スターゲイザー

第一章 その天使は星空に堕ちる

第4羽-3

　天使一羽の気配もない住宅街を、森へ向かいながら歩いているのは、言うまでもなくウリルであった。
　
「ここを歩くのは何百年ぶりじゃろうか。なつかしいったらありゃしないわい。ア・イ・ツ・の目が届かなければ、いつまでもここにいたんじゃがな」
　
　そう振り返り彼が見つめた先には、ただ何もない虚空だけがあった。こんな時、ウリルは毎度毎度同じ問いを繰り返してしまうのであった。
　
「……わしのやろうとしていることは、本当に正しいのじゃろうか。本当は、ずっとこ・の・ま・ま・でいいんじゃないだろうか」

　そう独り言をつぶやくと、突然翼をはためかせ、数メートルほどその場で飛び跳ねた。周りの建物が視界から外れると、都市部の道が開けて見えた。道の先には、さきほど見送ったフォルンとハニエ、そして顔の知らないもう二羽の天使が座りこんでいるのが見えた。すると間もないほどに四羽は立ち上がり、笑顔で奥の"塔"へと走り去っていく。

「きっとあの幸せも終わりを迎えてしまのだろう。わしの選択一つで、す・べ・て・壊・れ・る・」
　
　周りに広がる無音の空気だけがその老体を囲む。ひんやりとしたその感触から身を隠そうと、翼を折りたたむことも彼はしなかった。
　
「…それでもこれは、わしの願い。いや、今までのみんな、そしてなによりア・イ・ツ・自身との誓いなんじゃ。どうか許してくれ……だなんて言えることじゃあないが」
　
　その場で羽ばたき続けている彼の目は、やがて遠くのフォルンの姿を見て離さなくなった。
　
「でも、、お前は望んでないわけではないのじゃろう？」
　
――僕がもっと大きくなったらさ、きらきらしたものでこの空を埋め尽くしてみたいんだ

「もしそれが、本当の楽・園・だというなら、そうだと教えてくれ。少なくともいつかきっとわしが見せてやる。お前にも、アイツにも、みんなにも。だから――」

　虚空を見ているはずの彼の瞳は、まるで何かを反射したように輝いていた。

「そのまま、見上げ続けていてくれ。
　きっと聞こえてくるじゃろう。
　誰かが名前を呼ぶのを。
　きっとそれは、お前を、
　見・守・っ・て・く・れ・て・い・る・から」

　◇◇◇

「ん？...あれ、」
　建物の階段を上がろうとした少年は後ろを振り返る。

「フォルン？どうかした？」　
「…いや、なんでもない。早く中に入ろ！」
　
　ようやくたどり着いた四羽は、そのまま建物の中へと入っていった。