3度目の失恋

シンフジ サイ

文字の大きさ
1 / 2

前編

しおりを挟む
「大きくなったら、えいとお兄ちゃんとけっこんするー!!」

 そう言うと、ママとパパ、えいとお兄ちゃんのママとパパ達も笑ってわたしの頭を撫でてくれる。
 ママとパパ、えいとお兄ちゃんのママとパパが仲良しで、わたしが産まれてからも家族のように一緒だ。えいとお兄ちゃんのママとパパもゆみのことをうちの子みたいって言ってた! ママとパパもえいとお兄ちゃんのことを息子だって言ってる!
 いまはまだ「えんどうゆみ」だけど、いつかは「こがゆみ」になるのがゆみの夢!
 それに、けっこんってママとパパみたいに男の人と女の人がいっしょにくらして、そのうち赤ちゃんがはこばれてくるって保育園で習った。そのためにもチュッチュとか「すきー!」って言いながらだっこしないといけないって。たまにママとパパも夜おそくにはだかでだきしめあってる。ゆみもえいとお兄ちゃんにだきしめられたい! ゆみもえいとお兄ちゃんといっしょにくらして、ママとパパみたいになりたい!
 ゆみが保育園に行ってるときは、えいとお兄ちゃんもしょーがっこーに通っておべんきょーしてるんだって。しょうらいお金もちになるにはべんきょーが大事だって。
 ゆみもえいとお兄ちゃんのママにふさわしーって言ってもらえるように保育園がんばるぞー! おー!

「ふふっ、懐かしっ」

 保育園の時に書いた、私の原点とも言える日記を読んではそんな感想が漏れた。
 12月も終盤で、今年ももうすぐ終わる。年明けにはすぐセンター試験--名前が変わってもう大学共通テストか--を迎える。お母さんもお父さんも私の初めての大学受験と言うことで、私以上にソワソワしてる。中学受験のことはすっかり忘れちゃったみたいだ。
 お母さんとお父さんもセンター試験を受けたはずなのに、やっぱり自分の受験と娘の受験は違うみたい。

『やっぱり受験にはカツよねカツ!』
『由美の大学受験成功を祈願して!』

 そう言いながら、お母さんは私にカツ丼を作ってくれるし、お父さんは学問の神様が奉られてある神社でお守りを買ってきてくれた。……脂っこいものは苦手なんだけどなぁ。でもお母さんとお父さんも私のことを想って、集中できるようにしてくれるから有り難い。
 まだ大学共通テストすら始まってないから体調には気をつけていかないと。
 それに、瑛斗さんへの気持ちも変わってない。相変らず……、ううん、年々増してる。

『早く由美ちゃんからお義母さんって呼ばれたいわぁ、協力するからね』
『僕達は由美ちゃんの味方だから』

 そんな風に瑛斗さんのお母さんとお父さんにも言って貰ってるし大丈夫かなって思うけど、私は2回瑛斗さんに失恋してる。瑛斗さんももう24歳だからだれかと結婚するかもしれない。……ここ2、3年はフリーだって瑛斗さんのお母さんとお父さんが教えてくれてるけど。
 私には、私には…………!

「ああっと、まずいまずい! しっかりしろ、由美!」

 自分のほっぺたを叩いて意識を変える。
 受験のストレスもあって私の弱い部分がひょっこりと顔を覗かせてきた。慌てて平常心を取り戻す。今は大学受験に集中しないと。
 さてと、休憩終ーわり!
 そう思って日記を引き出しにしまって、シャーペンを持った瞬間に私の部屋のドアがノックされた。お母さんの声が小さく聞えてくる。
 やる気を削がれつつもまあいっかと思い直した。

「由美、今大丈夫?」
「だいじょうぶー!」
「そう、じゃあ入るわね?」

 音を立てないようにドアが開いて、お母さんが顔を覗かせた。

「どうしたの?」
「そろそろ休憩かなって思って。ココアでも飲む?」
「うーん……」

 流石お母さん、娘の休憩のタイミングまで分かるとは。……それはともかく。

「ホットミルクがいいな」
「そう? 蜂蜜は?」
「入れる!」
「じゃあ淹れてくるわね」
「おねがーい!!」

 お母さんは私の部屋から出て行った。お母さん特製の蜂蜜ホットミルクを貰えるならもう少し頑張ろう。
 壁時計を見ると、21時37分だ。あと1時間くらいは集中しよう。お父さんとお母さん、学校の先生から「7時間以上は寝なさい」って言われてるから睡眠もちゃんと心がけてる。あと簡単な筋トレ。
 瑛斗さんのお嫁さんになって、素敵な家族を作るって夢を叶えるために頑張らないと。まずは大学受験だ。

