が好きだ。あいつは待兼のそっくりさんなだけで、本人じゃねぇし」
「うん。そうだよね?ハレルヤとして私は、10年間一緒に暮らしてきたんだもん。過去の私よりも、今の私がいいに決まってるよね?」
やべぇモードに入ったかと怯えていれば、皇女様は俺から望んだ言葉を引き出せたことに喜んで機嫌を取り戻した。俺はほっとしながら、皇女様の言葉に不穏な単語が混ざっていることに気づく。
『過去の私よりも、今の私がいいに決まってるよね?』
おい。今の言葉は、流石に聞き捨てなんねぇぞ。
過去の私が皇女様の幼少期を指すならいい。けど、元はと言えば、そっくりさんの顔が待兼そっくりだって話から始まってるわけで──前世の可能性だって、あるよな?
まさか、皇女様は……。
「ハレルヤ。早くベッドに行こ!二人きりで、大の字に寝転んでお話するの!」
「ちょっと待てよ。そっくりさんが、これからどうやって生活していくかを考えなきゃなんねぇだろ。話はそれからだ」
「ええ……。やだ。今すぐハレルヤと二人きりでお話したい……」
「ほら。抱き上げてやるから、ちょっとだけ我慢しろ。な?」
「うー。ハレルヤの意地悪~」
皇女様の腰を力づくで浮かせた俺は体制を整え起き上がると、どうにか立ち上がって歩き出す。風呂場へ向かう扉は、ずっと開け放たれたままだ。俺たちの会話は、彼女の耳にも入っていることだろう。
彼女が物言わぬ躯になっていない限りは、だけどな。
「びしょ濡れじゃないか」
「お前かよ……」
俺たちの寝室になんでムースがいるんだと落胆すれば、背中を叩かれた。
寝室にはムースしかおらず、皇女様とそっくりさんの姿が見当たらない。
「キサネは?」
「人魚と一緒に風呂場だよ。姉妹水入らずで、話がしたいんだってさ」
「何だそれ」
姉妹水入らずって……。そんなに仲いい姉妹じゃなかったろ。
あいつら、二人きりにしたらまずくないか?
どう考えたってまずい。皇女様はそっくりさんを警戒していた。そっくりさんは皇女様を妹として認めているようだったが、惨劇が起きていてもおかしくねぇ。
「何で二人にすんだよ!?」
「なんだい、大声出して。大袈裟だね……」
「大袈裟じゃねぇし!」
ムースは姉妹の事情をよく知らねぇから、呑気なこと言ってられていいよな!?
俺はダッシュで風呂場へ向かい、扉を開ける前に声を掛けた。
「キサ……っ」
「ハレルヤー!お帰り!」
「うわ!?」
ドタドタと床を蹴る足音を聞き分けた皇女様は、声を掛けて俺が扉を開けるよりも先に、内側からドアを開けて勢いよくタックルしてきた。5年前のつもりでタックルされたら、当然俺は勢いを殺しきれず──背中を床に叩きつけ、皇女様に押し倒される。
「痛ってぇ……」
「ハレルヤ!大丈夫だった?怪我は?ずぶ濡れだよ!?水浴びしたの?」
「なんともねぇけど……」
「よかった!あのね、私、ハレルヤと二人きりで、たくさんお話したいことがあるんだ!いいかなぁ?」
「キサネとなら、いつだって話したいけどさ」
「やったー!」
「お前、そっくりさんはどうした?」
ニコニコごきげんな笑顔を浮かべていた皇女様の瞳から、光が薄れた。
あ。これ、やべぇやつだ。
俺は皇女様の地雷を踏んだことに気づいて慌てるが、皇女様は瞳を潤ませて小首を傾げる。
「ハレルヤは……私よりも、あの顔が好きなの……?」
「まさか!俺はキサネの全部が好きだ。あいつは待兼のそっくりさんなだけで、本人じゃねぇし」
「うん。そうだよね?ハレルヤとして私は、10年間一緒に暮らしてきたんだもん。過去の私よりも、今の私がいいに決まってるよね?」
やべぇモードに入ったかと怯えていれば、皇女様は俺から望んだ言葉を引き出せたことに喜んで機嫌を取り戻した。俺はほっとしながら、皇女様の言葉に不穏な単語が混ざっていることに気づく。
『過去の私よりも、今の私がいいに決まってるよね?』
おい。今の言葉は、流石に聞き捨てなんねぇぞ。
過去の私が皇女様の幼少期を指すならいい。けど、元はと言えば、そっくりさんの顔が待兼そっくりだって話から始まってるわけで──前世の可能性だって、あるよな?
まさか、皇女様は……。
「ハレルヤ。早くベッドに行こ!二人きりで、大の字に寝転んでお話するの!」
「ちょっと待てよ。そっくりさんが、これからどうやって生活していくかを考えなきゃなんねぇだろ。話はそれからだ」
「ええ……。やだ。今すぐハレルヤと二人きりでお話したい……」
「ほら。抱き上げてやるから、ちょっとだけ我慢しろ。な?」
「うー。ハレルヤの意地悪~」
皇女様の腰を力づくで浮かせた俺は体制を整え起き上がると、どうにか立ち上がって歩き出す。風呂場へ向かう扉は、ずっと開け放たれたままだ。俺たちの会話は、彼女の耳にも入っていることだろう。
彼女が物言わぬ躯になっていない限りは、だけどな。
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