全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?

紅茶ガイデン

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37. 呼び出し

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 平民生徒を巻き込こんだ騒ぎとなったジュリアの教科書事件は、その過激な嫌がらせにクラス全体が衝撃を受けた様子だった。
 いつも賑やかだった教室が、息を潜めたように重苦しい。

 今日の全ての授業を終えた後、私はマルクス先生から職務室へ呼び出された。
 先にアネットとエミリアが呼ばれ、事の経緯を説明した後に私が呼ばれた形だ。マリーが一緒に行くと気遣ってくれたけれど、相手はマルクス先生だし大丈夫よと、言われた通りに一人で行くことを伝えた。

 被害者であるジュリアは、テラスを出た後は医務室で休んでいるらしく教室には戻ってきていない。
 いつも軽口の多いエイデンも、神妙な顔でディノとぼそぼそ何かを話し、ルーク様はというと元々感情をあまり表に出さない人なので、いつもと変わらない様子に見えた。



「失礼します」

 ドアをノックして職務室のドアを開けた。中にはマルクス先生と、顔色のすぐれないジュリアの姿があった。
 壁沿いに置かれた小さなソファに座っていた彼女は、私の顔を見るなりすぐに立ち上がる。

「ライラ!」
「ジュリア、顔色が悪いけれど気分はどう?」
「大丈夫……。教科書の事で怖くなって、連れられた先の医務室でさっきまで休ませてもらっていたの。でもまさか、ライラが犯人扱いされていたなんて……」

 青い顔をして、ごめんなさいと頭を下げた。
 その姿を見て、私は犯人に対して沸々とした怒りが湧いてくる。
 公開いじめみたいにテラスに破かれた教科書をばら撒かれて、その被害者が申し訳なく頭を下げる事態も許せなかった。

「ジュリアは謝らなくていいの。あなたは被害者なのよ。悪いのはこんな悪質な酷いことをした犯人なんだから」

「そうだね、ライラさんの言う通り君が責任を感じることはない。気持ちはわからなくはないけどね」
 安心させるような穏やかな口調でマルクス先生がジュリアに話す。

「さて、ライラさんをここに呼んだのは、今の話の件に君の名前が挙がっているからという事は理解しているみたいだね」
「はい」

 私も当然そのつもりで来ている。

「先に言っておくと、僕はライラさんが本を破いたなど思っていない。ジュリアさん自身が疑っていない事と、一年生からこのクラスを見てきた僕自身の判断だ」

 まっすぐに私の目を見て先生はそう言ってくれたけれど、その表情には憂いが見える。
 そして続けて、しかし平民棟で私に関する悪い噂が流れていること、それは学園長まですでに把握していることを伝えられた。

「もしかしたら学園から聴取されるかもしれない。聖女候補生がらみの話ということで重く受け止めているようだ」
「わかりました。心得ておきます」
「僕自身も君に対する評価を伝えて、誤解を解く努力をする。本当は、今回の事件を起こした張本人を探し出せればすむ話なんだが……」

 渋い顔をして眉を顰めるマルクス先生にジュリアが訴えた。

「先生、ライラさんが学園から呼び出されることがあったら私も一緒に行きます。彼女が犯人でないことを私自身が証明します」
「ありがとう。君も大変な思いをしたのに申し訳ない。僕の力が及ばなかった時はよろしく頼むよ」

 先生は私達にそう言って困ったように微笑んだ。




 その日学園から帰宅した私は、すぐに自室にこもった。いつものように侍女にお茶の支度だけしてもらい、部屋から出てもらうと私はゲーム攻略ノートを引っ張り出す。
 今回の不可解な事件、一体どういうことだろうとあれからずっと考えていた。

 平民生徒の間で私が犯人という事になっていることから、もしかしたらライラのイベントでそのような出来事があっただろうかと疑ったのだ。

 今まで攻略キャラのことは事細かに記してきたけれど、ライラに関してはあまり考えてこなかった。
 それは私自身がライラであることから、ゲームでの彼女の行動を記しておく必要性を感じなかったからだ。自分の好きなように動けるし、コントロールができると思っていたせいもある。
 でもまさか、やってもいないことを私のせいにされるとは思わず、ここに来て改めてライラについて思い返すことになった。

 ノートをめくりながら少しずつ記憶を手繰り寄せていく。こうして読み流しているだけでも、普段忘れているゲームの記憶がより鮮明に思い出せるのだ。
 そうしてしばらくの間ライラの記憶を引き出してみたけれど、やはり教科書破りというイベントは無かったはずだ。

 嫌がらせは確かにあった。印象に残っていて悪質だと思ったものは『不幸の手紙』だ。
 ある条件が揃うと、ラブレターの形で不幸の手紙を机に入れられ『ライラ様こそ聖女に相応しい』という手紙を書きまくるというイベント。
 表現としてはコミカルな描写だったけれど、そのために昼と放課後のターンを潰されるという、だるい思い出があった。
 そんな嫌がらせイベントはいくつかあったけれど、どれもイタズラ程度のもので、今回のような相手の私物を破壊するようなガチなものではなかったはずだ。

 だからヒロイン毒殺未遂事件が起きた時、どこかコミカルさのあった悪役令嬢ライラが、突然シリアス悪役令嬢に豹変したことに驚いたものだった。

 私がゲームとは違う人間関係を築いてきたことによるストーリーの歪みなのか、それとも運命の力によって私が悪役令嬢になるよう引き戻されているのか。
 今はまだ理由もわからないけれど、何かが動き始めていることを肌で感じていた。
 


 そして二日後、マルクス先生から言われていた通り、私は学園長室に呼ばれることになった。

 学園長、教頭、祭司に囲まれ、噂についての事実確認をされた。祭司は、この学園の大講堂を管理する役職の人で、精霊祭などの節目の行事を執り行ったり、生徒たちの相談を受けたりする聖職者のような人だ。今はそれに加えて、聖女候補生の資質を見極める重要な役割を担う人である。

 一緒に行くと言ってくれたジュリア自身も呼び出されたため二人で向かうと、始めに聞き取りをされたのはジュリアで、その次に私が呼ばれた。

 結論からいうと、今回の事件も噂される悪事も私は不問ということになった。
 噂は大きく広まっているが、それを証明するものがなく被害者であるジュリア自身が強く否定しているということから、今回は追及しないということに落ち着いたらしい。

 ジュリアから聞いた話では、私から嫌がらせを受けていないと何度説明しても、脅されて言わされているのではないかとしつこく聞かれたそうだ。

「どうしてライラが疑われなくちゃならないの」
 そう話すジュリアの顔は珍しく怒っている。

「私なら大丈夫よ。ジュリアもクラスの皆も私を信じてくれているから、ちょっと他人から疑われたぐらいで傷ついたりしないわ。私を庇ってくれてありがとう」

 私の名誉を守ろうと、学園長たちを前にして頑張ってくれたジュリアに感謝の言葉を伝えた。

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