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Sランク冒険者
二十五話 勇者(後)
しおりを挟む「まあ、それでも負けを覚悟するわけにはいかないんだけどな」
それに恐怖がある訳じゃ無い。
これは死闘では無く武闘大会なんだから。
御剣が何のために戦っているのかは知らない、さっき御剣に声をかけた女性が何か関係しているのかもしれない。
でもな御剣、俺だってこんな簡単に諦める訳にはいかない。
真紅に輝く指輪が俺の背中を押してくるんだよ。
ここで負けて良いのかって。
こんな所でつまずいててどうするんだって。
――お前がフィーナに誓って、アーカイブと約束した「守る」ってのはこんなところで負けるほどに弱い契りだったのかと。
だから俺はまだ負けられない。
俺が負けてもいいのはフィーナを失ってからだけだ。
結婚指輪には3つの特殊効果がついている。
愛情度を色としてリアルタイムに表示する効果。
即死ダメージを日に一度だけ無効する効果。
相手の危機を察知する効果。
だから伝わっちまってるんだよ。
フィーナに俺が危険だと。
俺のこの世界での唯一にして絶対の前提条件。
フィーナを安心させる事。
それが守れちゃいねえんだ。
そんな訳に行くかよ。
「俺が勝つ!!」
チートってのはただ強い奴の事を指す言葉じゃないんだ、ズルってのは敵が強いとか、相手のステータスが化け物だとかそんな事は関係無いんだよ。
ステータスやスキルなんかをルール的に活用してるだけの奴には絶対に負けない力の事を指すんだ。
「さあ、準備はできてる。こっからが本番だ!!」
デュアルスキル、トリプルスキル、クアッドスキル…………
多重展開。
「「「「完封!!」」」」
聖剣適性、結界魔法、絶対の直感、高速思考を封じる。
まだだ。
「五重展開ペンタスキル「「「「「ストレングスアップ!」」」」」」
さらに物力魔法:リフレクト
俺が触れた物理干渉の方向を変更する事が出来る。
俺の放つ一撃に対して発生する、反作用のベクトルは反転し、単純な威力が二倍という形で相手にぶつかるようになる。
ストレングスアップの効果で1.25の五乗が俺の攻撃力にかかり、さらにベクトル反転によって二倍になる。
結果的に俺の攻撃力は6倍まで上がる。
「行くぞ、御剣亮太!」
「来い! 僕は全力を持って君を打ち破る!」
御剣の聖剣は聖剣適性を封印した時点で地面に落ちている。
そして俺も剣は使わない。
剣を使うと身体能力を上昇させた意味が半減するからだ。
攻撃力は拳の硬さに影響するが剣の硬さには影響しないから、今だけは全知の魔法剣よりも俺のステゴロの方が強い。
「ヘルファイヤエンチャント!!」
「ヘブンリーエンチャント!!」
俺は獄炎を拳に宿し、御剣は白と黄色のオーラを拳に纏わりつかせる。
瞬発力もさることながら、最高速度は音速を超えていた。
俺も、そして御剣も防御はしなかった。
考えている事はただ一つ。
――てめえを先に
――君を先に
――ぶっ飛ばす!
厳密にどちらが先に当てたのかは、結界をはった者にゆだねられたのだが。
「私にも同時だったとしか……」
結果、優勝者が二人出るという結末で武闘大会は終了した。
「って事で引き分けよシル。ご苦労様」
「ご主人が気絶していたのはほんの数分で、ここは今回のために作られた医務室ですよ」
「本に情けないのう、シル」
「魔王様言い過ぎですよ。シル様、これから表彰式との事ですので、闘技場に戻るのがいいと思います」
「そうか……引き分けか……」
「ですが天力、並びに絶対の直感の解析は完了しています、若様」
「ありがとう雫。ごめんなフィーナ負けちまった」
「負けてないでしょ? 両方とも魔力枯渇で気絶、結果は引き分けって何度言ったら解るのよ」
「それでも、もしあれが殺し合いだったとしたら……」
「それでもよ!! シルは頑張ってる。それにこれは武闘大会よ? 今は駄目でも本当にあたしがピンチの時に助けてくれればいいでしょ?」
その笑顔は反則だ。
ああ、俺の目的は何も変わっちゃいねえ。
フィーナを幸せにすること、それだけだ。
俺はフィーナを抱き寄せた。
「なっ。シル!? みんなの前なんだけど!!」
「そういえば盛ってる年頃じゃったな、この男は」
「仲良しでいいじゃ無いですか魔王様」
「私は空気の読める幽霊なのでノーコメントで」
「若様は若様ですね、全く」
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