                  ◇◇◇

 私の1回目の失恋は7歳の時で、瑛斗さんは14歳、中学2年生だった。
 小学3年生に上がってクラスと担任の先生が変わったり、5、6時限目の授業が小学2年生より増えたりして前よりも小学生らしい振る舞いを求められた。
 私がされてたみたいに、同じ地区内の小学1、2年生と一緒に学校に通学するようになって「そのランドセル可愛いね!」から「お姉ちゃんになったね!」って言われることが多くなった。
 実際に、小学2年生の時から8cmも身長が伸びてたし、成長期を迎えてたんだと思う。
 その時瑛斗さんも175cm以上を越えてたし、隣に立つと兄と妹だと間違われてた。……誰も私が瑛斗さんのことを好きだなんて信じてなかった。
 「『最近は瑛斗君と結婚するー!』って言わないんだね」ってお父さんに言われて、恥ずかしくてポカリと殴りつけたのも覚えてる。私の反応を見て、お母さんと瑛斗さんのお母さんにもニヤってされてた気がするけど。

 そんな小学3年生の夏--多分土日のどっちかだったと思う--、今でも仲良くしてる千夏とプールから買ってきて、中学校の制服を着た瑛斗さんと同じ中学校のブレザーを来た女学生とばったり会った。
 今から10年くらい前のことなのにその時の気持ちは鮮明に覚えてる。初めて出くわした真っ黒なドス黒い醜い心で、瑛斗さんの隣に立ちたくてその女の人にきぃーってやりたくなった。猫みたいに引っかき回したかった。

『あ、由美。プール行ってたんだ』
『え、あ、うん……』
『古賀君、この子は?』
『ん? あーっと昔から家族ぐるみで付き合ってる子。俺達より6つ下で妹みたいな?』
『へー。あ、私古賀君と同じクラスで女バレに入ってる岸本未来、宜しくね?』
『『よ、宜しくお願いします……』』
『じゃあまたね』
『うん、バイバイ……』

 瑛斗さんと未来さんを見て、ガツンとハンマーで殴られたようなショックを受けた。
 私と瑛斗さんが隣に立っても兄と妹みたいにしか見られない。でも2人が並んで歩くとカップルみたいだった。
 175cm以上あった瑛斗さんと多分165cm以上の未来さん。しかも中学生らしくちょっとオシャレもしていたし、身体の発達も小学3年生の私と千夏とは全然違った。おっぱいも大きかったし……。
 私より未来さんの方が瑛斗さんにはお似合いだっただろう。それでも、いっぱしの乙女心を持ってた私にはクリティカルヒットした。

『今のって由美ちゃんの好きなお兄さんだよね?』
『うん、……っ』
『ほ、ほら! 同じ部活の人だって言ってたでしょ? きっと--!』

 そんな風に千夏は慰めてくれたけど、私と瑛斗さんの住む世界は違っていて、思った以上に瑛斗さんの背中が遠いことが分かった。
 千夏と遊んできてウキウキ気分で帰ってくるはずの娘が泣きながら帰ってきてお母さんとお父さんはビックリしてたらしい。千夏にも迷惑を掛けた。
 これが私の1回目の失恋の全容。

                  ◇◇◇

 年が変わって1月になった。大学共通テストももう2週間を切って、2年以上準備してきた受験がやっと始まる。本当の本当に追い上げの時期だ。
 第1志望の国立大学に合格するために、17年間でここまで勉強したことが無いって位に机にかじりついてる。何度見返したか分からないくらいでもうボロボロになった参考書と15年近くの過去問と模試の間違えたところを纏めたノートが私の努力を物語ってる。
 私の受験への意気込みを知ってる瑛斗さんのお母さんとお父さんも、今年は挨拶だけにして受験が終わったら改めてパーティしようって言ってくれて、年始の挨拶はほんの10分ほどで終わった。
 それでも、仕事のオフに瑛斗さんが学問の神様を奉ってる神社を色々行ってくれたらしく、3大神社のお守りが私のスクールバッグに新しくついた。

「俺はさ、バレー一筋でここまで来たから碌に勉強とか受験ってしたこと無い。だから気休めにしかなら無いかもしれないけど……」

 そう言いながら、仕事で忙しかったであろうに福岡と京都、東京の神社に行ってくれたみたいで嬉しかった。ここまで応援されてるんだもん、頑張らないと。
 自分の将来、そして周りの人への感謝を込めて1日に16時間くらい勉強している。

                  ◇◇◇

 私の2回目の失恋は13歳の時で、瑛斗さんは20歳、大学2年生だった。
 私が千夏と一緒に私立の女子中高一貫校に合格して2年目を過ごす一方で、瑛斗さんはバレーボールの活躍で高校と大学のどちらもスカウトされて強豪校へ進学した。今はVリーグで活躍してる。
 ちんちくりんじゃ瑛斗さんに相応しくないって考えた私も牛乳やら栄養のつくものを食べるように心がけて、中学2年で私も163cmまで身長が伸びた。ちなみに今は171cmある。
 瑛斗さんも栄養を考えたメニューを本格的に食べるようになったらしく、高校に進級した時点で185cmを優に上回っていた。今は日によって188cm前後になるらしい。それでもバレーボール選手の中では小柄なんだとか。
 同じチームに2mを超してるメンバーが5人くらいいるって。2mだよ2m! ひょえ~!

