53 / 67
52. 告白①
しおりを挟むその日の私はいつもと変わりの無いように過ごした。
登校して皆と挨拶を交わして、真面目に授業を受けて、休み時間にはマリーや他の友達と談笑する。
精霊祭まであと三日となった今日、とうとう運命の日を迎えることになった。
十二歳で佳奈の記憶を取り戻してから約六年。
調べるものは調べて、探れるものは探ってきたけれど、何をやるべきだったのか何が正解だったのかわからないまま、闇雲に歩いてこの日まで辿り着いた。
それでも、やれることはやって準備は整えてある。
お昼休みに入って、私はすぐに隣の席のルーク様に声を掛けた。
「ルーク様、少しお話してもよろしいですか?」
もうずっと言葉を交わさなかった私からの呼びかけに、彼は少しばかり驚いた表情を見せた。
「……なんだ?」
一瞬だけ合った視線を外し、彼はそっけなく答える。
「ルーク様にお伝えしたいことがあるのです。少々長い話となりますので、放課後にお付き合いいただけませんか?」
「いや、申し訳ないが私は……」
「お願いします、これ以降、私はルーク様に何も望むことは致しません。私の最後の願いと思って聞いて頂けませんか」
張り詰めた空気が伝わったのか、クラスメイト達がこちらを振り返った。教室はしんと静まり返り、皆遠巻きにこちらを見ているのがわかる。視界の先には不安そうな顔をしたジュリアがいた。
私は真剣な眼差しでルーク様と向き合い、改めて「お願いします」と繰り返した。
「……わかった」
ルーク様は溜息混じりに呟き、いつものようにジュリアを誘って教室を出て行った。
私たちの異様な様子に、アネットを先頭にクラスメイト達が一体どうしたのかと騒ぎだす。隣にいたマリーは、黙って私を見ていた。
「皆そんなに気にしないで。私だってたまにはルーク様とお話したくなっただけなのよ」
そう軽く流してマリーを昼食に誘った。
教室から出る時、さりげなくエイデンに目を配ると、彼は理解したという風にアイコンタクトを取る。私は小さく頷き、マリーと共に教室を後にした。
王妃と密談を交わした光の精霊殿巡拝の翌週、最後の巡拝先に選んだのは風の精霊殿だった。これは私がそうなるように計画的に組んだスケジュールだ。
王妃から暗殺の打診がされるであろう日の後に、エイデンと打ち合わせる時間が欲しかったからだ。
その日、私はエイデンにいくつかのお願いをした。
一つは、私がルーク様を放課後のテラスに呼び出す日が来たら、その時は私達の会話を盗聴してしっかり話を聞いていてほしいということ。もし他の誰かが私たちを盗聴していたとしても、相手に悟られてもいいから手を引かずにそのまま聞き続けてもらいたいことを伝えた。
そして二つ目は、クラスメイト達を連れて、窓越しでいいからテラスの近くで私たちの様子を見ていてほしいということをお願いした。
そしてエイデンには同時に購買所の職員の動きを見てもらい、もし不審な動きがあったらすぐに先生に知らせてほしい事を伝えた。
理由も話さずお願いだけをする私に、エイデンは隠し事をするなと根掘り葉掘り聞いてきたけれど、それは当日にわかるとだけ伝えた。
彼は不満げな様子を見せていたけれど、約束通り請け負ってくれてほっとした。
終業の鐘が校舎に鳴り響き、とうとうその時がやってきた。
先生が教室を出て行ってから、私はすぐにルーク様に声を掛けた。皆がこちらを気にして静かに見守るなか、彼を促して教室を後にする。
「ルーク様はお先に席についていてください。私がお茶をお持ちします」
そう言ってルーク様にはテラスに先に行ってもらい、私は購買所の職員に二人分のティーセットを注文した。
『学園のテラス前に購買所があるわね? そこでティーセットを受け取るだけでいいの』
王妃の計画を頭に蘇らせて、手際よく準備をする彼の顔を観察した。テラスで食事をするようになってからたまに顔を合わしていた、平凡な顔立ちのごく普通の青年。
『はっきり言うと、購買所であなたに手渡す人はあなたの命を狙っているの。彼はルークもその計画に加担していると思っているわ。だから安心してあなたに毒を持たせる。それをあなたは知らずにルークの紅茶に砂糖を入れてしまうのよ』
この無害そうな購買所の職員が、王妃の刺客であったことが意外だった。しかも彼は私を殺すつもりでここに居る。
つまり、これまで苦しめられてきたジュリアへの嫌がらせと私の悪評を立てたのは、この彼の仕業だったと考えていいのだろうか。
「お待たせしました」
爽やかな笑顔でトレーを渡された。二つのカップと一つのティーポット、そして砂糖の入った陶器と少量のクッキーが添えられている。
私は彼をさり気なく見て、何も言わずにそれを受け取りルーク様のいるテーブルへと向かった。
いつも昼食時にジュリアが使っているテーブルにルーク様が座っている。
私はトレーからティーカップをテーブル上に移した。
「……ありがとう。では私が入れよう」
そう言ってルーク様がティーポットに手を伸ばすのを見て、私もすぐに手を伸ばしてそれを抑えた。
「いえ、ルーク様にそのようなことをさせられません。私がお入れしますわ」
その勢いに驚いた様子で、彼はそのまま引き下がる。
そのまま二つのカップに紅茶を注ぎ入れ、片方をルーク様の前に差し出した。私も自分のカップを手前に置くと、砂糖入れを手元に引き寄せスプーン一杯分を自らの紅茶に入れてかきまぜた。
「ルーク様、お茶を頂く前に私にお話をさせていただいてもよろしいでしょうか」
スプーンをソーサーに置き、まっすぐにルーク様を見つめた。緊張と高揚が混ざり合い、心臓の鼓動が早くなる。
周囲にさりげなく目を配ると、エイデンが引き連れて来たであろうクラスメイト達がガラス越しにこちらを見てくれている。それにつられるように、下校途中の生徒達が次々に立ち止まり、何事かというように人だかりができていた。
これだけギャラリーがいれば上等だ。
私はこの日の為に頭の中でシミュレーションしてきた最初の言葉を口に乗せた。
「ルーク様は、前世というものがあると思いますか?」
3
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます
咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。
そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。
しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。
アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。
一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。
これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)
犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。
『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』
ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。
まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。
みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。
でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる