全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?

紅茶ガイデン

文字の大きさ
65 / 67
〜アフターエピソード〜

最後の学園舞踏会

しおりを挟む
 


 とうとう待ちわびた学園舞踏会がやってきた。
 ルーク様と踊ることを望みながら、叶うことはないと諦めた夢。それが今、現実になろうとしている。


 私は一人その時をソワソワとして待っている。
 今までのような女子控室ではなく、来賓用の個室。正式に新聖女となった今、ルーク様と同様に個室を用意されていた。

 私が学園に降り立てば、周囲にいたドレスアップした下級生たちがハッと気付いてわざわざ立ち止まり私に礼をする。
 この日まで学園で特別扱いをされたわけでも、注目を浴びてきたわけでもなかったから驚いた。私が歩くと混雑した場に道が開かれ、なんだか不思議な気分にかられながら用意された部屋へと向かう。

 正直なところ、私だけ控室を分けられたことは少し残念でもあった。今までみたいに、皆とわいわい言い合うドレス品評会が楽しみだったけれど仕方がない。私にとってかけがえのない夢が叶ったのだから、贅沢を言ったら罰が当たってしまう。皆とのやりとりは、ホールで合流してからの楽しみにしよう。


 静かな部屋に、外の音楽がかすかに漏れ聞こえてきた。一年、二年の音楽が終わって、三年生の課題曲が流れ始める。

 三年生の筆頭ペアは、マリーとエイデン、そしてジュリアとディノ。エイデンは三年間通してマリーと組めたことを「俺達もきっと運命なのかもしれない」と喜んでいた。そしてジュリアは、聖女の補佐役が任命されたことで守護貴族であるディノと組むことになった。

 私は控室で三年生の課題曲を聞きながら、次第に胸が高まっていく。
 クラスメイト達の披露が終わったら、次は私とルーク様二人だけで入場だ。聖女選定クラスの最終学年、最後は王太子と聖女のお披露目会となる。


「ライラ様のご案内に参りました」

 職員が部屋を訪れそう告げた。私は背筋を伸ばし部屋を後にしてダンスホールへと向かう。そしてホールの扉の前まで来ると、すでに到着していたルーク様が私の姿に目をとめた。

「ライラ……」
 目を逸らさずに見つめられて、私は照れを隠しながら淑女の礼を取った。

「それでは私達も、これからの時間を楽しもうか」

 そう言って笑顔を見せたルーク様に頷いてみせると、差し出された手を取って音楽と共に開かれた扉の向こうへと足を踏み出した。




 大きなシャンデリアの下、軽やかな音楽に合わせて足を運ぶ。彼と目を合わせくるりと回ってまた彼を見上げれば、彼もまた見つめ返して微笑む。まるで魔法にかかったようなふわふわとした夢のような時間は、名残惜しくも音楽と共に終わりに向かう。

 気が付けば、ホールには割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響いていた。
 踊り終えて少し息が上がるのを抑えながら、彼と手をつないだまま終わりの挨拶をした。



「もう、二人とも素敵すぎ! ライラなんて本当に聖女様そのものだわ!」

 思った通りアネットが一番に声を上げた。待ちきれないとばかりに、三年生エリアに入った私たちに前のめりで話し出す。

 それに対して他の皆は、瞬きもせずに声もなく私を眺めている。きっとこのドレスの出来栄えに目を奪われているのかもしれない。そう思うくらい私にとって完璧な衣装だった。

「どう、素敵でしょう? ジュリアのオジサマに作っていただいたの。……ルーク様のお色に合わせたくて」

 自分で言いながら照れてしまった。もう気持ちを隠さなくていいとわかっているのに、まだ恥じらう心が残っているらしい。

 私はオジサマに白のドレスを作るようお願いをしていた。これは、ゲームの選択肢でルーク様を選ぶ色だったものだ。今更ゲームに準じるつもりはなかったのだけれど、これは私の気持ちとしてルーク様に合わせた色で作りたいという希望があった。
 胸元とレースにはシャンパンゴールドの生地を合わせ、上から下に流れるように薄い紫色の刺繍が飾られている。私の白いドレスという要望に、貴女らしいデザインも入れましょうというオジサマの提案で、この美しいドレスが仕上がった。

