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20. 学園舞踏会
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日が落ち、空は暮色に包まれ、夜の闇に溶けようとしていた時刻。
続々と到着する馬車からは華美に着飾った若い男女が次々と降りてきていた。
私も皆の流れに沿うように、侍女と共に校舎内へと向かう。夜に開催される舞踏会ということで、学園側から使用人付きの登校を許可されていたのだ。
きらびやかな明かりを灯されたエントランスホールは、色とりどりのドレスの海に彩られ、その絢爛さには目がくらむほどだ。
まるで校舎が一夜にして魔法をかけられたような不思議な気分を味わいながら、一歩足を踏み入れる。
その華やかな中に、黒を基調とした夜会服の男性がぽつぽつと立っている。よく見るとそれは学園の教職員で、生徒の案内しているようだ。
女性の教職員は濃紺色のドレスで統一されているらしく、集まる生徒の振る舞いやマナーをチェックしている。
「ライラさん」
声を掛けられて振り向くと、マルクス先生がにこやかな笑顔で挨拶をされた。
他の男性教職員と同じように黒のシックな装いで、普段の柔和な雰囲気に比べるときりっと引き締まった印象だ。
私もご挨拶をすると、一年生の控室へ向かうよう指示される。
「控室では普段のような話し方でもいいけれど、一歩外に出たら淑女として振る舞うようにね」
この舞踏会は、正式な社交場として交流するようしっかり指導されている。
先生のいう通り、友人と一緒にいることで気を抜かないようにしなければ、と気を引き締めた。
案内の通りに控室のドアを開けると、華やかな衣装を纏ったクラスメイト達が楽しそうにはしゃいでいた。
いつもの見慣れた制服姿ではない、ドレスアップされた華やかな姿が別人のようで、不思議な感覚に陥る。
「ライラ! わぁ、やっぱり思った通り素敵!」
私にいち早く気付いたアネットが、まじまじと私を見つめた。
思ったことをすぐに口にするアネットは、とにかく色々なことにすぐ気付くし思いのまま素直な行動に出る。
それが仇となって作法の先生からよく注意を受けているけれど、私はそんなアネットが嫌いじゃない。
「アネットとエミリアは本当に色をお揃いにしたのね。でも二人とも似合っているわ」
どちらもライトグリーンのパステルカラーに白のレースがあしらわれていて、アネットは少しシャープに、エミリアはふんわりとしたデザインに仕上がっている。
私はというと、どうしても紫色の髪とキツい顔立ちからエミリアのような可愛らしい路線が似合わない。
母と話し合って、白生地に光沢のあるブルーの生地を織り交ぜた、比較的シンプルなデザインを注文した。
もう少し盛った方が良かったかな? と後から思ったけれど、髪をアップにするだけでかなり印象が変わってとても満足した。おもわず鏡の前でクルクル回って、自分に見惚れていた事は秘密だ。
マリーの姿が見えないので部屋の中を見渡すと、奥の方でマリーとその侍女が慌てたように髪を整えていることに気付いた。どうしたのかと声をかけに行くと、困った表情でこちらに顔を向けた。
「ライラ、ごきげんよう。……みんな素敵な装いをしているのに、私ったら髪が崩れちゃって…」
見るとサイドの髪が来る途中で崩れてしまったようで、若い侍女が直すのに四苦八苦している。
「あら……でも大きく崩れてはいないわね。それならそれで仕上げてみたらどうかしら。あえてそうしました風にしちゃって」
思えばこの世界で髪を上げているのは大人の女性で、皆綺麗にきっちり結い上げて、ルーズなヘアスタイルを見たことがない。
日本ではわざとルーズにして可愛く見せるテクニックがあったから、うまく整えさえすればそれほど違和感がないように思える。
ゆるふわ風にしちゃうのもありでしょ、ということで少しいじって整えてあげた。
本来だったらブロワイズ家の侍女の面子を潰してしまいかねないけれど、ここはまだ控室ということでどうか許してほしい。
「ちょっと、マリー可愛い……」
橙色の生地にクリーム色のレースをあしらった暖かみのあるドレスと、ルーズアップ風の栗色の髪が本人のおっとりしたキャラに合っていて、まるでお人形さんのようだ。
「ライラこそまるで別人みたい……その、綺麗すぎてちょっと驚いた」
お互いに褒め合っていたら、なんだか気恥ずかしくなって照れてしまった。一体何をやっているのか。
時間が来たことを告げられ、まずは一年生からホールへと向かう。
控室から出ると、反対側から歩いてきたディノと目が合った。深みのあるワインレッドのコートには美しい刺繍が施され、貴族然とした彼の装いにこちらもピンと背筋が伸びる。
「今宵はどうぞよろしくお願いしますね、ディノ様」
「こちらこそ、ライラ嬢」
ここからは本番だ。紳士淑女の振る舞いが私たちに求められる。
「マリー……、すごく可愛い…」
隣を見ると、数分前の私と同じ反応をしているエイデンがいた。
(ちょっと、チェックされるわよ!)
近くで待機している女性教師を目で追いつつ、小さな声でエイデンに教える。
その彼の後ろに、ルーク様の姿が見えた。一緒にいた職員の男性と言葉を交わしながらこちらの方へ歩いてくる。
私はすぐに膝を折り挨拶をすると、ルーク様は口を開くことなく私から顔を背けるようにして横を通っていかれた。
え? と呆然とその後ろ姿を目で追った。
そのまま私とディノの前に立つと、紺色のドレスを着た女性教師がルーク様の隣に並ぶ。
もしかして無視されてしまった? 本番直前になって大きく動揺してしまう。私の挨拶が目に入らなかっただけなのだろうか。
そんな私の不安をよそに、入場の音楽が流れだした。開けられた扉の中へ足を踏み入れ、ホール中心へと向かう。
ディノから差し出された手を取り、ゆっくりと歩きながら前にいるルーク様の後ろ姿を眺めた。
ため息が漏れてしまう。
先程の、顔を背けるルーク様の姿が目に浮かんだ。やはりあれは見間違いじゃないと思う。でも、どうして避けられたのか理由がわからない。
ドレスが似合っていなかった? キツい顔立ちが強調されてしまって見苦しかったのだろうかと、悪い想像が頭の中をぐるぐると回る。
ふいに、手をぎゅっと強く握られて、意識が浮上した。
ハッとして視線をディノに向けると、私と目を合わて不敵な笑みを見せる。
あまりにも私が気落ちしていたものだから、ディノがその様子に気付いたのかもしれない。
しっかりしないと。私が腑抜けていてはペアのディノにも失礼だ。相手の足を引っ張らないよう、しっかりと申し分ないダンスを披露しなくては。
そう思って気を取り直し、私もディノの手を強く握り返した。
初めての舞踏会は大成功だったと思う。
披露したダンスは緊張よりも楽しさが勝って、もうしばらく踊っていたい気分だった。
三年生の披露が終わると、そこからは立食パーティーへと移行する。
ルーク様は、先程のあれは何だったのかと思うほど、いつもと変わらない様子でお話をされて拍子抜けしてしまった。
会話も食事も一緒に楽しく過ごしたことで、あれは私が自意識過剰だったのだと結論付けた。
そうしてやや不穏に感じた一年目の舞踏会は、何事もなく平穏に幕を閉じることとなった。
続々と到着する馬車からは華美に着飾った若い男女が次々と降りてきていた。
私も皆の流れに沿うように、侍女と共に校舎内へと向かう。夜に開催される舞踏会ということで、学園側から使用人付きの登校を許可されていたのだ。
きらびやかな明かりを灯されたエントランスホールは、色とりどりのドレスの海に彩られ、その絢爛さには目がくらむほどだ。
まるで校舎が一夜にして魔法をかけられたような不思議な気分を味わいながら、一歩足を踏み入れる。
その華やかな中に、黒を基調とした夜会服の男性がぽつぽつと立っている。よく見るとそれは学園の教職員で、生徒の案内しているようだ。
女性の教職員は濃紺色のドレスで統一されているらしく、集まる生徒の振る舞いやマナーをチェックしている。
「ライラさん」
声を掛けられて振り向くと、マルクス先生がにこやかな笑顔で挨拶をされた。
他の男性教職員と同じように黒のシックな装いで、普段の柔和な雰囲気に比べるときりっと引き締まった印象だ。
私もご挨拶をすると、一年生の控室へ向かうよう指示される。
「控室では普段のような話し方でもいいけれど、一歩外に出たら淑女として振る舞うようにね」
この舞踏会は、正式な社交場として交流するようしっかり指導されている。
先生のいう通り、友人と一緒にいることで気を抜かないようにしなければ、と気を引き締めた。
案内の通りに控室のドアを開けると、華やかな衣装を纏ったクラスメイト達が楽しそうにはしゃいでいた。
いつもの見慣れた制服姿ではない、ドレスアップされた華やかな姿が別人のようで、不思議な感覚に陥る。
「ライラ! わぁ、やっぱり思った通り素敵!」
私にいち早く気付いたアネットが、まじまじと私を見つめた。
思ったことをすぐに口にするアネットは、とにかく色々なことにすぐ気付くし思いのまま素直な行動に出る。
それが仇となって作法の先生からよく注意を受けているけれど、私はそんなアネットが嫌いじゃない。
「アネットとエミリアは本当に色をお揃いにしたのね。でも二人とも似合っているわ」
どちらもライトグリーンのパステルカラーに白のレースがあしらわれていて、アネットは少しシャープに、エミリアはふんわりとしたデザインに仕上がっている。
私はというと、どうしても紫色の髪とキツい顔立ちからエミリアのような可愛らしい路線が似合わない。
