38 / 67
37. 呼び出し
しおりを挟む平民生徒を巻き込こんだ騒ぎとなったジュリアの教科書事件は、その過激な嫌がらせにクラス全体が衝撃を受けた様子だった。
いつも賑やかだった教室が、息を潜めたように重苦しい。
今日の全ての授業を終えた後、私はマルクス先生から職務室へ呼び出された。
先にアネットとエミリアが呼ばれ、事の経緯を説明した後に私が呼ばれた形だ。マリーが一緒に行くと気遣ってくれたけれど、相手はマルクス先生だし大丈夫よと、言われた通りに一人で行くことを伝えた。
被害者であるジュリアは、テラスを出た後は医務室で休んでいるらしく教室には戻ってきていない。
いつも軽口の多いエイデンも、神妙な顔でディノとぼそぼそ何かを話し、ルーク様はというと元々感情をあまり表に出さない人なので、いつもと変わらない様子に見えた。
「失礼します」
ドアをノックして職務室のドアを開けた。中にはマルクス先生と、顔色のすぐれないジュリアの姿があった。
壁沿いに置かれた小さなソファに座っていた彼女は、私の顔を見るなりすぐに立ち上がる。
「ライラ!」
「ジュリア、顔色が悪いけれど気分はどう?」
「大丈夫……。教科書の事で怖くなって、連れられた先の医務室でさっきまで休ませてもらっていたの。でもまさか、ライラが犯人扱いされていたなんて……」
青い顔をして、ごめんなさいと頭を下げた。
その姿を見て、私は犯人に対して沸々とした怒りが湧いてくる。
公開いじめみたいにテラスに破かれた教科書をばら撒かれて、その被害者が申し訳なく頭を下げる事態も許せなかった。
「ジュリアは謝らなくていいの。あなたは被害者なのよ。悪いのはこんな悪質な酷いことをした犯人なんだから」
「そうだね、ライラさんの言う通り君が責任を感じることはない。気持ちはわからなくはないけどね」
安心させるような穏やかな口調でマルクス先生がジュリアに話す。
「さて、ライラさんをここに呼んだのは、今の話の件に君の名前が挙がっているからという事は理解しているみたいだね」
「はい」
私も当然そのつもりで来ている。
「先に言っておくと、僕はライラさんが本を破いたなど思っていない。ジュリアさん自身が疑っていない事と、一年生からこのクラスを見てきた僕自身の判断だ」
まっすぐに私の目を見て先生はそう言ってくれたけれど、その表情には憂いが見える。
そして続けて、しかし平民棟で私に関する悪い噂が流れていること、それは学園長まですでに把握していることを伝えられた。
「もしかしたら学園から聴取されるかもしれない。聖女候補生がらみの話ということで重く受け止めているようだ」
「わかりました。心得ておきます」
「僕自身も君に対する評価を伝えて、誤解を解く努力をする。本当は、今回の事件を起こした張本人を探し出せればすむ話なんだが……」
渋い顔をして眉を顰めるマルクス先生にジュリアが訴えた。
「先生、ライラさんが学園から呼び出されることがあったら私も一緒に行きます。彼女が犯人でないことを私自身が証明します」
「ありがとう。君も大変な思いをしたのに申し訳ない。僕の力が及ばなかった時はよろしく頼むよ」
先生は私達にそう言って困ったように微笑んだ。
その日学園から帰宅した私は、すぐに自室にこもった。いつものように侍女にお茶の支度だけしてもらい、部屋から出てもらうと私はゲーム攻略ノートを引っ張り出す。
今回の不可解な事件、一体どういうことだろうとあれからずっと考えていた。
平民生徒の間で私が犯人という事になっていることから、もしかしたらライラのイベントでそのような出来事があっただろうかと疑ったのだ。
今まで攻略キャラのことは事細かに記してきたけれど、ライラに関してはあまり考えてこなかった。
それは私自身がライラであることから、ゲームでの彼女の行動を記しておく必要性を感じなかったからだ。自分の好きなように動けるし、コントロールができると思っていたせいもある。
でもまさか、やってもいないことを私のせいにされるとは思わず、ここに来て改めてライラについて思い返すことになった。
ノートをめくりながら少しずつ記憶を手繰り寄せていく。こうして読み流しているだけでも、普段忘れているゲームの記憶がより鮮明に思い出せるのだ。
そうしてしばらくの間ライラの記憶を引き出してみたけれど、やはり教科書破りというイベントは無かったはずだ。
嫌がらせは確かにあった。印象に残っていて悪質だと思ったものは『不幸の手紙』だ。
ある条件が揃うと、ラブレターの形で不幸の手紙を机に入れられ『ライラ様こそ聖女に相応しい』という手紙を書きまくるというイベント。
表現としてはコミカルな描写だったけれど、そのために昼と放課後のターンを潰されるという、だるい思い出があった。
そんな嫌がらせイベントはいくつかあったけれど、どれもイタズラ程度のもので、今回のような相手の私物を破壊するようなガチなものではなかったはずだ。
だからヒロイン毒殺未遂事件が起きた時、どこかコミカルさのあった悪役令嬢ライラが、突然シリアス悪役令嬢に豹変したことに驚いたものだった。
私がゲームとは違う人間関係を築いてきたことによるストーリーの歪みなのか、それとも運命の力によって私が悪役令嬢になるよう引き戻されているのか。
今はまだ理由もわからないけれど、何かが動き始めていることを肌で感じていた。
そして二日後、マルクス先生から言われていた通り、私は学園長室に呼ばれることになった。
学園長、教頭、祭司に囲まれ、噂についての事実確認をされた。祭司は、この学園の大講堂を管理する役職の人で、精霊祭などの節目の行事を執り行ったり、生徒たちの相談を受けたりする聖職者のような人だ。今はそれに加えて、聖女候補生の資質を見極める重要な役割を担う人である。
一緒に行くと言ってくれたジュリア自身も呼び出されたため二人で向かうと、始めに聞き取りをされたのはジュリアで、その次に私が呼ばれた。
結論からいうと、今回の事件も噂される悪事も私は不問ということになった。
噂は大きく広まっているが、それを証明するものがなく被害者であるジュリア自身が強く否定しているということから、今回は追及しないということに落ち着いたらしい。
ジュリアから聞いた話では、私から嫌がらせを受けていないと何度説明しても、脅されて言わされているのではないかとしつこく聞かれたそうだ。
「どうしてライラが疑われなくちゃならないの」
そう話すジュリアの顔は珍しく怒っている。
「私なら大丈夫よ。ジュリアもクラスの皆も私を信じてくれているから、ちょっと他人から疑われたぐらいで傷ついたりしないわ。私を庇ってくれてありがとう」
私の名誉を守ろうと、学園長たちを前にして頑張ってくれたジュリアに感謝の言葉を伝えた。
2
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます
咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。
そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。
しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。
アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。
一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。
これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる