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『廃都の白銀譚 ~骸都獣人の下層花嫁は〈魂寄り人形〉から始まった~』
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第一話:零度の魂と骸都の夜会
――私は今日も、誰かの人生の端っこで静かに蹲っている。
この都市に、日差しは差さない。
廃れ果てた廃都ディスティニア。
もともとは獣人たちが栄耀栄華を謳歌した楽園だったらしいが、今はもう“呪い”と称される黒い霧が街を覆い、太陽の色さえ忘れ去られて久しい。闇に濡れた石畳や崩れかけの塔、錆び付いた路面電車、どんよりとした空。
――けれど、それよりもずっと冷え切っているのは、私の“器”だ。
* * *
目覚めたのは、ほこりっぽい屋敷の一室。
姿は、人間からかけ離れた“魂寄り人形”――この世界における「人形のような殻」にたましいだけを移した存在だ。
美しいでも、可愛いでも、役に立つでもなかった。ただ動く“物体”。
他人の目には、汚れたガラクタとして廊下の隅に転がっていたのだろう。
けれど、私は知っている。
……いま、自分は物語から外れた“余白”そのものだと。
屋敷では毎晩、夜な夜な仮面舞踏会が開かれている。
主催するのは「灰色の獣人一族」――金と美貌、残忍さで知られるユグドラシル家。
きらびやかで妖艶な獣人の貴族たち、夜毎集う美男美女、まばゆい光とアルコールと情欲の宴――
けれど、その隅で私は“姿なき飾り”として意識されることさえない。
会話、取引、密談、裏切り――すべては他人事だ。ただ夜が過ぎていく。
どれほど経っただろう。
人形としての時間が尽きると、私はその体ごと“壊れて”、また新しい物の中に意識を飛ばして転生する。
* * *
――「軒下のねずみ」になったとき。
――「水槽の金魚」になったとき。
――「夜会で使い棄てられる酒杯のガラス片」になったとき。
だが、どれも“誰かと心を通わせる”ことさえ叶わなかった。
私はただ観察者で、物語の歯車にすらなれない。
ときどき、廊下の先に見えるのは――
金髪碧眼の獅子獣人貴公子。長い三つ編みに蛇鱗を隠した美しい猫族の女王。血塗られた鴉(からす)一族。
彼らは互いに魅惑し合い、裏切り、愛欲を重ね、時に手段を選ばない。
酒に溺れる者。夜ごとベッドパートナーを替える者。けれど、それは私には遠い世界の出来事――
でも、私はただ眺めていることしかできない。
本当の自分――そんなもの、いまさら期待することもない。
* * *
そして、運命の七度目。
新月の夜、意識だけがふわりと冷たい何かに引き寄せられる。
今度こそ、せめて“人の姿”で――
そんな無意味な期待を胸の奥で押しつぶしながら、私は目を覚ます。
* * *
鏡に映るのは、細くて白い手足、赤みがかった瞳、艶やかな白銀の髪――…
狐獣人の少女の肉体。
しかも、アルビノ体質で、どんな魔法にも反応しない欠陥持ち。
「お前、これから灰色の骨竜王子閣下の“毒抜き役”として、花嫁の勤めを果たせ――」
メイド長の冷たく無慈悲な声に押し出されるまま、私は屋敷の奥へと連れていかれた。
毒抜き役――
それは、王家の血に流れる「毒呪い」を晴らすためだけに生贄として捧げられる下層花嫁。
もちろん、実質「消耗品」扱い。男でも女でも“霊力だけ”あればいい。
当主や嫉妬深き正妻は私の存在すら認めていない。
ああ、また「物語の表舞台」には立てないのだ――
ヒロインらしく羨望される恋など、望むのもおこがましい。
でも、何十回もの“他者視点”で物語を見続けてきた私は、知っている。
この屋敷には、必ず「式典の日」に“何か”が起きる。
* * *
舞踏会は、毒々しいほどに豪奢だった。
石像の彫られた天井、黒衣の楽士団、シャンデリアの死者模様――
私は他の花嫁候補たち(誰もが名家の才媛・美少女・羨ましがられる血筋)とは壁を隔てた“最底辺の控室”に追いやられ、
