見知らぬ隣人さん

山下珠子

産まれてまもない頃、父親に連れられてこの施設に来たことを園長から聞かされた。
正確には、珠子があまりにもしつこく聞くものだから勢いに任せて若い先生が口を滑らせてしまった。こうなったら責任を持って話します、と。

身寄りのない子供たちが自立するのを支援する施設の人間が苛立った程度で簡単にそんなことを言ってもらっては困る。

などとまだ小学生の珠子には、分かるはずもない。
歳の近い子供は、雛乃だけ。他は高学年か中学生と赤ちゃんみたいなもので何となくいつも雛乃と一緒に花を摘んだりおままごとをやった。

多少モヤモヤした気持ちになったが、その気持ちの名前はわからない。遊んでるうちに忘れた。

そんな頃に新しい子が入ってきた。
羽衣音という名前は、きっと若い両親が色々考えた末につけてくれた名前なのだろう。

私の名前は珠子。園長が付けてくれた。

「真珠は愛の象徴やねんで。あなたはひとりじゃない。皆から愛されるように。って意味を込めてる」

その時には、それしか知らされなかったが、やがて高校生になろうかと言う時に、母親が自分の命と引き換えに珠子を産んだこと、母親を愛していた訳では無い父親の事、その父親も既にこの世には居ないことを聞かされた。