光秀の甘やかな策略〜堕ちたのは戦国武将の腕の中

今雪みく

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天下を統べる者

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 切先はまだ、信長に向けられたままだ。

「今から俺が言うことを、心して聞け」

 光秀が、静かに語り出す。

「全ての民は戦などせず、身分により虐げられることはない。誰もが不安に怯えず、人が人を敬い、互いに助け合う。自らの信念に基づき、命を無駄にせず、精一杯生きる」

 俺の求めるのはそういう世だ、と光秀は信長に言って聞かせた。

「お前らしい理想だ、光秀」


「その理想を叶えるのは、信長、お前だ」

「なに?」

「俺が今までお前の横暴に耐えてきたのは、全て天下のため。覇王となり、天下をべる。それができるのは、俺ではない……お前だ」


 言葉を失った信長は、光秀を見つめる。


「お前には得体の知れない求心力がある。だからこそ皆に力を与え、皆の力をまとめる事もできるのだ。お前なら出来ると、俺は信じてきた。だが、その俺を信じられぬと言うのならば、ここで喉笛を搔き切るのは俺の方だ」

 いつになく饒舌な光秀の言葉は、本心からのものだろう。

 疑心暗鬼の信長が、戦友からもたらされる初めての肯定。裏切るのではないかと案じた光秀に、母親からもされ得なかった受容がされようとは。

 全ての思いを口にした光秀は、静かに刀を鞘に戻し、いつもの飄々とした男に戻った。




「如何でしょう? 信長様……」

 雲が月明かりを掠め、草地を闇が覆う。けれども風は、月の前に群がる雲をいつの間にか運び去り、辺りは再び月明かりに満ちた。

 どす、と腰を下ろした信長は、拳を草に打ち付け、光秀に深く頭を下げる。

「有難き言葉、この信長、貴殿の信念にいささかも異存なし。無礼の数々、お許し願いたい」

 いつになく真剣な信長の声に、聞いていた美琴も瞠目する。あの傲岸不遜な信長の言葉とは、とても信じ難い。

「許すも許さぬも、この光秀、元より信長様のお気持ちを拒んだことなどございませぬ。ただ……」

 光秀の視線が信長から美琴に移される。

「あの女は、お約束通り頂いてまいります」

 信長の口元がわずかに歪む。

「お前のものだ。早く連れて行け」

(私、何も言ってないのに)

 恭しく一礼した光秀が信長に背を向け、座り込んだ美琴の元へやって来る。

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