66 / 95
ヤンデレ覚醒
待兼と皇女様
しおりを挟む
「お姉ちゃんの顔を見て、待兼って呼んだよね」
ベッドに大の字で寝転がった皇女様は、さっそく本題に入った。
待兼なんて聞き慣れない名字はイントネーションがおかしくなるはずなのに、皇女様のイントネーションは完璧だ。
やっぱりそうなんだろうなと当たりを付けながら、俺は皇女様の問いかけを肯定する。
「おう。そうだな」
「待兼って名前が、ハレルヤから出てくるなら……私。期待しても、いい?」
「俺は……そうじゃなかったらいいと思ってる」
俺が皇女様の期待を裏切るような言い動をすれば、露骨に皇女様が顔を顰めた。
まぁ、当然そうなるよな。
これには深い理由があるんだよ。それはちゃんと伝えないと、まずいか……。
「私のこと、嫌いだから……?」
「キサネが待兼だったら……あの後、死んでるんだろ」
「……うん」
「俺は、待兼に……俺がいなくなった世界でも、長寿を全うしてほしかった……」
この言葉を吐き出すには、勇気がいる。
俺の願いは、待兼が笑って過ごしていけるようになることだ。
俺がいなくたって、待兼は明るく元気で、たくさんの人に愛され育っていく。
そう信じていたのに。皇女様がここにいるってことは、俺の後を追いかけて来たってことだろ?
それは俺の、望んでいたことじゃねぇ。
「ずるいよ」
皇女様は、俺をずるいと称した。
ハレルヤ・マサトウレとして生まれ変わった俺ではなく、斎藤正晴へ伝えられなかった言葉を、これから俺に伝えようとしている。
「私の幸せを願って、死刑になるなんて……正晴くんはずるい。置いていかれた私が、別の人と幸せになろうと思うわけがないよ。私はそんな尻軽じゃない。正晴くんだから、好きだったの。結婚して、子どもと一緒に、家族皆で暮らす夢を叶えるために──私、頑張ったんだよ?」
皇女様の瞳から光が薄れた時点で嫌な予感はしていた。
これはやばいやつだと覚悟を決めて、俺が口を挟む前に──皇女様は語りだす。
俺が死んだ後、彼女が体験した出来事を。
「あのね。ある日付に死んだら、来世で願いが叶うんだって。噂が流れていたんだ」
「噂……?」
「そうだよ。その日は集団テロで、たくさんの人が死んだの!」
明るく元気に宣言する内容じゃないだろ……。
集団テロって、人がたくさん死んでんだよな?
まさか……その噂を信じて、俺の所までやってきたのか……?
「最初は信じてなかったけど、首謀者さんから直接お話を聞いてね、信じて見ることにしたんだぁ。正晴くんがいなくなった世界なんて、生きている意味はないもんね?どうせ死ぬんだったら、大規模テロの混乱に乗じて、正晴くんを殺した奴らが嫌がることをしようと思ったの」
「俺を殺した奴って……」
「警察の人!正晴くんが捕まってた場所って、凶悪犯罪者が山程いたの。殺人鬼のみんなを牢屋から出してあげたんだ。正晴くんの絞首刑執行が、あの日までされなかったら──私は追いかけて来る必要なんか、なかったのに」
皇女様は頬を膨らませてぷりぷり怒っているが、可愛く怒るような話じゃないだろ。
自分が何言ってんのか、わかってんのかよ。
牢屋から殺人鬼を出したって、思い切り犯罪じゃねーか。よく無事だったな。
無事じゃなかったからここにいるんだろうけどさ。
なんでそんなことしたんだよ。なぁ。なんで……。
「正晴くん、泣かないで」
「なんで、追いかけてくるんだよ……」
「正晴くんが大好きだから」
「なんで、犯罪なんてしてんだよ……」
「正晴くんが犯罪者だからかな?私を守る為に殺しただけなのに、酷いよね。正晴くんの敵はちゃんと取ってきたから、安心して!正晴くんを殺した警官は精神を病んじゃってたから、息の根を止めるのは、すごく簡単だったよ」
ああ、そうか。そういうことか。
待兼は、天使なんかじゃなかった。
ベッドに大の字で寝転がった皇女様は、さっそく本題に入った。