ただ息をひそめて式典の開始を待っている。
一方、会場の中心では、骨竜王子――“最凶悪役”として物語を壊し続けてきた男が、
その冷たい紅玉の双眸を光らせていた。
「――今日、俺の花嫁になる者は、誰も生半可では生き残れぬ。」
噂では、目を合わせた者すら息絶えるという“遺骸王子”。
人ではない、龍でもない、永遠に血と呪いを受け継ぐ異形の存在。
* * *
式典が始まる。
正妻候補たちはそれぞれ豪奢なドレスを纏い、
骨竜王子の視線を受けながら華やかに自己アピールする。
私は、誰からも見えないまま、ただひたすらに気配を殺す。
――だが、そのとき。
会場の全員が怪訝にざわついた。
王子が、真っ直ぐに「花嫁控室の扉」を見つめた。
「メイド。…白銀の狐獣人、お前だ。俺の最初で最後の花嫁になれ。」
全てが静止したような一瞬。
空気が、凍り付いた。
あまりの展開に、私もその場で呼吸を忘れてしまった。
* * *
こうして、“ただの消耗品”“モブ”“アルビノの欠陥娘”だった私は、
最凶悪役龍王子の一族に組み込まれることとなった。
彼の言葉は絶対。
断れば、たぶん命はない。受け入れても、待つのは血と呪いと裏切りの日々。
だが、その日、私は初めて“主人公”らしい役割を物語から与えられた気がしたのだ。
* * *
新婚初夜、王子の個室に招き入れられた私は、心臓くらいしか持っていない器の奥で必死に祈る。
「お前は何度も何度も、人間でも動物でもないものに魂を宿してきたのだろう?」
その声は、低くて冷たいが…
どこか絶望に似た何かを孕んでいた。
「俺の呪いを背負い、俺と共にこの骸都で生き残ってみせろ。」
そして私は、自分がなぜ幾度も“余白”ばかりを渡り歩いてきたのか、
王子の“呪い”と自らの“魂の変遷”に隠された秘密を知る旅に踏み出すのだった。
* * *
これは――
モブも通り越した、ただの観察者だった私が
“骨竜王子の花嫁”として廃都の運命を塗り替え、
そして初めて「誰かに選ばれる自分」となっていく、
血も涙も呪いも、すべてまみれた白銀の転生逆ハーレム譚。
――私は今日も、誰かの人生の端っこで静かに蹲っている。
この都市に、日差しは差さない。
廃れ果てた廃都ディスティニア。
もともとは獣人たちが栄耀栄華を謳歌した楽園だったらしいが、今はもう“呪い”と称される黒い霧が街を覆い、太陽の色さえ忘れ去られて久しい。闇に濡れた石畳や崩れかけの塔、錆び付いた路面電車、どんよりとした空。
――けれど、それよりもずっと冷え切っているのは、私の“器”だ。
* * *
目覚めたのは、ほこりっぽい屋敷の一室。
姿は、人間からかけ離れた“魂寄り人形”――この世界における「人形のような殻」にたましいだけを移した存在だ。
美しいでも、可愛いでも、役に立つでもなかった。ただ動く“物体”。
他人の目には、汚れたガラクタとして廊下の隅に転がっていたのだろう。
けれど、私は知っている。
……いま、自分は物語から外れた“余白”そのものだと。
屋敷では毎晩、夜な夜な仮面舞踏会が開かれている。
主催するのは「灰色の獣人一族」――金と美貌、残忍さで知られるユグドラシル家。
きらびやかで妖艶な獣人の貴族たち、夜毎集う美男美女、まばゆい光とアルコールと情欲の宴――
けれど、その隅で私は“姿なき飾り”として意識されることさえない。
会話、取引、密談、裏切り――すべては他人事だ。ただ夜が過ぎていく。
どれほど経っただろう。
人形としての時間が尽きると、私はその体ごと“壊れて”、また新しい物の中に意識を飛ばして転生する。
* * *
――「軒下のねずみ」になったとき。
――「水槽の金魚」になったとき。
――「夜会で使い棄てられる酒杯のガラス片」になったとき。
だが、どれも“誰かと心を通わせる”ことさえ叶わなかった。
私はただ観察者で、物語の歯車にすらなれない。
ときどき、廊下の先に見えるのは――
