リスラムナイト・ヴァンパイア

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「三葉、あなたはね、吸血鬼なの」

「…は?」


実の母からとんでもない事を、どこまでも深刻な表情で伝えられました。一切の脈絡もない自分への宣告に、私は戸惑いを隠そうともせず間抜けな声を上げた。

春。
中学校に進学し、初めて制服という物に袖を通して何日か経った。小学校と大して変わらない印象の外壁だけが目に付く中学校。入学式だって、殆ど変わらないメンバーで迎え、もちろんクラス分けだって小学校の頃の友達が多く配置されていた。
どこか代わり映えのしない日常を少し退屈に感じ始め、桜もすっかり散る頃。
両親との家族会議で大真面目にこんなことを言われた私は、一体どうすればよいのだろうか。

若干気まずい空気の中、母は言うことは言った、とでも言いたげに私の返答を静かに待っている。
いや、この状況私はどうすればいいの?
何を言えば良いんだろうか?
というか、吸血鬼って一体なに?
ファンタジーですか?もしかして冗談?
今日の日付を咄嗟に確認するが、残念ながら4月10日。エイプリルフールはとっくに過ぎていた。


「いや、えっと、それはどういう?」


とりあえず、冗談であることを確認する。母はこういうところで意外な演技力を発揮したりする人なのだ。多分。そうだ、ウソだ。軽い冗談に決まってる。
「な~に、三葉ちゃん騙されちゃって~」なんて言うに決まっている。そうだ、そのはず__


「そうよね、いきなりこんなこと言ってごめんなさい。混乱するのも無理ないわ。三葉、あなたはね…」

「うん!分かった!私は吸血鬼なんだね!」


お母さん。違うの、そういうことじゃないお母さん。「ウソよ、ウソ~」と言ってくれ。
落胆と不安の入り交じる空間の中、それまで無言を貫いていた父が呆れたように口を開く。


「知花。急にまくしたてたって三葉も理解が追い付かないだろ?」


ため息交じりに父が話し出す。だが、私の頭の中は母の支離滅裂な説明に父という少々の救いが加わったことへの安堵ではなく、単純に父が否定しない事へのショックが大きかった。


「いや、待って待って。なんで私が吸血鬼っていうことになってるの?そもそも吸血鬼って何?心臓に悪い冗談やめてよ」


笑い飛ばすように、少し早口で言葉を放ったあと、そんなおちゃらけた私を見て心苦しそうに目を合わせる母と父の姿が目に映った。嫌な予感がした。


「え、冗談、だよね?」


予感は的中した。してほしくなかったけれど。
目の前に座るふたりは何も言わない。何も言わないし、なにもしなかった。かわりに、テーブルの下の方に、静かに目線を落とした。

怖かった。次、どちらが何を言うのか。その内容は何なのか。ただ、心の奥の方から湧き上がる直感的で漠然とした焦りが、目の前をチカチカと光らせた。
どういうこと?だって私は、人間じゃないか。何が吸血鬼だ。バカバカしい。ただ、そうやって思う反面、恐ろしいくらい本気だと伝わる目をした目の前のふたりがどうにも気がかりで、なぜだか胸の奥を締め付ける。

自分が、人間じゃないなんてあり得ない。吸血鬼なんて現実にいる存在じゃないのだ。
ならどうして、私はこんなに怖がっている?
ぐらぐらと揺れ動く心を無理に落ち着かせるようにように、父は私にとどめの鉄槌を下す。


「…いきなり、こんなこと言われても意味が分からないと思う。けど三葉、お前は “吸血鬼” っていう人種なんだ。それだけは、確かなことなんだよ」


私の、お父さんとお母さんは何を言っているのだろう。私が吸血鬼?どこのベタ小説だ。いや、小説にしたって三文芝居だ。つまらない、滑稽なストーリーすぎる。そんなわけないのだ。お父さんも、お母さんもふたりとも人間で、そのふたりから生まれた私も、間違いなく人間のはずなのだから。


「え?は、何言ってるの。私は、私は人間だよ?吸血鬼なわけないじゃん。だって、今まで普通に生きてきてたでしょ?」


思考の渦の中心で、まるで氾濫した川の中州に取り残された小さな子供のように、救いのない脳内で父の言葉が、繰り返し繰り返し駆け巡りゲシュタルト崩壊を起こす。


「三葉ちゃん…」


母の慈しむような視線が体に突き刺さる。その全てが、今、この空間で起こっている全ての事象が、この話は真実なのだと囁いていた。


「三葉?聞いてるか、三葉?」


父の呼ぶ声が聞こえるが、それに反応できるほどの余裕は持ち合わせていなかった。


「…ねえ、お父さん。三葉ちゃん、疲れちゃったのよ。今日はもう、この話はやめましょう?」


何も言えずにいると、母が助け船を出した。
こういうとき、母は的確に私の心中を分かってくれる。今は、一人にさせて欲しいと、そう思っていることも母は気が付いていたようだった。


「…そうだな。三葉、いきなりすまなかった。今日はもう休んでなさい」


その一言を聞き終えると、私は2階に駆け上がった。もう、何も聞きたくなかったから。

今日のこの出来事は全て嘘で、そもそも4月10日なんて存在しないんだと、自分に言い聞かせながらベッドに飛び込み、金輪際こんなことは思い出したくない、気の悪い冗談だな、と暗示をかけて目を閉じた。



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