『なーんで、瑛斗ったらこんなに伸びたのかしら……?』

 瑛斗さんのお母さんは165cm位、お父さんも175cm位で、まあ高いっちゃ高いけど……瑛斗さんがここまで伸びるなんて思わなかったらしい。
 瑛斗さんの声も大人の人に変わってて、ホームビデオとかを見るとはっきり実感する。それでも瑛斗さんは瑛斗さんだ。所作が変わってない。
 男らしさが増して、とっても格好いい。大好き。

 2回目の失恋は瑛斗さんの成人式の日だった。この日もはっきり覚えてる。
 料理部のコンテストが無事に終わって、入賞したお祝いと打ち上げがてらクッキーを作った。それを瑛斗さん家に持っていこうとした時に、住宅街でスーツを着て酔っ払った瑛斗さんを含めた6人の男女のグループに出くわす。

『いや~、塚本から成人のメッセージが来るとは思わなかったわ~』
『だぁかぁらぁ、”先生”を付けろって!』
『塚本せんせー! あたし達!』
『『『っぷ、あはははは!!』』』

 先生を呼び捨てにしてるのに何が面白いのか分からない。
 見るからに酔っ払ってて、ここで逃げれば良かった。でも見つかった。

『お、由美じゃん』
『あ……』
『んお? 可愛いじゃん、瑛斗知り合い?』
『そ~、幼なじみの子。可愛いだろ~』
『ほ~ん、ねえ1人? 由美ちゃんだっけ? 俺らと一緒に遊びに行かない?』
『い、良いです……』
『ほぉらぁ~、怖がってんじゃん。やめたげなよぉ~』
『おっほ! おっぱいも大きいし! ねえ由美ちゃん? 俺とイイ事しない?』
『い、嫌です……』
『んー、聞えなーい? ね、ほら! 気持ちよくしてあげるからさぁ!』
『い、いや!!』

 お酒臭いスーツの男の人に腕を捕まれて必死に腕を解くけど、男女の性別と年齢もあってなかなか振りほどけなかった。
 瑛斗さんを見てもお酒のせいでゲラゲラ笑って頼りにならない。瑛斗さんへの失望の心が芽生えると同時に、このままだと貞操の危機って判断して、隙を見て私を掴んでる男の人の股間を蹴り上げた。ぐにゅって変な感触がしたのを覚えてる。
 いざという時には男の人の急所を蹴り上げれば無力化できるって警察の人に聞いてたから実践した。

『うっ、ごっ……!?』
『『仁史ぃぃ!?』』『『『あっはっは!! めっちゃ綺麗に入ってるんだけど!!』』』

 私の抵抗の結果は男性と女性でくっきり別れた。男の人は自分の股間を押さえて、女の人は倒れたその”仁史”さんを見ては大笑いする。その隙に持ってきた防犯ブザーを鳴らしては逃げ去った。
 その後のことはよく知らない。泣きながら帰ってきた私をお母さんとお父さんに慰められて、後日瑛斗さん達に謝られた。
 お父さんにも「お酒は人を変えるから由美も程々にね」って言われるようになった。まだお酒を飲める年齢じゃ無いから飲んだことも舐めたことも無いけど、自制はしていくつもりだ。
 何が1番嫌だったって、瑛斗さんが嫌がる私を見ても助けようともしてくれないことだった。ヘラヘラ笑って……。
 でも、それを千夏に相談したら、「由美って古賀さんのことを”憧れてる”んだと思うから、考え直す良い機会だったんじゃない? 古賀さんだって超人じゃ無いんだから」って言われた。
 その意味を考えたけど、瑛斗さんの隣は私のもので、瑛斗さんと一緒に生きていきたいって気持ちは膨れたんだから多分間違ってない。憧れてる=好きって言うのでも大丈夫のはず。……まあ瑛斗さんもお酒を飲むとそこら辺の人と変わらないって知ったのはショックだったけど。
 これが私の2回目の失恋の全容。

                  ◇◇◇

 遂に明日は大学共通テストの日となった。
 風邪とかインフルエンザに罹ること無く今日まで来た。後は普段通りにするだけ。
 大丈夫、大丈夫。何度も自分に言い聞かせて瞼を閉じる。
 カッ、カッ、カッ、カッ。
 壁に掛かってる時計の秒針がやけにうるさい。紛れもなく緊張してるのが分かる。それでも無理矢理寝ようとして羊を数え始めた。でも公式とかが頭に浮かんでくる。
 大丈夫、きっと私なら大丈夫だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

処理中です...