金髪碧眼の獅子獣人貴公子。長い三つ編みに蛇鱗を隠した美しい猫族の女王。血塗られた鴉(からす)一族。
彼らは互いに魅惑し合い、裏切り、愛欲を重ね、時に手段を選ばない。
酒に溺れる者。夜ごとベッドパートナーを替える者。けれど、それは私には遠い世界の出来事――
でも、私はただ眺めていることしかできない。
本当の自分――そんなもの、いまさら期待することもない。
* * *
そして、運命の七度目。
新月の夜、意識だけがふわりと冷たい何かに引き寄せられる。
今度こそ、せめて“人の姿”で――
そんな無意味な期待を胸の奥で押しつぶしながら、私は目を覚ます。
* * *
鏡に映るのは、細くて白い手足、赤みがかった瞳、艶やかな白銀の髪――…
狐獣人の少女の肉体。
しかも、アルビノ体質で、どんな魔法にも反応しない欠陥持ち。
「お前、これから灰色の骨竜王子閣下の“毒抜き役”として、花嫁の勤めを果たせ――」
メイド長の冷たく無慈悲な声に押し出されるまま、私は屋敷の奥へと連れていかれた。
毒抜き役――
それは、王家の血に流れる「毒呪い」を晴らすためだけに生贄として捧げられる下層花嫁。
もちろん、実質「消耗品」扱い。男でも女でも“霊力だけ”あればいい。
当主や嫉妬深き正妻は私の存在すら認めていない。
ああ、また「物語の表舞台」には立てないのだ――
ヒロインらしく羨望される恋など、望むのもおこがましい。
でも、何十回もの“他者視点”で物語を見続けてきた私は、知っている。
この屋敷には、必ず「式典の日」に“何か”が起きる。
* * *
舞踏会は、毒々しいほどに豪奢だった。
石像の彫られた天井、黒衣の楽士団、シャンデリアの死者模様――
私は他の花嫁候補たち(誰もが名家の才媛・美少女・羨ましがられる血筋)とは壁を隔てた“最底辺の控室”に追いやられ、
ただ息をひそめて式典の開始を待っている。
一方、会場の中心では、骨竜王子――“最凶悪役”として物語を壊し続けてきた男が、
その冷たい紅玉の双眸を光らせていた。
「――今日、俺の花嫁になる者は、誰も生半可では生き残れぬ。」
噂では、目を合わせた者すら息絶えるという“遺骸王子”。
人ではない、龍でもない、永遠に血と呪いを受け継ぐ異形の存在。
* * *
式典が始まる。
正妻候補たちはそれぞれ豪奢なドレスを纏い、
骨竜王子の視線を受けながら華やかに自己アピールする。
私は、誰からも見えないまま、ただひたすらに気配を殺す。
――だが、そのとき。
会場の全員が怪訝にざわついた。
王子が、真っ直ぐに「花嫁控室の扉」を見つめた。
「メイド。…白銀の狐獣人、お前だ。俺の最初で最後の花嫁になれ。」
全てが静止したような一瞬。
空気が、凍り付いた。
あまりの展開に、私もその場で呼吸を忘れてしまった。
* * *
こうして、“ただの消耗品”“モブ”“アルビノの欠陥娘”だった私は、
最凶悪役龍王子の一族に組み込まれることとなった。
彼の言葉は絶対。
断れば、たぶん命はない。受け入れても、待つのは血と呪いと裏切りの日々。
だが、その日、私は初めて“主人公”らしい役割を物語から与えられた気がしたのだ。
* * *
新婚初夜、王子の個室に招き入れられた私は、心臓くらいしか持っていない器の奥で必死に祈る。
「お前は何度も何度も、人間でも動物でもないものに魂を宿してきたのだろう?」
その声は、低くて冷たいが…
どこか絶望に似た何かを孕んでいた。
「俺の呪いを背負い、俺と共にこの骸都で生き残ってみせろ。」
そして私は、自分がなぜ幾度も“余白”ばかりを渡り歩いてきたのか、
王子の“呪い”と自らの“魂の変遷”に隠された秘密を知る旅に踏み出すのだった。
* * *
これは――
モブも通り越した、ただの観察者だった私が
“骨竜王子の花嫁”として廃都の運命を塗り替え、
そして初めて「誰かに選ばれる自分」となっていく、
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