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第5章『悪魔の王様を探す事にした』

ギルド総会とフェーリの素顔

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「これは意外ですねぇ。貴方のようなお方から《ギルド総会》なんて言葉が出るなんて思いもよりませんでした~」

ギルド総会とは、ミズガルズにある五大大国の《ユースティア》《ヴィクトリア》《トート》《アポロン》《パルテノン》に存在する名称は様々だがギルドに似た組織のトップを一つの国に招集し話し合うものである

だがしかし、規模も規模なのでギルド総会を行う際は五大大国が一致団結する必要がある人間という種族の危機の場合のみ行われる
という制度はあるものの…過去にギルド総会が行われた事は一度もないのだ

それもその筈、まずギルド総会を開くには二つの条件がいるのだ
一つ、前述の通り一致団結する必要がある場合のみ開かれる
一つ、三カ国以上の招集をかけなければ行われない

「その条件は承知しているとも。だから既に《トート》と《アポロン》には話をつけてある……だから後は貴様が招集をかければギルド総会は開かれるのだ」

その一言にフェーリはピクリと眉を動かすが、その表情の変化に気付いている者はミルシィ以外にはいない

「ふ~ん……あの堅物ゴリラと暴走ゴリラもどきは説得していないのですかぁ? いぇ出来ないのですよね? その総会を開く理由があの彼だか…………」

フェーリがそこまで言った途端、ブルータスが片手の甲を上げると同時にトリスタンの近衛兵が持つミスリル製の槍の先を一斉にフェーリに向ける

「それ以上の詮索は無用だフェーリ殿。貴様の選択肢は二つ」
「素直に総会を開くか……ここで大事な部下諸共死を選ぶがだ」

ミルシィはフェーリをじっと見守る。その瞳に映される言葉は唯ひたすらの怯えしかなかった。それはトリスタンやブルータスに殺される事の怯えではない

「………わかりました。ですが貴方達の要求は受け入れられませんねぇ。どうかお引き取り下さいトリスタン王」

フェーリが言い終えると同時にブルータスは手を下ろすが近衛兵は槍を構えたままピクリとも動かない
ブルータスは困惑し近衛兵の一人の顔を覗き込むと同時に驚愕する

近衛兵は口から唾液をボタボタと垂れ流し虚ろな目をして聞き取れない言葉をブツブツと呟いて瞬き一つすらせずに佇んでいた。様子を見るにこの場にいる近衛兵の全員がその状態に陥っている

「《その香が促すは破滅也リンクパルファム・ラストシャウト》私のお香は万物万象世の理すらも凌駕する…どうやらお忘れの様なのでお伝えしときますねぇ…私は貴方の命令を聞いているのではなく…聞いてあげている事をお忘れなくぅー」
「貴方達も生ける屍になりたいのでしたらこのままこの場にいる事をがぁ…どうしますかぁ?」

トリスタンとブルータスはがギリと奥歯を噛み締めフェーリを睨み付ける。だがフェーリはニコッと妖しげな笑を浮かべ返すだけである

「この…化け物が……チッ仕方あるまい。往くぞブルータス」

トリスタンはマントを翻しその場をあとにする。ブルータスは一瞬困惑するが同様に舌打ちをした後にそそくさと走って逃げていった

「フェーリ様…やはりユートクソムシ関連の事なのですよね…」
「う~ん…流石にもう受け身も飽きてきたしぃ……動き出すのも悪くないかもねぇ。ねぇミルシィ…《トート》と《アポロン》のどっちが行きやすいかしら?」

質問されたミルシィは歯痒い思いをしながらも考える
《行きやすいか》それは所謂隠語で本当は《寝返るか》という話である。実は以前にもユースティアとヴィクトリアのどちらかと質問された事があり、その時は中枢に近いヴィクトリアにしたのだ

「………正直に言えば私はどちらも良いとは思えませんね。どちらも住み心地が悪そうです。その点、《ユースティア》は除草が進んでいるので良さそうです」

それを聞いたフェーリはニコリと笑いミルシィを抱きしめ頭を撫でる。フェーリは初めからどちらも行く気は無かったのだ
要はミルシィが自分で判断し進言したという事実が欲しかっただけなのである

「それじゃあ善は急げですねぇ…でもその前に…今夜にでも潰していきましょうか~。もうこんな面倒な国ですものねぇ」

    その言葉をフェーリが発した刹那の時、正に一秒という時間を更に圧縮し濃縮させた時間の中でミルシィだけが感じ取れるフェーリの素の狂気が溢れ出す

 部屋の中の酸素が一気に無くなり一瞬だけだが真空状態とほぼ同じ状況になりミルシィは息苦しくなる。だが直ぐに酸素が戻り息苦しさも消え去り落ち着きを取り戻す

「いらない…となると、やはり《聖遺物》の奪取でしょうか…ですがそんな事私たちでやるのは流石に不可能だと……まさかとは思いますが二人だけでやる訳じゃないですよね」

 フェーリは静かに立ち上がりながらミルシィの前に移動し腰に手を回して顎に手を当て顔を上げさせる

「心配ないわよぉ、ミルシィはここでお留守番。聖遺物は私とあいつで片をつけてくるわね。既に鳥は飛ばして私と彼の二人で向かう事にするわねぇ」

 ミルシィの脳裏には一瞬ユートの事が過ぎるがフェーリの表情を伺うにその様な気配はなさそうだ。誰かわからなく不安そうにするミルシィだが、フェーリはその正体は今夜にでもわかるというのでミルシィはフェーリを信じて待つことにした
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