待兼なんて聞き慣れない名字はイントネーションがおかしくなるはずなのに、皇女様のイントネーションは完璧だ。
やっぱりそうなんだろうなと当たりを付けながら、俺は皇女様の問いかけを肯定する。
「おう。そうだな」
「待兼って名前が、ハレルヤから出てくるなら……私。期待しても、いい?」
「俺は……そうじゃなかったらいいと思ってる」
俺が皇女様の期待を裏切るような言い動をすれば、露骨に皇女様が顔を顰めた。
まぁ、当然そうなるよな。
これには深い理由があるんだよ。それはちゃんと伝えないと、まずいか……。
「私のこと、嫌いだから……?」
「キサネが待兼だったら……あの後、死んでるんだろ」
「……うん」
「俺は、待兼に……俺がいなくなった世界でも、長寿を全うしてほしかった……」
この言葉を吐き出すには、勇気がいる。
俺の願いは、待兼が笑って過ごしていけるようになることだ。
俺がいなくたって、待兼は明るく元気で、たくさんの人に愛され育っていく。
そう信じていたのに。皇女様がここにいるってことは、俺の後を追いかけて来たってことだろ?
それは俺の、望んでいたことじゃねぇ。
「ずるいよ」
皇女様は、俺をずるいと称した。
ハレルヤ・マサトウレとして生まれ変わった俺ではなく、斎藤正晴へ伝えられなかった言葉を、これから俺に伝えようとしている。
「私の幸せを願って、死刑になるなんて……正晴くんはずるい。置いていかれた私が、別の人と幸せになろうと思うわけがないよ。私はそんな尻軽じゃない。正晴くんだから、好きだったの。結婚して、子どもと一緒に、家族皆で暮らす夢を叶えるために──私、頑張ったんだよ?」
皇女様の瞳から光が薄れた時点で嫌な予感はしていた。
これはやばいやつだと覚悟を決めて、俺が口を挟む前に──皇女様は語りだす。
俺が死んだ後、彼女が体験した出来事を。
「あのね。ある日付に死んだら、来世で願いが叶うんだって。噂が流れていたんだ」
「噂……?」
「そうだよ。その日は集団テロで、たくさんの人が死んだの!」
明るく元気に宣言する内容じゃないだろ……。
集団テロって、人がたくさん死んでんだよな?
まさか……その噂を信じて、俺の所までやってきたのか……?
「最初は信じてなかったけど、首謀者さんから直接お話を聞いてね、信じて見ることにしたんだぁ。正晴くんがいなくなった世界なんて、生きている意味はないもんね?どうせ死ぬんだったら、大規模テロの混乱に乗じて、正晴くんを殺した奴らが嫌がることをしようと思ったの」
「俺を殺した奴って……」
「警察の人!正晴くんが捕まってた場所って、凶悪犯罪者が山程いたの。殺人鬼のみんなを牢屋から出してあげたんだ。正晴くんの絞首刑執行が、あの日までされなかったら──私は追いかけて来る必要なんか、なかったのに」
皇女様は頬を膨らませてぷりぷり怒っているが、可愛く怒るような話じゃないだろ。
自分が何言ってんのか、わかってんのかよ。
牢屋から殺人鬼を出したって、思い切り犯罪じゃねーか。よく無事だったな。
無事じゃなかったからここにいるんだろうけどさ。
なんでそんなことしたんだよ。なぁ。なんで……。
「正晴くん、泣かないで」
「なんで、追いかけてくるんだよ……」
「正晴くんが大好きだから」
「なんで、犯罪なんてしてんだよ……」
「正晴くんが犯罪者だからかな?私を守る為に殺しただけなのに、酷いよね。正晴くんの敵はちゃんと取ってきたから、安心して!正晴くんを殺した警官は精神を病んじゃってたから、息の根を止めるのは、すごく簡単だったよ」
ああ、そうか。そういうことか。
待兼は、天使なんかじゃなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
21
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる