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前編
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敬語ってえっちぃよね。
そんな台詞が雫の口から出てきた。私含めて皆ポカンとしつつも記憶をたぐり寄せる。
敬語、敬語……。そういえば、旦那もだけど、今まで肌を重ねてきた男性とは敬語でのエッチなんてしてこなかった気がする、多分……。
そんな風に考えている時にも皆の会話は進んでいる。久々に皆に会えて舞い上がっていることは確実だ。30歳になってもう昔ほどお酒に強くないけど、ついつい飲んでしまう。どうせ泊まるんだから良いよね。
「いきなりどうしたの? もう酔っちゃった?」
「ん~、酔っちゃったかも……?」
「まあ、その為にホテルで女子会してんだしねぇ」
「そうだけどさぁ、夜はまだまだ長いんだからもう少し考えてよ。せっかく会えたんだし」
「ん~、分かってる~」
既に呂律が怪しい雫は千沙都の腰に抱きついて匂いを嗅いでいるような素振りを見せた。千沙都はそんな雫の頭を撫でて労る。流石は皆のお姉さん役だ。
大学を卒業して、就職やら異動、結婚、育児でだんだん皆と疎遠になってしまっていた。
連絡は取る、でも約束して会うのはちょっと億劫だと思い始めていたけど、重い腰を上げて皆と会うとやっぱり楽しい。7年も前のことだけど、大学時代のことを鮮明に思い出せる。
ただ、当然のことだけど、皆大学の時より順当に歳を重ねていて法令線とか身体のたるみが目立ち始めていた。皆から見た私もきっと同じだろう。き、気を付けないと。
でも、だからこそ今日会わない? って声をかけてくれた夏凛にはとても感謝してる。こうして日頃のストレスから解放されて、のんびりする時間も必要だって改めて思い知った。あとアンチエイジングも!
「それで、いきなりどうしたの? 敬語がエッチとかなんとか」
私がふにゃふにゃしてる雫に質問すると、雫はいきなりガバッと起きて恍惚とした表情で語り出した。
「そう! 最近旦那とマンネリみたいのを感じてたんだけど、趣向を変えて敬語でエッチしたの。そしたら思いのほか盛り上がっちゃってさ。皆はどう? 敬語プレイってしたことある?」
「私は無い」
「私も! そもそも旦那が淡泊で既にレス状態……」
「…………どんまい」
「私も1人産んだらなかなかねー、バタバタしちゃってる。瑠依は?」
「……あたしはあるよ」
「へー、意外」、「やった、仲間だ!」
私、夏凛、千沙都は敬語エッチの経験が無くて、でも瑠依と雫はあるようだ。仲間を見つけた雫は瑠依に抱きつく。瑠依はやれやれって感じで抱きしめ返した。
「どんな感じなの?」
「んーっとね、エロイよ」
「エロイ」
真剣な顔で瑠依はそう言った。私はオウム返しをする。
「いや、だからそれが知りたいんだって」
「んーとね~、男性に屈服させられてるって言うか、エッチってイケナイことなんだって思い知らされる感じ? 初々しさとか?」
「あと主従関係がはっきりする。エッチなビデオでもあるでしょ? 上司とか先輩後輩、亭主関白ものみたいな」
「ふーん、そういうものなんだ」
「うん、例えば誘うときでも『明日休み? 夜どう?』よりも『明日休みですか? その……このあとどうでしょう……?』みたいに男心擽ると元気になる、あたしの旦那はね」
「へー」
……今度やってみようか。これってつまり、男性のS心を引き出すって事でしょ。
私は貴方のものですーって態度に示してハアハアさせて、獣にするわけだ。……うん、やってみよう。
「ん、今度やってみるよ」
「うん是非!」
「結婚すると男って感じじゃ無くなっちゃうからね、だんだん家族に変わっちゃって……。皆も有るでしょ?」
「あるー、休みの日は髪の毛ボサボサとかすっぴんのままとか。気を付けなきゃって分かってはいるんだけど旦那なら良いかなって思っちゃうんだよねぇ。旦那だし」
うぐっ、……確かに付き合ってるときは下着とかも気を付けてたけど、今はヨレヨレになってもあんまり気にしてない。旦那だしまあ良いかなって。……もしかして、最近誘ってくれないのってそれが原因?