母と話し合って、白生地に光沢のあるブルーの生地を織り交ぜた、比較的シンプルなデザインを注文した。
もう少し盛った方が良かったかな? と後から思ったけれど、髪をアップにするだけでかなり印象が変わってとても満足した。おもわず鏡の前でクルクル回って、自分に見惚れていた事は秘密だ。
マリーの姿が見えないので部屋の中を見渡すと、奥の方でマリーとその侍女が慌てたように髪を整えていることに気付いた。どうしたのかと声をかけに行くと、困った表情でこちらに顔を向けた。
「ライラ、ごきげんよう。……みんな素敵な装いをしているのに、私ったら髪が崩れちゃって…」
見るとサイドの髪が来る途中で崩れてしまったようで、若い侍女が直すのに四苦八苦している。
「あら……でも大きく崩れてはいないわね。それならそれで仕上げてみたらどうかしら。あえてそうしました風にしちゃって」
思えばこの世界で髪を上げているのは大人の女性で、皆綺麗にきっちり結い上げて、ルーズなヘアスタイルを見たことがない。
日本ではわざとルーズにして可愛く見せるテクニックがあったから、うまく整えさえすればそれほど違和感がないように思える。
ゆるふわ風にしちゃうのもありでしょ、ということで少しいじって整えてあげた。
本来だったらブロワイズ家の侍女の面子を潰してしまいかねないけれど、ここはまだ控室ということでどうか許してほしい。
「ちょっと、マリー可愛い……」
橙色の生地にクリーム色のレースをあしらった暖かみのあるドレスと、ルーズアップ風の栗色の髪が本人のおっとりしたキャラに合っていて、まるでお人形さんのようだ。
「ライラこそまるで別人みたい……その、綺麗すぎてちょっと驚いた」
お互いに褒め合っていたら、なんだか気恥ずかしくなって照れてしまった。一体何をやっているのか。
時間が来たことを告げられ、まずは一年生からホールへと向かう。
控室から出ると、反対側から歩いてきたディノと目が合った。深みのあるワインレッドのコートには美しい刺繍が施され、貴族然とした彼の装いにこちらもピンと背筋が伸びる。
「今宵はどうぞよろしくお願いしますね、ディノ様」
「こちらこそ、ライラ嬢」
ここからは本番だ。紳士淑女の振る舞いが私たちに求められる。
「マリー……、すごく可愛い…」
隣を見ると、数分前の私と同じ反応をしているエイデンがいた。
(ちょっと、チェックされるわよ!)
近くで待機している女性教師を目で追いつつ、小さな声でエイデンに教える。
その彼の後ろに、ルーク様の姿が見えた。一緒にいた職員の男性と言葉を交わしながらこちらの方へ歩いてくる。
私はすぐに膝を折り挨拶をすると、ルーク様は口を開くことなく私から顔を背けるようにして横を通っていかれた。
え? と呆然とその後ろ姿を目で追った。
そのまま私とディノの前に立つと、紺色のドレスを着た女性教師がルーク様の隣に並ぶ。
もしかして無視されてしまった? 本番直前になって大きく動揺してしまう。私の挨拶が目に入らなかっただけなのだろうか。
そんな私の不安をよそに、入場の音楽が流れだした。開けられた扉の中へ足を踏み入れ、ホール中心へと向かう。
ディノから差し出された手を取り、ゆっくりと歩きながら前にいるルーク様の後ろ姿を眺めた。
ため息が漏れてしまう。
先程の、顔を背けるルーク様の姿が目に浮かんだ。やはりあれは見間違いじゃないと思う。でも、どうして避けられたのか理由がわからない。
ドレスが似合っていなかった? キツい顔立ちが強調されてしまって見苦しかったのだろうかと、悪い想像が頭の中をぐるぐると回る。
ふいに、手をぎゅっと強く握られて、意識が浮上した。
ハッとして視線をディノに向けると、私と目を合わて不敵な笑みを見せる。
あまりにも私が気落ちしていたものだから、ディノがその様子に気付いたのかもしれない。
しっかりしないと。私が腑抜けていてはペアのディノにも失礼だ。相手の足を引っ張らないよう、しっかりと申し分ないダンスを披露しなくては。
そう思って気を取り直し、私もディノの手を強く握り返した。
初めての舞踏会は大成功だったと思う。
披露したダンスは緊張よりも楽しさが勝って、もうしばらく踊っていたい気分だった。
三年生の披露が終わると、そこからは立食パーティーへと移行する。
ルーク様は、先程のあれは何だったのかと思うほど、いつもと変わらない様子でお話をされて拍子抜けしてしまった。
会話も食事も一緒に楽しく過ごしたことで、あれは私が自意識過剰だったのだと結論付けた。
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