光秀の甘やかな策略〜堕ちたのは戦国武将の腕の中

今雪みく

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 信長という男が、あんな風に強引だとは思わなかった。美琴がうぶなだけで、天下人ともなるとあれくらい当然なのだろうか。

 光秀の進言がなければどうなっていたことかわからない。
 戦国生活の短い美琴には、この時代の価値観が今ひとつわからず、困惑している。

 光秀の館に戻り自室で一人になると、信長とのやりとりを思い出してしまい、誰もいない部屋で美琴は頰を赤らめた。

 信長のものになれば、逆心のある者から彼を守り、天下を収める助けになれるのだろうか。自問自答してみるが、そうするべきとの考えには辿り着けない。
 信長のことは好きだったはずであるから、この時代に来てしまったことに、きっと順応しきれていないだけなのだろう。

 開け放たれた障子の向こうからは夕日が射し、畳を朱に染めている。美琴は、ぼうっとその畳を見つめていた。

 畳に射した影に顔を上げると、夕日に照らされた光秀の姿があった。逆光で表情はわからない。
 何も言わず入ってきた光秀は後ろ手に障子を閉めると、美琴との距離を詰める。

「あの……」

 何か用かと尋ねる前に、光秀の暗い声が被さってきた。

「ここは俺の館だ。俺がお前に何をしようと、咎める者はいない……」

 光秀の心の内に、美琴への思いが湧き上がる。
 牢に入れられながらも不遇な現状をたった一人で受け止め、耐え、邪険に扱われてもなお健気に暮らしている。多少の不満があってもおかしくはないはずだが、口に出さないどころか態度にも出さない。

 ここまで強い女と出会った事は、なかった。美琴の存在が、光秀の心の深奥に火種を蒔いたのだ。

 心情を悟られまいと発した光秀の声は、いつにも増して温度のないものとなる。

 なぜそんな事を言い出すのかと尋ねる時間は、美琴には与えられなかった。
 押し倒され、馬乗りになった光秀に身体を押さえつけられる。訳を考える間も無く唇が塞がれていた。

「んっ?」

 突然の出来事に思考が追いつかない。

「んん、んっ」

 息が苦しくなり、ようやく光秀の腕を叩く。

「っはー、はー」

 涙目で見上げた光秀の顔は何故か切なげに歪んでいるように見える。思わず彼の頰に手を伸ばすと、逞しい両腕に掻き抱かれた。

 光秀の様子が変だ。

 けれど、それを何とかしてやる術は美琴にはないように思えて、胸が苦しい。ここに来て、結局何の役にも立てず、自分の居場所も見つけられない事も、美琴の胸を締め付けた。

 再び光秀に口付けられた美琴は、抵抗するのをやめた。

 最初に言われた通り、ここで光秀に何をされても彼を咎める者はいないし、美琴を庇ってくれる者もいないのだ。
 知らぬ間に忍び込んできた光秀の舌にそれを絡め取られているうち、もう何も考えられなくなっていた。

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