自分の腕とかお腹へと視線を動かす。そこにはちょっとタプタプになってる二の腕とかお腹が見える。場所によっては二段腹に見えるかも。服のサイズだっておおきくなってるし。
最近体重計にすら乗って無い、ま、まずい…………。
「優子大丈夫?」
「へっ? う、うん大丈夫、大丈夫だよ」
「うっそだー、大方自分の身体見て絶望してたんでしょ」
「…………そうよ」
「やっぱり! ……でもしょうが無いよね、皆年取ってんだし。30歳だよ30歳。そりゃ皆おばさんになるよね。20代の終わり、30代の始まり!」
「「「ぐはっ……!」」」
ここにいる皆は自分の胸に手を当ててダメージを受ける。写真の中のピチピチだった私達はもう居ない。ここにいるのは昔あの人おばさんくさーいとかって笑っていたそのへんのおばちゃんだった。
あの時のおばちゃん、笑ってごめんなさい。私も人のこと笑えなくなってしまいました。
「で、ででででもさ! 瑠依って若々しさ保ってるよね、何かしてる?」
「あー、あたしね。ちょっと前からジム通ってるよ」
「ジム! なんで?」
「……旦那にお前太ったなって言われて…………」
「「「おっふ……」」」
いや、言ってくれるだけマシか。……いつだ、いつから旦那に誘われなくなった? いつから私が誘わないと応じてくれなくなった?
記憶をたぐり寄せていく。1週間……、いや、もっと前だ。1ヶ月……3ヶ月……半年……1年……1年半…………、1年半位前からかも。
ぎ、ぎゃああああああああ!?
「ゆ、優子、大丈夫!?」
「……放っておいて、今アイデンティティが崩壊中だから……」
「大丈夫、大丈夫だよ! もう30だけど、”まだ”30なんだから!」
「わ、私……、女としてまだ生きていける…………?」
「いけるいける! 一緒に頑張ろう?」
「うん……」
子供は欲しい。出産するには男女が合体しないといけない。合体するためには魅力が必要だから……、うん、決めた。
私はおもむろに立上がって、皆を見渡す。そして、拳を作って上に突き上げた。
「宣誓! 私、谷口優子はダイエットして女を取り戻し、旦那に振り向いて貰えるようここに誓います!」
隣の部屋に迷惑がかからないような声のボリュームにしてはっきり宣言した。すると、皆も私に続いて立上がった。
「私も!」
「私も!」
「あたしも!」
「私も!」
千沙都、雫、瑠依、夏凛の順で私と同じように拳を突き上げる。
ここにいるのは私の友達だけど、これからはライバルでもある。おばさんって言われないように、「お前太ったな」とか「もう女に見られないんだよ」とか言われないように。
誰が旦那を早く振り向かせられるかの勝負となった。旦那に求めて貰えるように私達は頑張る! ……それはさておき。
「今日は楽しむぞー! ダイエットは明日からだ!」
「「「おー!」」」
明日から頑張る! だってお酒とかワイン美味しいんだもん! さっすが高級ホテルぅ!
皆との女子会を終えて家に帰る。手洗いうがいをしてリビングに入ると、2つ上の彰がソファーに座って新聞を読んでいた。
「ただいまー」
「お帰り、楽しかった?」
「楽しかった。……ねえ」
「ん、どうした?」
「私って太った?」
「…………ソンナコトナイヨ」
そう言って、彰は視線を横にずらす。
あ、うん。その反応だけで良いわ。っていうか、やっぱりそう思ってたんだ。
私の機嫌が悪くなったのを感じ取った彰は慌てて弁解する。
「いや、違うんだよ。優子が美味しそうにご飯を食べる姿が可愛くてね、言い出せなかったんだ。これは君のせいじゃない」
「でも太ったように見えてるんでしょ?」
「…………」
「分かった、分かったわ、ええ分かりましたとも」
「……何が分かったんだい?」
「私ダイエットするから」
「ほう?」
「痩せて彰のことを振り向かせてみせるから待ってなさい!」
「じゃあ体重量ってみようか」
「えっ!? ちょ、それは……。食べてきたばっかりだし」
「現実を見るのも大事だよ」
新聞を置いてソファーを立ち上がった彰はツカツカと私の方へと歩いてきて、私の右手首を掴んだ。性別もあるけど、普段から筋トレをしている彰の力は強くて振りほどけない。
私はそのまま彰に体重計の前に立たされた。そのまま彰はデジタル体重計のスイッチを入れる。
「さあ乗るんだ」
「いや、こんなの酷いわ……」
「僕はね、優子が沢山食べる姿を見るのが好きなんだ。でも最近の優子は美容をおざなりにしてきた。僕はこの日を待っていたよ、自分からダイエットするって言い出す日を」
「いや、お願い……。後3日だけでも……」
「駄目だ、さあ!」
「いやぁ~~~~!?」
そして私は体重計に乗った。40……50……60……、66.1kgで止まる。
思わず二度見した。こんな数字見たこと無い。過去最高だ。太ってても60kg前半だと思っていたのに……!
「ん、70kgだね」
「違う、66kgよ!」
「同じだよ。四捨五入したら70kgだ。優子の身長は?」
「158cmです……」
「つまり太ってるね」
「……っ!?」
彰の両手が私のお腹に触れて、そのまま揉まれる。揉まれるなら胸にして欲しい……じゃなくって。
「僕はね、太ってる優子も可愛らしいと思うよ。でも、やっぱり前みたいに痩せてる優子の方が好きだ。
色んな服を着こなして僕を誘惑してくる、そんな優子が」
「私の魅力って外見だけなの……?」
「違うよ。ご飯を美味しそうに食べる姿、屈託の無い笑顔、一緒にいて楽しい・安心できるところ……そういう所が大好きだ」
「そ、そうなのね……えへへ」
「でも僕も男なんだ。抱きたいって、君とセックスしたいって思わせて欲しい」
「……分かったわ、私頑張るから」
「うん、僕も心を鬼にしよう。ダイエットは辛い、でも優子を1人にしない。一緒に頑張ろう」
「ええ!」
かくして、私のダイエット生活が始まった。目指せ理想体重! プリティな身体!
運動してない人がいきなり運動をしても怪我をするだけだから。
彰からそう言われて、スクワット、腕立て伏せ、腹筋や背筋といった簡単なメニューから始めた。それに、最初に足の筋肉を付けた方が痩せやすくなると言うことで、スクワットを中心に行っていく。
始めた1週間くらいは20回とかでもきつかった。でもめげずに頑張っていくとだんだんと回数を増やせるようになったし、今まで着ていたものが緩くなったり、体力も付いた気がする。
あと、お化粧が肌にのりやすくなった気がして、これが1番嬉しかった。
職場でも「あれ、谷口先輩可愛くなりましたね」って新人教育を担当した彩花ちゃんに言って貰ってとても嬉しかった。
食生活も豆腐とか野菜メインにして、お肉とかお酒、塩分を少なくしていくと、もっと痩せていって、更にジョギングと水泳もメニューに加える。
そして、なんとダイエットを始めて半年で50kg代にまで体重を落とすことが出来た!
服のサイズもLLサイズからLサイズに変わって、昔の私に近付いた気がする。
挙げ句の果てには彰の目が変わった。時折、私に欲情して目をギラギラと、そして男根を大きく膨れさせている。……そう、私が彰を興奮させているのだ。
私から誘うこともあるけど、彰からベッドに行こうとすることの方が多くなってきて私達は合体する。しかも、体力が付いたことで3回戦位出来るようになったんだ!
ダイエットを始めて1年、月に1回会うようになった皆と再び女子会をする。……女子って言うよりおばさん会って言った方が正しいけど。
皆もダイエットをしたおかげで体重が減って、旦那から求められる事が増えていたらしい。それで千沙都、雫、夏凛の3人は赤ちゃんが出来た。私と瑠依も避妊具無しで合体しているから出来るのは時間の問題だろう。って言うか、彰の子供が欲しいから早く出来て欲しい。……むむっ、不妊治療をするべきか悩む。
千沙都、雫、夏凛はそれでも女磨きは欠かさずに行っているらしく、写真の中の1年前の私達よりずっと綺麗になってた。もう雰囲気から違う。20代の若ママには負けないよ!
あの日の女子会以来、月イチ位で皆と会うようになった。新しく友達を作るのは大変だけど、昔の友達とまた仲良くなれて本当に嬉しい。
お腹が膨らんでる中で会っているからお酒とかを爆食い出来ないけど、気心知れた皆と近況報告をするのは生活にメリハリが出来た気がする。
皆の報告が終わって、最後に私の番だ。
「最後に、私谷口優子は66.1kgから52.7kgへと減量に成功しました! Mサイズです!」
「「「おおー! すごーい!」」」
「でも当たりません! 週一で合体するようになったのになんでよ……」
「あー、それは…………」
体重が減って喜んだのもつかの間、なかなか出来ないことで肩を落とす。そんな私を皆は慰めてくれた。
「体温とか量ってるんだよね?」
「もちろん、出来ることはしてるつもり」
「旦那さんの問題って事は?」
「どういうこと?」
「精子の量が少ないとか」
「検査しても異常なしだって」
「……不妊治療は考えてる?」
「うん、そろそろ始めようかって」
「妊娠してるあたし達が言っても説得力に欠けるんだけど、焦っちゃ駄目だよ。ほら物欲センサーみたいな?」
「赤ちゃん欲しがってるときには妊娠しにくいって?」
「そう」
……そっか、でも焦るんだよなぁ。35歳で初産とかは色々と弊害が。くぅぅーっ、もっと早く対処しておきなさいよ、昔の私!
「それはそうとして、まだまだ私達だって負けないぞ!」
「「「おー!」」」
こんな感じで今日も女子会を楽しんだ。
そんな台詞が雫の口から出てきた。私含めて皆ポカンとしつつも記憶をたぐり寄せる。
敬語、敬語……。そういえば、旦那もだけど、今まで肌を重ねてきた男性とは敬語でのエッチなんてしてこなかった気がする、多分……。
そんな風に考えている時にも皆の会話は進んでいる。久々に皆に会えて舞い上がっていることは確実だ。30歳になってもう昔ほどお酒に強くないけど、ついつい飲んでしまう。どうせ泊まるんだから良いよね。
「いきなりどうしたの? もう酔っちゃった?」
「ん~、酔っちゃったかも……?」
「まあ、その為にホテルで女子会してんだしねぇ」
「そうだけどさぁ、夜はまだまだ長いんだからもう少し考えてよ。せっかく会えたんだし」
「ん~、分かってる~」
既に呂律が怪しい雫は千沙都の腰に抱きついて匂いを嗅いでいるような素振りを見せた。千沙都はそんな雫の頭を撫でて労る。流石は皆のお姉さん役だ。
大学を卒業して、就職やら異動、結婚、育児でだんだん皆と疎遠になってしまっていた。
連絡は取る、でも約束して会うのはちょっと億劫だと思い始めていたけど、重い腰を上げて皆と会うとやっぱり楽しい。7年も前のことだけど、大学時代のことを鮮明に思い出せる。
ただ、当然のことだけど、皆大学の時より順当に歳を重ねていて法令線とか身体のたるみが目立ち始めていた。皆から見た私もきっと同じだろう。き、気を付けないと。
でも、だからこそ今日会わない? って声をかけてくれた夏凛にはとても感謝してる。こうして日頃のストレスから解放されて、のんびりする時間も必要だって改めて思い知った。あとアンチエイジングも!
