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ヤンデレ覚醒

答え合わせ

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 俺が守りたかった女は、最初から狂っていたんだ。
 人とは違う部分を言い表せず、男たちが勝手に運命の女と称しただけ。
 似たもの同士、狂気を抱える男たちが引き寄せられていた。
 それを俺は、可哀想な女扱いして、守った気になって──恐ろしい女に捕まっていたことに気づかないとか、どれだけ暢気なんだよ。

「正晴くん。私のこと、怖がってるの?」
「怖くは、ねえよ……」
「嘘ばっかり。私が自殺するかもしれないって思っても、集団テロに参加して、復讐を済ませて命を断つことまでは想像できなかったんでしょ?」
「できるかよ。そんなもん……」
「待兼検定、不合格だよ!正晴くんは、私のことを一番理解してくれなきゃ駄目なのに……」
「待兼はいつも元気で、明るくて……俺とは違うだろ……」
「だって、正晴くん。元気で明るい女の子が好きでしょ?」

 俺が元気で明るい女を好きだって、どこで情報を仕入れたんだよ……。
 俺は待兼が元気で明るかったから、惹かれたってのに……。
 当然のように真顔で指摘されても、判断に困る。

「俺は待兼が……」
「私、ずっと正晴くんの好みに合わせてたんだ。正晴くんはいつも眩しそうに、キラキラしてる女の子を見てた。地味で大人しくて、虐げられてる私なんか見向きもされないってわかったから。正晴くんに好かれる女の子を目指したんだよ!」

 一体どこで、俺がキラキラしてる女を見てたって?
 思い当たるフシがどこにもねぇ……。

「生まれ変わったら、今度こそ元気で明るい女の子になるって意気込んだけど──出鼻を挫かれちゃった」
「環境が最悪だったからか?」
「皇女様として生まれたのに、どうして誰も愛してくれないのかなって、ずっと辛かった。でもね、私は諦めたりしなかったんだ。そしたら、ハレルヤと出会って──運命はやっぱり、あるんだって思ったの」
「……俺が正晴だって、気づいてたのか」
「確証はなかったよ?目を合わせた瞬間に、そうじゃないかなって、ビビッときた。私が大好きになる人は、正晴くんだけだもん。私の死は、無駄じゃなかった」

 待兼紗霧が斎藤正晴に出会いたいと願い、日本で命を落としたからこそ──皇女様と俺の今があるなんて。
 そんなの。おかしいだろ。

「なんで、ずっと……黙ってたんだ……」
「確証がなかったら、頭のおかしい人でしょ?正晴くんも、私が待兼紗霧だって、気づいて黙ってると思ってたのに。私のこと、忘れてたの?」
「忘れてねえよ。ずっと、キサネに……待兼の面影を重ねてた……」
「私がそうじゃないかと思ってたのに、そっくりさんに心奪われそうになるなんて、酷いよ」
「奪われてねぇから」

 皇女様は待兼とそっくりな顔をしたララーシャを見て、俺が気持ちを揺らがせたことを察知したんだろうな。
 相当根に持っているらしい。こりゃ、一生言われる覚悟をしねぇと駄目だな。

「ほんと?私のこと、好き?」
「おう」
「待兼紗霧とキサネ・チカ・マチリンズが同一だって、受け入れてくれる?」
「そうだな。俺も、待兼に聞きたい」
「いいよ」
「斎藤正晴と、ハレルヤ・マサトウレは同一人物だ」

 人殺しでも、変わらず俺を愛してくれるか。

 最低すぎる告白を口に出すべきか、酷く迷った。
 前世で待兼は、迷うことなく俺に愛しているを告げたが──今とは状況が違う。

 まだ、殺してねぇけど。
 いつか俺は、あいつらを殺しちまう。

 一人目はどうにか耐えても、二人目三人目と始末していくうちに──慣れと慢心で、取り返しのつかないことが起きることを、俺は知っているから。

 やっぱりやめよう。聞くんじゃなかった。
 俺が皇女様の答えを拒むよりも先に、彼女の口から言葉が紡がれる。

「同一人物じゃなかったら、愛してないよ!」
「待兼……」
「待兼とキサネ。呼び方はどっちでもいいけど、同じ分だけ愛してね?」
「……おう」

 皇女様の思いがけない話に飲み込まれて、このまま話が終わりそうになって気づく。
 俺から話さなきゃならねぇこと、山程あるよな……?

「キサネ」
「はーい」
「ロリコン野郎が、言ってたろ。春本だって」
「えー……。せっかく想いを通じ合わせたのに、嫌いなやつの話をするの?」
「情報共有は大事だろ」
「ちょっとだけだよ?すぐに、私と正晴くんの話へ戻ってね」
「わかった。俺が殺した奴ら、覚えてるか?」
「ロリコン、ストーカー、クソ親父」

 死んだ目をした皇女様の口から、その三単語が出てくるのはインパクトがあるな……。
 俺は皇女様の機嫌が急降下したことを感じながら、さっさと用件を済ませることにした。

「ロリコンは春本、ストーカー野郎は木船きふな、クソ親父は待兼だろ」
「それで?」
「あいつら全員、生まれ変わってんだ」
「ふーん。また、私と正晴くんの邪魔をするつもりなの?」
「多分な。ストーカー野郎はキフロ・アジェシス。クソ親父は、皇帝だ」
「うそ……」

 皇女様は俺の推測を聞いて絶句していた。
 ストーカー野郎が生まれ変わったことは、ロリコン野郎もさらっと話題に出してたからな。
 皇女様も知ってるだろうけど、実父の皇帝が前世で養父なのをいいことに、いたずらしようとしてきたクソ野郎だとは思いもしなかったんだろう。
 俺に抱きついてきた皇女様は、震えていた。
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