 そしてルーク様の装いには、胸元に薄紫の装飾が付けられている。私が思うのと同じように、私の色を意識してそれを身に着けてくれたのだろうか。

「うん……、ドレスが素晴らしいことは確かだけど、それよりもライラがなんだかとても……」

 マリーがそう言うと、周りがうんうんと頷いて続ける。

「言いたいことはわかるわ、なんだかライラが私たちとは別世界の人のような、手の届かない人になってしまったみたいで……」

 そんな風にぽつぽつと言葉が続く。あまりに素晴らしい神々しいドレスに、どうやら皆の目が眩んでしまったらしい。すると、いつもの調子でエイデンが口を挟んできた。

「皆大袈裟だなー。ライラはライラだろ? ていうかむしろ別世界からこっちに生まれ変わってきたから今ここにいるんだけど」

 そう言って軽くおどけて見せる。
 エイデンが私の前世ネタを振って小さな笑いを取るので、私も一緒になってクスリと笑った。そういえば私の休学が開けた後、クラスメイトからは色々と質問攻めにされてなかなか大変だったことを思い出す。

 彼らにとっては異世界である日本のことはもちろん、どんなものがその世界にはあって、そしてゲームとはやんぞやというところまで色々と聞かれまくった。
 未知の世界に興味が湧くのはどの世界でも同じなんだなと思いつつ、自分のわかる範囲のことは何でも話した。

「でも、本来の物語のライラが悪役でジュリアをイジメていたなんて信じられないわ。逆にそんな悪役令嬢ライラもちょっと見てみたい」

 アネットの隣にいたエミリアがそんな怖いことを言う。それに賛同して、ジュリアを含めた皆も面白そうにうんうんと頷いているからさらに怖い。

「ちょっと、それは見てないから言えるのよ? 逐一出てきては絡まれて、本当にうんざりするんだから!」

 そんな話で沸いていると、ディノは思い出したように話した。

「そういえば別の世界からの転生者という話は何かの本で読んだことがあるな。大昔の話で信憑性のないものだと思っていたが、本当にそんなこともあったのかもしれないということか」

「私も他の国の伝承でそんな話を聞いたことがある。以前にもライラと同じような人間がいたというなら興味深いものだ」

 ルーク様もどうやら知っている話らしい。読書家で各国の歴史にも詳しいこの二人が言うのならば、もしかしたら本当に私以外にも転生者がいたのかもしれない。

 そんなふうに思いを馳せていると、ディノが現実に話を引き戻した。

「それにしてもジュリアがここまでダンスが上手くなっていたとは驚いた。去年のセンセイが良かったおかげかな」
 そう言ってルーク様を見て笑う。

「私のせいじゃないさ。元々ジュリアのセンスが良かったうえに、先生の指導が上手だった」
「あの頃の私はとにかく必死で、余計な事を考えずにダンスに打ち込んでいたんです。それでも今年は今年で、ディノ様の動きについていくのは大変だったんですよ」

 初めて出会った頃のような明るい表情で、少しだけ大人っぽくなったジュリアがそう語る。


 今年で最後となる学園舞踏会。私たちは時間いっぱい尽きない話をして、最後まで楽しんだ。
 これから私たちはミリシア学園での思い出を胸に、それぞれの未来へと向かっていく。

 そしてたまには、皆とこうして会える日を思い描いて。
 この幸せな時間を大切に過ごしたいと思った。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと
恋愛
王宮で侍女として働く私、アリシアは、前世の記憶を持つ転生者。清掃員だった前世の知識を活かし、お掃除に情熱を燃やす日々を送っていた。その情熱はいつしか「浄化」というユニークスキルにまで開花!…したことに本人は全く気づいていない。 ​そんなある日、婚約者である第二王子から「お前の周りだけ綺麗すぎて不気味だ!俺の完璧な美貌が霞む!」という理不尽な理由で婚約破棄され、瘴気が漂うという辺境の地へ追放されてしまう。 ​しかし、アリシアはへこたれない。「これで思う存分お掃除ができる!」と目を輝かせ、意気揚々と辺境へ。そこで出会ったのは、「氷の騎士」と恐れられるほど冷徹で、実は極度の綺麗好きである辺境伯カイだった。 ​アリシアがただただ夢中で掃除をすると、瘴気に汚染された土地は浄化され、作物も豊かに実り始める。呪われた森は聖域に変わり、魔物さえも彼女に懐いてしまう。本人はただ掃除をしているだけなのに、周囲からは「伝説の浄化の聖女様」と崇められていく。 ​一方、カイはアリシアの完璧な仕事ぶり(浄化スキル)に心酔。「君の磨き上げた床は宝石よりも美しい。君こそ私の女神だ」と、猛烈なアタックを開始。アリシアは「お掃除道具をたくさんくれるなんて、なんて良いご主人様!」と、これまた盛大に勘違い。 ​これは、お掃除大好き侍女が、無自覚な浄化スキルで辺境をピカピカに改革し、綺麗好きなハイスペックヒーローに溺愛される、勘違いから始まる心温まる異世界ラブコメディ。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...