2 / 40
信長様、今会いに行きます!
しおりを挟む
荒々しい野面積みの石垣に囲まれた、石造りの大手道を登って行く。「石仏」の表示を見つけた池田美琴は、感動から立ち尽くした。
「すごい、本当にあるんだ……」
九月とといえどまだまだ暑く、滴る汗をぬぐいながらじっと足元の石を見つめる。
ここは安土城址の入り口に当たる、大手道と呼ばれる石階段。言わずと知れた織田信長の居城で、ついにやって来られた興奮で美琴の瞳は輝いていた。
史跡巡りが唯一の趣味と言えば聞こえはいいが、他に見たものと言えば修学旅行で行った法隆寺、金閣寺、東大寺、それに二条城くらいである。言わば初心者だが、これからいろんな場所へ行ってみたいという気持ちは溢れんばかりだ。
テレビで小学生の男の子がお城について熱心に語っているのを見て以来、学生時代は全く興味の持てなかった歴史について、少しだけ関心を抱くようになった。
スマホで「織田信長」と検索すると、それだけでたくさんの情報が表示される。
織田信長を検索したのは、日本の歴史、と言われてピンとくるのがそれだけだったから。
名前、誕生日から、どんな風に育ったのか、どんな人物だったのか、どんな政策を行って、どんな生涯だったのか。
難しくて意味のわからない内容ばかりだが、調べるうちに「教科書に出てきた人」から「本当に存在していた人」と言う認識に変化した。
そこから「行ってみたい」という思いが強くなり、ついに今日、城巡り本を飛び出してやってきたのだ。
美琴は探検に出かけた少年のように、期待に胸を膨らませながら、一人で石段を登った。こんな所について来てくれる友人もいなければ、彼氏ももちろんいない。
美琴の心の中では信長が彼氏のようなものだ。
友人に誘われて合コンなんかに参加した事もないではないが、どうも気の合う人に巡り会えない。少しでも「歴史が好き」なんて匂わせようものなら、あっと言う間に「変わった女」という目で見られて、はい終わり、という展開にももううんざりだった。
そんな美琴が、二十三歳にしてやっと獲得した唯一の趣味。
気乗りしない合コンに出かけて疲労を増幅させるより、一人で思う存分史跡をめぐり、妄想を巡らせることの方が性に合っているかも知れない。
長く広々とした大手道を登りながら、美琴は期待に胸を膨らませていた。
どこまでも続くように見える大手道は、天守までの距離もさることながら、絶対君主である信長をも遠い存在に感じさせる。
近づこうにも近づけない、手の届かない存在である信長の凄さを見せつけられているようで、圧倒された。
何百年も前に造られたというのに、戦国人たちのパワーが今もそこにあるかのようだ。
大手道の途中には前田利家や、羽柴秀吉の館跡もあり、これも萌えポイントだ。
この館跡から、信長に呼びつけられた利家や秀吉が急ぎ駆けつけていたのかもしれない、と想像しただけでキュンとなる。
目に見えないけれど強固な絆が確かにある。支配されて従っているというだけでなく、自らの審美眼とか洞察力とか、それに適った相手にだけ従う事を許している。
まさに男の沽券を賭けた従属関係、というのが堪らない。
美琴が会社で上司に文句を言わないで従うのとは、全然違う。
強い武将であるのに更に強い武将に従う。現代に名を残した武将たちは、一体どんな気持ちで信長様に付き従っていたのだろう。
考えても考えても、現代人でしかも歴オタ初心者の美琴には謎だらけだが、それも楽しい。
ふと我にかえると、羽柴秀吉館跡で突っ立ったままだった。ぼんやり妄想に浸っていると、つい時間の感覚がなくなってしまうのだが、楽しくてやめられないのがたまに傷だ。
けれどまだまだ先を目指し、登らねば。
天守跡では信長が待っているようにも思える。
「信長様、もう少しお待ちくださいね。今、会いに行きますから!」
美琴は急いで長い石段を登り始めた。
「すごい、本当にあるんだ……」
九月とといえどまだまだ暑く、滴る汗をぬぐいながらじっと足元の石を見つめる。
ここは安土城址の入り口に当たる、大手道と呼ばれる石階段。言わずと知れた織田信長の居城で、ついにやって来られた興奮で美琴の瞳は輝いていた。
史跡巡りが唯一の趣味と言えば聞こえはいいが、他に見たものと言えば修学旅行で行った法隆寺、金閣寺、東大寺、それに二条城くらいである。言わば初心者だが、これからいろんな場所へ行ってみたいという気持ちは溢れんばかりだ。
テレビで小学生の男の子がお城について熱心に語っているのを見て以来、学生時代は全く興味の持てなかった歴史について、少しだけ関心を抱くようになった。
スマホで「織田信長」と検索すると、それだけでたくさんの情報が表示される。
織田信長を検索したのは、日本の歴史、と言われてピンとくるのがそれだけだったから。
名前、誕生日から、どんな風に育ったのか、どんな人物だったのか、どんな政策を行って、どんな生涯だったのか。
難しくて意味のわからない内容ばかりだが、調べるうちに「教科書に出てきた人」から「本当に存在していた人」と言う認識に変化した。
そこから「行ってみたい」という思いが強くなり、ついに今日、城巡り本を飛び出してやってきたのだ。
美琴は探検に出かけた少年のように、期待に胸を膨らませながら、一人で石段を登った。こんな所について来てくれる友人もいなければ、彼氏ももちろんいない。
美琴の心の中では信長が彼氏のようなものだ。
友人に誘われて合コンなんかに参加した事もないではないが、どうも気の合う人に巡り会えない。少しでも「歴史が好き」なんて匂わせようものなら、あっと言う間に「変わった女」という目で見られて、はい終わり、という展開にももううんざりだった。
そんな美琴が、二十三歳にしてやっと獲得した唯一の趣味。
気乗りしない合コンに出かけて疲労を増幅させるより、一人で思う存分史跡をめぐり、妄想を巡らせることの方が性に合っているかも知れない。
長く広々とした大手道を登りながら、美琴は期待に胸を膨らませていた。
どこまでも続くように見える大手道は、天守までの距離もさることながら、絶対君主である信長をも遠い存在に感じさせる。
近づこうにも近づけない、手の届かない存在である信長の凄さを見せつけられているようで、圧倒された。
何百年も前に造られたというのに、戦国人たちのパワーが今もそこにあるかのようだ。
大手道の途中には前田利家や、羽柴秀吉の館跡もあり、これも萌えポイントだ。
この館跡から、信長に呼びつけられた利家や秀吉が急ぎ駆けつけていたのかもしれない、と想像しただけでキュンとなる。
目に見えないけれど強固な絆が確かにある。支配されて従っているというだけでなく、自らの審美眼とか洞察力とか、それに適った相手にだけ従う事を許している。
まさに男の沽券を賭けた従属関係、というのが堪らない。
美琴が会社で上司に文句を言わないで従うのとは、全然違う。
強い武将であるのに更に強い武将に従う。現代に名を残した武将たちは、一体どんな気持ちで信長様に付き従っていたのだろう。
考えても考えても、現代人でしかも歴オタ初心者の美琴には謎だらけだが、それも楽しい。
ふと我にかえると、羽柴秀吉館跡で突っ立ったままだった。ぼんやり妄想に浸っていると、つい時間の感覚がなくなってしまうのだが、楽しくてやめられないのがたまに傷だ。
けれどまだまだ先を目指し、登らねば。
天守跡では信長が待っているようにも思える。
「信長様、もう少しお待ちくださいね。今、会いに行きますから!」
美琴は急いで長い石段を登り始めた。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる