全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?

紅茶ガイデン

文字の大きさ
25 / 67

24. 三人目の聖女候補生

しおりを挟む
「ライラ、ちょっと来て!」

 教室に着くと、興奮したように私を呼ぶアネットが手招きをした。ざわついていた教室が急に静まり、視線がこちらに集まる。
 ルーク様は真後ろの席の生徒と何かを話していたけれど、私達の姿を見ると同様に口を閉じられた。

 一緒に教室に入ったディノとエイデンはちらりと女子たちに目をやり、そのまま自分の席へと歩いてゆく。
 私は呼ばれるがまま、アネットを中心にした女子生徒の輪の中に入っていった。

「ねぇ、今日この教室に転入生が来るらしいの。ライラは知ってる?」
 アネットは声を潜めながら鼻息荒く私に訊ねた。その勢いにやや気圧されながらとりあえず肯く。

「やっぱりライラも知っていたのね! さっき廊下でルーク様の話を通りすがりに聞いた人がいて、今その内容で話がもちきりなのよ。それに……」
 言いにくそうに少し口ごもる。

「その転入生、どうやら聖女候補生らしいって。本当だとしたらどういうことなの!?」
「変な話よね。同い年の令嬢ならば、仮に地方に住んでいたとしても一年から通うはずでしょう? 今更そんな人が現れるのかと皆で話していたのよ」

 アネットに続いてエミリアも不可解そうな口調で話す。
 疑問に思うことはもっともだ。この国の貴族の多くは王都に住み国政を担っているけれど、中には地方に居を構えている貴族もいる。
 十五歳になればミリシア学園で学ぶことを義務付けられているため、本来ならば親と離れてでも入学をしなければならない。だから途中から貴族クラスに入るなんてことは、特別な事情でも無い限りありえないのだ。

「王宮のお茶会にも参加しないで、いきなりやってきて聖女候補生だなんて考えられないわ。どういうことかわからないけれど、とにかく私達はライラの味方だし、応援してるから!」
 そうアネットが熱く語ってくれる。

「あら、皆さん集まってどうしたの?」
 聞き慣れた、のんびりした声が耳に入った。

「ごきげんようマリー。ちょっと聞いて、大変よ」

 新参者を逃がさないとばかりに一斉にマリーを取り囲み、また最初から同じ話が繰り広げられた。


 そしてチャイムが鳴り、いよいよヒロインが皆の前に登場する時が来た。
 扉が開きマルクス先生とジュリアが入室すると、言葉にならないどよめきが教室内に沸き上がる。

 無理もない。一緒に入ってきた生徒は、私たちの白制服と違いグレーの制服に身を包んでいるのだから。

「みなさん静かに。今日から二年生となり新たな学園生活が始まりますが、まず始めにお話しすることがあります」

 マルクス先生の挨拶に一同が静まり返る。
「今日からこのクラスに新しい生徒が加わることになります。彼女は地方の学校で学んでいましたが、高い精霊力を持つ特待生としてこの学園へ通うことになりました。ジュリア=ノースさん、まずは自己紹介を」

 そう促されてジュリアは一歩前に出でると、少し緊張した声で挨拶をした。

「初めまして。ジュリア=ノースです。今日から皆さんと一緒にお勉強させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします」

 澄んだハリのある可愛らしい声が教室に響いた。簡単な挨拶だけれどとても印象に残る声だ。

「制服を見ても分かる通り、彼女は平民です。しかし平民ながら異例の精霊力を持っていること、その能力が高いこと。それが国に認められたことにより新たな聖女候補生としてこのAクラスで学ぶことになりました」


 ざわざわとした重い空気を後ろから感じて、ちらりと振り返って見た。すると女子たちがものすごい顔をしてジュリアを凝視している。

 朝の彼女達の様子から、なんとなく予想はしていたけれど、これはヒロイン……改めジュリアにとって厳しい環境になりそうだ。
 このどうみてもアウェーな状況、皆が私を応援してくれる気持ちはとても嬉しいけれど、それが行き過ぎてしまわないか心配になる。

 たしかに私は対ヒロインに向けて、自分の味方を増やそうと頑張ってきた。そのおかげで今ではクラスに強い絆が芽生えているといってもいい。
 しかしそれは私に不利な状況を回避するためであって、ヒロインに対して敵意を向けてもらうつもりではなかった。

 どうしよう、この空気を変えないとちょっとまずいかもしれない。
 先生の話を聞きながら、そんなことを考えていた。
 

 案内されたジュリアの席は教室の最後列、家格順となっているため文字通り末席に座る。

 紹介を終えた先生は、今後の授業内容と予定などの話を始めた。その中で一年生から変わったこととして、精霊学の授業では魔法の実技を学ぶこと、それから聖女候補生は課外活動が始まることを説明する。
 それらのスケジュールの確認を終え、本日の授業は終了となった。
 
 チャイムが鳴ると同時に先生はジュリアを呼び出し、帰り支度をするよう言って教室から連れていった。



「ねぇ、平民て本当なの?」「聖女候補生だとしたらルーク様の婚約者候補ってことよね?」「そもそも平民が聖女だなんてありえないわ」

 二人が教室を出ていった途端、蜂の巣をつついた様に教室中がざわめいた。
 ただ男子生徒はまだ比較的落ち着いていて、どちらかといえば頬を緩めながらジュリアについて語り合っているようだ。あのヒロインオーラと圧倒的可愛らしさを目の当たりにしたら身分関係なく男なら惹かれてしまうのも頷ける。
 ルーク様やディノ達は特にいつもと変わらず帰り支度をしているけれど、攻略キャラなだけあってヒロインへの抵抗力でもあるのだろうか。


 私はそういった周囲の様子を見て、少し考えてから騒いでいる女子達に伝えた。

「私、ちょっと先生の所へ行ってくる。皆もどういうことか気になるでしょう? 私も聖女候補生として疑問に思うことがあるから色々と聞いてくるわ。少し待っていてくれる?」

 突然現れた聖女候補生が平民という事で、さらにジュリアにヘイトが集まってしまっている。
 どうにか一度落ち着いてもらいたかったけれど、今は皆も動揺して冷静ではいられないのだろう。そのためにも先生からしっかり話を聞いておこうと思った。

「私も一緒に行こうか?」

 マリーが心配そうに言ってきた。本人は全く意識していないようだけれど、彼女も立派な聖女候補生の一人である。そんなつもりではなかったのだろうけど、マリー自身も理解しておいた方がいいと思ったので頷いた。

「そうね、私も少し狼狽えているし、付いてきてもらってもいい?」

 そうお願いして、私たちはマルクス先生の元へ向かった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。 ​そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。 ​しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。 ​アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。 ​一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。 ​これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...