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ダンジョンが現れた日
しおりを挟むだから僕はその日のニュースを見て不安と恐怖で一杯だった。
突如として東京にスカイツリーなんて簡単に超える高さの建造物が出現した。それは一夜にして起こり、何かのドッキリかと国民全員が疑った。
しかしそれは誰かの策略でもなんでもなく、自然現象と呼ぶしか説明のしようがない物だった。
そしてニュースは続く。
世界各地で同じような謎の建造物が大量に発生していると。
その建造物がゲーム等で登場するダンジョンに非常に酷似した性質を持っている事は一瞬で広まった。その情報を規制するほどの拘束力を持つ集団が存在しなかったからだ。
レベルやスキルといったゲーム的要素がある事。レベルの上昇によって身体能力が飛躍的に向上すること。
そして何より建造物の中にはモンスターと呼ぶに相応しい異形の存在が確認されたこと。
何もかもが恐怖を掻き立てるには都合がよすぎた。
一つ幸いな事があるとするなら基本的にモンスターは建造物の中から出てくることはない、という事だろうか。
しかしそれでも僕は不安に押しつぶされそうだった。レベルによる身体能力の向上、この一文が怖くてどうしようもなかった。それはつまり人間と人間の間に強さというどうしようもない壁を作るものだからだ。
最初に浮かんだのはレベル至上主義。高レベルの者が支配する世界になるのではないかという恐怖。
しかし、現代兵器を超越できるほどのレベルを持つ人間が現れるにはまだかなりの月日を必要とするだろう。
ただ、その日は確実に現れる。僕の直感がそう告げていた。
ダンジョンの発生とは即ち、強者と弱者が確定することに他ならない。
僕は、今のところダンジョンに入った事のないレベルでいえば0のような存在。しかし、こうやって何もしない時間が増えれば増えるほどに強者は更なる強者へとなりあがっていくだろう。
僕に対して敵対する者も当然の如く現れる。何よりその存在に屈することがどうしようもなく怖かった。
だから、僕は外へ出る。向かう場所はダンジョンだ。
この近くにあるダンジョン名前は知らないが恐らく世界で存在しているどんな建造物よりも高所まで上り詰めた世界で一番高い塔。ニュースで大々的に報道されていた奴だ。
塔の前までは直ぐに行けた。入口は警察官に固められて侵入は制限されている。いや一般市民からしたら禁止と言っても過言ではないだろう。
その周りを様々は報道局の人間が埋め尽くしている。
さて、どうやって中へ侵入するか。
まずは近くの公衆トイレに身をひそめる。
ここら辺にはかなりの人数がいるが、皆必死に塔を撮影しているのか公衆トイレの中は静かな物だった。
何人かが入って用を足して出ていくのを繰り返す。
そしてやっと目的の人物が現れた。しかしいまではない、その人物は一人ではなかった。
その人物は僕が入っている個室の横へ入った。後は僕とその人物以外のもう一人が出ていくのを待つだけだ。
もう一人は小さい方を済ませて外へ出ていった。僕と目的の人物の二人の空間が出来上がる。
音を出来る限り立てないように目的の人物が入っている方の壁をよじ登る。壁の一番上に足を掛けたら後は迅速に事を済ませる。
背後を取り、振り向こうとしたその男にスタンガンを突き刺した。
首の後ろから一気に電流を流し込む。その男はあっけなく気絶した。
警官と言ってもそれは一般人の域を出ない。この程度の相手ならやり様はいくらでもある。
しかしレベルアップ。あのシステムは危険すぎる。
警官の衣服を盗み、着用した。おおよその身長は僕と同じくらいだったが、少し太っていた男の服はダボついた。ベルトをきつめに締めて警察官に変装する。
そしてダンジョンの入り口を堂々を通り抜けた。
警察の封鎖を潜り抜けたが、警察官でもダンジョン内へ入る人間は一人もいない。ここで入ると目立ってしまうが、ダンジョンに入ったところで中まで追ってこられる人間は警察の中にはいないだろう。
なぜなら今は十中八九ダンジョン探索部隊を作っている最中だろうからだ。
すでに探索は始まっているという可能性も捨てきれないが、それなら誰かが見ているはずだ。報道もSNSもずっとチェックしていたがそれらしい情報はない。入口で見張っている報道陣に姿を見られずダンジョンに探索隊を送り込むのは難しいし、そもそもそんなことをするメリットがない。
だから走り抜けるだけでいい。
「おい! お前何やってる!!」
