光秀の甘やかな策略〜堕ちたのは戦国武将の腕の中

今雪みく

文字の大きさ
9 / 40

下衆な男

しおりを挟む
 
 
 冷えた夜風が牢の奥にまで吹き込み、眠る美琴の体を冷たく包む。

「なかなかの別嬪ですぜ」

 下衆な男のくすんだ目が、格子の隙間から、奥で眠る美琴を覗き込んだ。

「ほう……」

 石壁にもたれかかる美琴の白い頬や小さめの唇を見ると、にやけ顔を隠しもせず牢番に告げた。

「明晩来る。頼んだぞ」

「へえ」



***



 何やら話し声がして美琴は瞼を擦った。

 暗く湿った牢の中では発想が絶望的に暗くなると思い、早々に目を閉じたのだったが、こんな夜更けに起こされるとは。

 眠りを妨げられ苛立ったが、どうせ何を言っても取り合ってもらえない。所詮は牢に囚われた身だ。


 再び冷たい石壁に身体を預け、目を閉じた。石の冷たさが、今日は心地良い。疲れが溜まっているのか、どうも身体が重かった。

 うつらうつらしていると、ガチャガチャと鳴る鍵の音に目を開けた。手燭の灯りがこちらへ近づいて来て、牢番とは違う見知らぬ身体の大きな男の姿が浮かび上がる。

 こんな夜更けに、何の用だろうと訝しむと、大男と目が合った。卑下た笑みを浮かべる大男に、背筋が粟立つ。

「なかなかいい女じゃねえか」

(え、な、なに……?)

 何か言おうと口を開くが、怖すぎて声が出てこない。近づく男の動きを阻止しようと手足を動かしてみても、酷く重い身体は言うことを聞かない。

 あっという間に猿ぐつわを噛ませられ、美琴の両手は背中で縛り上げられてしまった。

(こ、怖い……)

 鉛のように重たい身体を全力で動かしてみるが、やはりなんの抵抗にもならない。


「大人しくしていろよ?」

(嘘でしょ? 嫌だ!)

 声を出そうともがくが体が怠く、力も入らない。

 猿ぐつわのせいでくぐもった声が口の中に響くだけだ。

 このままこの男に酷いことをされるのかとの思いにきつく目を閉じた時、聞き覚えのある冷徹な声が聞こえた。

「そこを退け!」

「お、お許しをっ」


 牢番の情けない声が響き、大男の向こうに殺気立った光秀が現れた。


「邪魔するぞ。俺も仲間に入れてもらおうか」

 物騒な言葉にぎょっとする美琴の目の前で、光秀は大男との距離を詰める。背後から睨みつける光秀の鋭利な双眸に、背筋が凍りそうだ。

「ああ?」

 目論みを邪魔された男は、光秀を振り返った。
 だが、遅い。
 振り向きざまに打ち込まれた光秀の拳を食らい、呆気なく倒れた。


 どうやら窮地は脱したようだが、突然の出来事に美琴は目を白黒させる。

 猿ぐつわを外され、詰められていた呼吸が解放されたが、想像し得なかった恐怖に支配されたまま、声を発することもできない。


「大事ないか?」


 光秀の鋭利な視線が美琴を射抜く。

 問われて初めて、身に迫っていた危機の恐ろしさが現実味を帯びてきて、美琴の瞳はあっという間に潤んだ。

 頭がぼうっとして、何か言いたいのに言葉が出てこない。頰も身体も熱く、力が入らない。

 触れてくる光秀の冷たい手が、熱を持った頰に心地よかった。

「熱病か……」

 美琴は光秀の腕の中で、意識を手放した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...