上 下
10 / 40

優しき兄

しおりを挟む

「まだ休んでいなさい」

 起き上がろうとした美琴の側に、恒興がどかりと腰を下ろす。

 牢で襲われそうになり、光秀に助けられ、気がつくとこの部屋で布団に寝かされていた。

 無性に身体がだるい。
 暗く冷たい牢での生活に身体が耐えられず、風邪を引いて熱が出たのだろう。喉も痛むが、渇きも酷く水が飲みたい。

 掠れた声で恒興に乞うと、支えられながら美琴は身体を起こした。
 茶碗を受け取り満たされた水を一気に飲み干せば、水の通った場所が冷たく感じる。さっきまでの渇きがすっと癒えていくのが心地いい。

 恒興に礼を言って、美琴は再び横になった。

(熱が出て仕方なく連れて来てくれたのかな。回復したらまた牢に戻されるのか)

 美琴の不安に気づいたかどうかは分からないが、恒興が優しく言葉をかけた。

「案ずるな。お前はここでゆっくり休むといい。信長様のご意向で、これからはここで暮らせる事になった。ここは俺の館だ。狭いが、牢よりは良いだろう?」

 恒興の優しい笑顔が、美琴を不安の底から救った。
 こんなに親切で優しい人がいるなんて、現代よりよほどいい所かもしれない。

「ありがとう、恒興さん」

 光秀にも礼を言わなくてはと思ったが、ここにはいないようだった。

 恒興の優しい眼差しに見守られ、美琴は再び目を閉じた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

「姫」と「執事」の誕生日

恋愛 / 完結 24h.ポイント:454pt お気に入り:3

転生王女は隣国の冷酷皇太子から逃れて美形騎士と結ばれたい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:911

本気の調教

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:10

獣人だらけの世界に若返り転移してしまった件

BL / 連載中 24h.ポイント:22,692pt お気に入り:1,983

処理中です...