表裏世界

嘉音@紅茶の人。

文字の大きさ
1 / 12

prologue

しおりを挟む
 ぱちり。



 目を開いた。


 ここはどこだ? 

 真っ白い冷たい無機質な部屋で瞬きを数回繰り返した。

 真っ白い服、真っ白い靴、真っ白い空間。
ここという存在に違和感を感じる。来たところへ帰ろう。
  
 来た、ところ?


 ここに対して違和感はあるのに、どこに帰ればいいのかわからない。自分の存在もよくわからない。

 よく見ると、この部屋にはドアも窓も何もない。ここから出ようにも出られない。 

「…さむい。」
 初めて自分の声を聞いた。何の特徴もない声。


「ねぇ。」

 後ろから声がした。女の子の声。振り向くと高校生くらいのショートヘアの似合う女の子。強い意志があるかのように、俺をじっ、と見てくる。

「貴方の行き先は決まっているはずよ。」
「…なにそれ。」
 何言ってるんだろう、この子は。

「貴方はね、この扉をくぐり抜けるの。」

 女の子の指さす方向を見てみたら、さっきまで何も無かった無機質な部屋に扉が現れていた。
扉と言っても、とても小さい。屈まないと通れないくらい。
「さあ、はやく。」
「ところで、あんたは誰なの。」
「わたしはユキナ。あなたを助けに来たの。」
「助けに?」

 確かにこんな空間にいつまでもいられないけど。
「これからあなたに色々な物が降りかかる。だけど負けないで。あなたを待っている人がいるの。」

 突然こんな事言われても。でも、今はこの人の言う通りにしないと、それはそれでどうしようもないし。



 ここがどこなのかも、自分が誰なのかもわからない。でもひとつだけ分かることがあった。この子についていけば大丈夫。

「あなたはね、ナルミっていうの。」
「ナルミ。。。」
「うん。」

 女の子はにっこりと笑った。可愛い笑顔だった。少しどこか懐かしさを感じた。その懐かしさのせいで、不安しかなかったけど思わず笑い返した。

 大きく息を吸い込んで、決心した。
 どこにあるかわからない、自分の戻るべきところに帰ろう。俺を待ってくれてる、っていう人にちゃんと会いに行こう。



 ぱちり。


 目を閉じた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...