ドラゴンの爪に引っかかったら人生が180度変わった。

さはら(仮)

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ポチ太とお部屋

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前髪は違和感が無い程度にそろって切られていて、髪形は高い位置で結ばれている。
額には不思議な模様のかかれた布が巻かれ、後ろに髪と一緒に流されていた。
そんな鏡に映った姿を不思議そうに見る俺を、レシピさんは楽しそうに見ている。

「そんなに強いおまじないじゃないけど、少し複雑なのをかけておいたからしばらくしたらきっと魔法が上手に使えるようになるよ」
「…え?」
「あとはメガネかな。あんまりレンズが大きすぎても色々反射させちゃうから…」
唇に指を当てながらしばらく考え込んだレシピさんが、唇に当てていた指でくるりと円を描くと鏡に映る俺のメガネの形が変わる。
「こんな感じでどうかな?」
「え、いや、その」
突然色々身の回りが変わってしまってオロオロする俺だったが、レシピさんのその問いに答える前に部屋の扉がものすごい音を立てて爆発した。

…いや、爆発はしていないが、爆発したのではないか?という位の音を立てて開く。
「ポチ太ーーーー!!!!終わったーーーーーー!???」
それと同時に咆哮のように俺の名前を読んだミュートが現れ、あっという間に俺の目の前に浮かんいた。
「ミュートちゃん。女の子なんだからもうちょっとおしとやかにしないと」
めっ!とレシピさんがミュートの鼻先をつつく。
「うー、だってーおれはさー」
「その『おれ』って言うのも!」
ドラゴンの鼻先をつつきながら説教する人間がこの世に存在しているなんて…いや、それよりも
「…(雌、だったのか…)…」
うっかり口に出したら場合によっては殺されてしまいそうだと思ったので、心の中でひっそりとつぶやく。
だっておれって言ってたし。確かに声は高めだけど子供だからかと思ってたし。全体的に大雑把だし。

今まで自分の周りにいた女性との違いに軽いショックを受けつつ、声には出さないように気をつける。

「それで、ミュートちゃんはポチ太くんを迎えに来たの?」
「うんー!」
一通りお説教が終わったらしいレシピさんとミュートが本来の目的を話し始めた。
「兄貴がねー、タマ美のところに連れて行ってお仕事教えさせろって!ポチ太もう準備おっけー??」
そういいながらこちらを覗き込んでくるミュートの宝石のような暗い色なのに輝く瞳にすこしドキッとしてしまう。
「あ、ああ…」
と、俺が答えるが早いかミュートは俺の肩を足で掴むとタマ美のいる部屋までひとっ飛びで到着。

「あ、ポチ太サン。どうも~タマ美です。そのままお呼びくだサい」
可愛らしいエプロンをつけたタマ美がミュートのカギツメから開放された俺に挨拶をしてきた。
「ど、どうも。よろしくお願いします」
こちらも頭を下げると、その間にミュートはいなくなっていた。
「それデは、お仕事の説明をさせてイただきますネ」
…この間は気が付かなかったが、タマ美はコボルトだからかイントネーションに妙な訛りがある。
そんなことを考えながら教わる仕事の量は思ったよりも少なかった。
だがそんなことを思えるのは掃除、洗濯、料理などを城で自分の分をしていた俺だったからだろう。
住みか自体は確かに広いのだが、それぞれのスペースは各々管理しているとのことなので、掃除する場所はあまり無い。
料理の量はそこそこ多いが(ミュートがたくさん食べるらしい)洗濯の量は少ない位だ。
だが確かに1人でこれを全てまかなうのは大変だっただろう。
俺が増えたことを心から喜んでいるらしいタマ美は親切に仕事を教えてくれた。
「それ以外の時間は、自由時間デスので」
全ての説明を終えたタマ美がそう告げる。
「ごはんーーー!」
説明されながら作った昼飯の匂いに気が付いたのが、それとも食事の時間に間に合うように来たのかはわからないが、いつの間にか戻ってきたミュートが前と同じ机の位置に座り、ナイフとフォークを持ちながら待機していた。
「ただイま!」
ミュートの声にせかされるように、タマ美と二人で食事を机に並べてゆく。

城にいたときは、逃げるようにいつも食事を自分の部屋で独り食べていた…4人分並んだ食事に、なんだか心が温かくなる。

しばらくするとレシピさんとボーカルも食事室に顔を出し、4人そろっていただきますと手を合わせてから食事を始めた。

「ねー兄貴。ポチ太の部屋どーしよー?」
ハイスピードで食事を終えたミュートがボーカルにそう尋ねていた。
「ん…そうだな。どこでもいいんじゃないか?」
まだ食事中のボーカルはスープに手をつけながらそう答える。
「じゃあ、おれと一緒の部屋でもいいー?」
ミュートの爆弾発言にボーカルはスープを吹きかけ、堪えた。
「絶対ダメだ!!!人間と一緒なんて!!!
なんとか口内のスープを飲み干したボーカルが声を荒げる。
「あ、そっか、うっかり黒こげにしたりしたら死んじゃうもんね」
「違…」
「じゃあ俺の使ってるあたりの部屋適当にポチ太の部屋にしていい??」
「~~~っ、そうしてくれ」
ボーカルは何か言いたげだった言葉を飲み込み、短くそう告げた。
「わかったー!!」
俺が食事を終えたタイミングで、ミュートが俺のほうを見る。
「ポチ太もそれでいいーー?」
「ん、ああ」
そう答えると、ミュートは俺の分の皿も流しに運んでからテコテコと歩いて俺を案内し始める。
「こっちー」
また肩を掴まれて飛ぶものだと思っていたのだが、そうではないらしい。
飛ばずに歩くミュートはなんだか愛らしかった。
食事室からあまり遠くない角を曲がった突き当たりに扉がある。
「ここねー、あんまり使ってないから今日からポチ太の部屋ー!ベッドとかは今他の場所から持ってくるから待っててねー!」
そういってあけられた扉はの先は、一人が生活するには十分な広さの部屋だった。
机や雑貨、イスに壷など色々なものが乱雑に部屋の一部を占拠している。
「いらないのは隣の部屋に移しといて!」
どこかの部屋から持ってきたらしいベッドを頭の上に持ち上げながら部屋に入ってきたミュートがそう言った。
「わかった」
ベッドが床に置かれる振動を感じながらそう答えた俺。
そろそろドラゴンの規格外な行動に慣れてきたらしい。
「お部屋の片付け手伝ったげるねー!!」
言うが早いか、ミュートは必要無さそうな雑貨を隣の部屋に猛スピードで運び始めた。

「終わりー!!」
あっという間に片付け終わったミュートが、額に薄っすら光っている汗を拭う。
「あ…りが、とう」
「どういたしましてー!」
えへへ~と笑うミュートは凶暴の極みであるドラゴンだということを忘れそうな愛らしさだった。
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