ダンジョンの入り口から中に入った警官としての姿なら別にみられてもかまわない。警官の服と顔につけたマスクから純粋な警察官の誰かが可笑しな行動に出たと考える方が多数派だろう。
ばれるとしてもトイレが調べられた後だろうし、それでも僕の素性まで到達するのは不可能だ。
だからダンジョン内に入ってとにかく距離を取るように走る。
入ってすぐの場所なら追いかけてくる警官がいないとも限らないからだ。
300mほど全力疾走し、少し休憩する。
中を見渡し情報を解析する。
中は真っ暗というわけでもない明かりと呼ぶには少し心許ないが、所々の壁にランタンのような物がかけられている。
どう見たって人工物だ。しかし一夜にしてそれを作るのは不可能だろう。考えられる選択肢としてはどこかにあったこの建物が転移してきたとか。
いや、それも推測だしそもそも理屈も何もない話だ。今は考えている場合じゃない。
さっきから動物のような気配を感じていた。
しかも牧場などにいるような動物とはかけ離れた殺意を持つ気配だ。
「これがモンスターって奴か」
剣道、柔道、空手、合気道、古武術、剣術は一通りやった。
習熟が人より少し早いと言われはしたがその程度の物でしかなく、そもそも達人と呼べるほど極めている訳でもない。
僕はやればできることをやったにすぎず、人より少し近道が見えただけ。しかしその恩恵は今も身体が覚えている。
最初の接敵。角の生えたウサギのようなモンスター。赤い目は獰猛的で、鋭利な角はそこら辺の包丁よりも切れ味がよさそうだ。
そしてこの殺意の塊のような空気感。こちらを殺す事にためらうという思考が存在していないかのような視線。
だからこそ僕も全力を出さなければ死ぬ。今更生物の命を奪う事に正当防衛だから必要だからなんて言い訳を並べるつもりは欠片もない。
ただ俺にとって殺したいから殺すだけ。
右手にはサバイバルナイフ。左手には警官が持っていたピストル。そして腰に警棒型のスタンガンを装備する。
相手は角の生えたウサギ。ならば攻撃方法は予想がつくし、それしかない程にその特徴は見栄えがいい。
角を突き出しての突進。角に滑らすようにサバイバルナイフを宛がう。
ウサギの攻撃を完全に回避した瞬間、サバイバルナイフを押し込んで弾き飛ばす。
その力に逆らう事はできず、さらに空中で姿勢制御を許すような威力じゃない。つまりこの時点でウサギがどこへ着地するかが決定する。
後はそこへ銃弾を撃ち込んでやるだけ。
パン。銃の反動は思っていたより大きかったけれど、それでも何とか制御できた。乾いた破裂音と共にウサギの頭から血が流れた。
顔に小さな穴が開いたウサギはそのまま息をしなくなった。そして死体が消えていく。
神秘的な光の粒となり、ウサギがいた場所にはウサギの角だけが残った。
樋口 徹
レベル1
ユニークスキル 早熟1
スキル 剣術1 体術1 武術1
体が軽くなるような感覚と共に見たことのない文字の文章が浮き上がる。
しかしなぜか内容は勝手に理解する。最初から知っていたかのような錯覚を受けた。
更には文字に集中することでその文字が示す詳細を確認できた。
レベル……人間の段階を表す数字。高位になるほど力が向上する。
ユニークスキル……先天的もしく加護によって発生する特別なスキル。スキルの枠を超えた法則を持っている。
早熟……先天的ユニークスキル。スキルレベル2までの必要熟練度が半減する。しかしそれ以降のスキル熟練度が倍加する。レベル10までのレベルアップに必要な経験値が半減する。それ以降のレベルアップに必要な経験値が倍加する。
スキル……生物が持つ戦闘に関連する技能を文字化した物、文字データにする事によって本来の熟練度以上の効果を発揮する。
剣術……剣を扱って戦う場合に身体操作性が向上する。
体術……あらゆる面で身体操作性が向上する。
武術……戦闘において身体操作性が向上する。
スキルレベル1……レベル0における上級者並みの動きを可能とする。
何となくこのダンジョンってやつのシステムが理解できた。
本当にゲーム的なんだ。魔物を倒してレベルを上げる。これがベースで多分物作り関連のスキルもあるんじゃないだろうか。
だったらまず必要な事はスキルの発生法則の発見と経験値稼ぎだ。
この場所にずっといたら国の探索隊が来てしまう。そうなったら銃で武装して人数も多い相手に勝てるとは思えない。スキルやレベルの恩恵があったとしてもだ。
ならばここは逃走の一手。恐らく二階への階段か何かがあるはずだ。一先ずそれを目指す。
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