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〜アフターエピソード〜
ドレスの注文
しおりを挟むその日、私は王都の一等地にあるお店へと向かっていた。
無事に聖女戴冠式とルーク様との婚約式を終えた私は、今では復学をして以前のように皆と授業を受けている。
その少し後にはルーク様も長い休学を終えて学園へと戻っていた。
次期聖女、そして王太子となった私達。それでも学園内では特別に扱いが変わることはない。
けれど一つだけ特別なことがあった。それは二か月後に行われる私たちにとって最後の学園舞踏会。そのペアに、私とルーク様が決まっていた。
そういうわけで休みである今日、その晴れ舞台のドレスを作りに私は街に繰り出している。
本来ならばわざわざ外に出るまでもなく、コンスティ家には専属の仕立て師がいる。今までのドレスはそこで作られていたのだけれど、今回のこの舞踏会では別の人に頼みたかったのだ。
それはジュリアのオジサマ、服飾店を経営するベンジャミン=テイラーの店だ。
馬車が道の端に寄って停車する。どうやら目的地についたらしい。降車し、侍女を連れて店の中へと入っていった。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、ライラ=コンスティ様」
そう言って妖艶な笑みをたたえる美しい男性が迎え入れてくれた。きちんとした身なりの服を着ているけれど、隠しきれない色気を纏っている。
「ライラ、いらっしゃい! ね、オジサマ。本当に聖女様のように綺麗な方でしょ?」
「もう、ジュリアちゃんたら! 聖女様のようにじゃなくて、聖女様でしょ! ……失礼しました、ライラ様のことはこのジュリアからいつもお話を伺っております。私はこの店の経営者ベンジャミンでございます」
私はこのオジサマ、ベンジャミンを前にして感動に打ち震えていた。『GG』のゲームでとてもお世話になった思い出深い人。選択肢を外して上手くいかなかったり、悪役令嬢ライラに妨害されてイベントが潰されたりした時など、いつも慰め励ましてくれたのは彼だった。
ゲームの癒し枠でもあった彼は、ある意味一番人気でもあったけれど。
「……ベンジャミンですね。そのお名前覚えておきます。昨年に見たジュリアのドレスがとても素敵なものだったので、是非あなたに私のドレスを作ってもらいたいと思っていたのですよ」
ここは学園ではない。ジュリアがいるとはいえ、一応侯爵令嬢という立場を意識して振る舞う。
「ライラ、今日は他の従業員さんはお休みだから普段通りで大丈夫よ。それに、あなたがなぜわざわざお店まで足を運んでくれるのかという理由も話してあるから」
ジュリアが横から口を挟んできた。本来は貴族が何かを外注する場合、商人や職人を屋敷に呼びつけるのが一般的だ。こうして自ら足を運ぶなんてことはしない。けれど私はどうしてもオジサマのいるお店に行きたくて、ジュリアにはこちらから出向くことを事前に話していたのだ。
「えっ、そうなの?」
それって私が昔からオジサマの事を知っていて、目的がオジサマに会いたいからという理由ということよね? そうだとしたらちょっと恥ずかしい。
「ジュリアから色々とお話を伺っておりますよ。とても不思議で魅力的なお話でしたが、この世にはわからない、知らないことがたくさんございます。もし前世……昔のライラ様と私との間にご縁があったのだとしたら、それは私にとって光栄なことでございます」
そう言って、オジサマは爽やかにウィンクをしてくれた。
懐かしい、実家のような安心感。私はほっと肩の力を抜いた。
「初めまして、オジ……ベンジャミンさん。ということは大体の事はジュリアから聞いているということですね?」
「ええ。というより、街の人々の間でもライラ様について噂が広まっているのですよ。新しい聖女様は予知能力があるお方だとか、千里眼をお持ちだとか。それでジュリアに聞いたのです。そうしたら、まぁびっくりするお話で」
オジサマはそう言って面白そうに話す。
確かに私のあの話は拡散させるように仕向けたわけだけれど、それが一般市民にまで広がっているとは思わなかった。しかも尾ひれまでついて予知能力者という話になっているし。
私は改めて事の経緯を簡単に説明しながら、オジサマに会いたかったことを自分の口で伝えた。そして、ジュリアのオジサマということで、私もオジサマと呼んでもいいか尋ねたらよろこんで承諾してくれた。
「それはもう、私の方こそ嬉しいお言葉ですわ。では可愛い二人の為に、腕によりをかけてドレスを作らせていただきます」
もうオネエを取り繕うともせず、張り切って作業室へと案内された。
必要な寸法をとり、私の希望を聞いて具体的なデザインを決めてゆく。サラサラとラフに描いているように見えて、次第にしっかりとしたドレスの絵が出来上がっていくことに驚く。
「絵だけでも素敵なドレスとわかるわ。オジサマ、ありがとう!」
「どういたしまして。ライラちゃんて本当に不思議な子よね。侯爵のご令嬢で聖女様だというのに、なんだか昔からの知り合いのような親しみやすさを感じるわ」
この三人と侍女を交えて、わいわい言いながらデザインを決めているうちに、オジサマはいつの間にか私のことを「ライラちゃん」と呼ぶようになっていた。それがどこかくすぐったく、とても嬉しい。
デザインがようやく決まった後はお茶を頂いて、とても楽しい時間を過ごすことができた。
初めてオジサマの手で作られたドレスを着て、ルーク様とダンスを踊ることができる。私は期待を大きく膨らませて、侍女と共に家路に着いた。
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