「それで、いきなりどうしたの? 敬語がエッチとかなんとか」
私がふにゃふにゃしてる雫に質問すると、雫はいきなりガバッと起きて恍惚とした表情で語り出した。
「そう! 最近旦那とマンネリみたいのを感じてたんだけど、趣向を変えて敬語でエッチしたの。そしたら思いのほか盛り上がっちゃってさ。皆はどう? 敬語プレイってしたことある?」
「私は無い」
「私も! そもそも旦那が淡泊で既にレス状態……」
「…………どんまい」
「私も1人産んだらなかなかねー、バタバタしちゃってる。瑠依は?」
「……あたしはあるよ」
「へー、意外」、「やった、仲間だ!」
私、夏凛、千沙都は敬語エッチの経験が無くて、でも瑠依と雫はあるようだ。仲間を見つけた雫は瑠依に抱きつく。瑠依はやれやれって感じで抱きしめ返した。
「どんな感じなの?」
「んーっとね、エロイよ」
「エロイ」
真剣な顔で瑠依はそう言った。私はオウム返しをする。
「いや、だからそれが知りたいんだって」
「んーとね~、男性に屈服させられてるって言うか、エッチってイケナイことなんだって思い知らされる感じ? 初々しさとか?」
「あと主従関係がはっきりする。エッチなビデオでもあるでしょ? 上司とか先輩後輩、亭主関白ものみたいな」
「ふーん、そういうものなんだ」
「うん、例えば誘うときでも『明日休み? 夜どう?』よりも『明日休みですか? その……このあとどうでしょう……?』みたいに男心擽ると元気になる、あたしの旦那はね」
「へー」
……今度やってみようか。これってつまり、男性のS心を引き出すって事でしょ。
私は貴方のものですーって態度に示してハアハアさせて、獣にするわけだ。……うん、やってみよう。
「ん、今度やってみるよ」
「うん是非!」
「結婚すると男って感じじゃ無くなっちゃうからね、だんだん家族に変わっちゃって……。皆も有るでしょ?」
「あるー、休みの日は髪の毛ボサボサとかすっぴんのままとか。気を付けなきゃって分かってはいるんだけど旦那なら良いかなって思っちゃうんだよねぇ。旦那だし」
うぐっ、……確かに付き合ってるときは下着とかも気を付けてたけど、今はヨレヨレになってもあんまり気にしてない。旦那だしまあ良いかなって。……もしかして、最近誘ってくれないのってそれが原因?
自分の腕とかお腹へと視線を動かす。そこにはちょっとタプタプになってる二の腕とかお腹が見える。場所によっては二段腹に見えるかも。服のサイズだっておおきくなってるし。
最近体重計にすら乗って無い、ま、まずい…………。
「優子大丈夫?」
「へっ? う、うん大丈夫、大丈夫だよ」
「うっそだー、大方自分の身体見て絶望してたんでしょ」
「…………そうよ」
「やっぱり! ……でもしょうが無いよね、皆年取ってんだし。30歳だよ30歳。そりゃ皆おばさんになるよね。20代の終わり、30代の始まり!」
「「「ぐはっ……!」」」
ここにいる皆は自分の胸に手を当ててダメージを受ける。写真の中のピチピチだった私達はもう居ない。ここにいるのは昔あの人おばさんくさーいとかって笑っていたそのへんのおばちゃんだった。
あの時のおばちゃん、笑ってごめんなさい。私も人のこと笑えなくなってしまいました。
「で、ででででもさ! 瑠依って若々しさ保ってるよね、何かしてる?」
「あー、あたしね。ちょっと前からジム通ってるよ」
「ジム! なんで?」
「……旦那にお前太ったなって言われて…………」
「「「おっふ……」」」
いや、言ってくれるだけマシか。……いつだ、いつから旦那に誘われなくなった? いつから私が誘わないと応じてくれなくなった?
記憶をたぐり寄せていく。1週間……、いや、もっと前だ。1ヶ月……3ヶ月……半年……1年……1年半…………、1年半位前からかも。
ぎ、ぎゃああああああああ!?
「ゆ、優子、大丈夫!?」
「……放っておいて、今アイデンティティが崩壊中だから……」
「大丈夫、大丈夫だよ! もう30だけど、”まだ”30なんだから!」
「わ、私……、女としてまだ生きていける…………?」
「いけるいける! 一緒に頑張ろう?」
「うん……」
子供は欲しい。出産するには男女が合体しないといけない。合体するためには魅力が必要だから……、うん、決めた。
私はおもむろに立上がって、皆を見渡す。そして、拳を作って上に突き上げた。
「宣誓! 私、谷口優子はダイエットして女を取り戻し、旦那に振り向いて貰えるようここに誓います!」
隣の部屋に迷惑がかからないような声のボリュームにしてはっきり宣言した。すると、皆も私に続いて立上がった。
「私も!」
「私も!」
「あたしも!」
「私も!」
千沙都、雫、瑠依、夏凛の順で私と同じように拳を突き上げる。
ここにいるのは私の友達だけど、これからはライバルでもある。おばさんって言われないように、「お前太ったな」とか「もう女に見られないんだよ」とか言われないように。
誰が旦那を早く振り向かせられるかの勝負となった。旦那に求めて貰えるように私達は頑張る! ……それはさておき。
「今日は楽しむぞー! ダイエットは明日からだ!」
「「「おー!」」」
明日から頑張る! だってお酒とかワイン美味しいんだもん! さっすが高級ホテルぅ!
皆との女子会を終えて家に帰る。手洗いうがいをしてリビングに入ると、2つ上の彰がソファーに座って新聞を読んでいた。
「ただいまー」
「お帰り、楽しかった?」
「楽しかった。……ねえ」
「ん、どうした?」
「私って太った?」
「…………ソンナコトナイヨ」
そう言って、彰は視線を横にずらす。
あ、うん。その反応だけで良いわ。っていうか、やっぱりそう思ってたんだ。
私の機嫌が悪くなったのを感じ取った彰は慌てて弁解する。
「いや、違うんだよ。優子が美味しそうにご飯を食べる姿が可愛くてね、言い出せなかったんだ。これは君のせいじゃない」
「でも太ったように見えてるんでしょ?」
「…………」
「分かった、分かったわ、ええ分かりましたとも」
「……何が分かったんだい?」
「私ダイエットするから」
「ほう?」
「痩せて彰のことを振り向かせてみせるから待ってなさい!」
「じゃあ体重量ってみようか」
「えっ!? ちょ、それは……。食べてきたばっかりだし」
「現実を見るのも大事だよ」
新聞を置いてソファーを立ち上がった彰はツカツカと私の方へと歩いてきて、私の右手首を掴んだ。性別もあるけど、普段から筋トレをしている彰の力は強くて振りほどけない。
私はそのまま彰に体重計の前に立たされた。そのまま彰はデジタル体重計のスイッチを入れる。
「さあ乗るんだ」
「いや、こんなの酷いわ……」
「僕はね、優子が沢山食べる姿を見るのが好きなんだ。でも最近の優子は美容をおざなりにしてきた。僕はこの日を待っていたよ、自分からダイエットするって言い出す日を」
「いや、お願い……。後3日だけでも……」
「駄目だ、さあ!」
「いやぁ~~~~!?」
そして私は体重計に乗った。40……50……60……、66.1kgで止まる。
思わず二度見した。こんな数字見たこと無い。過去最高だ。太ってても60kg前半だと思っていたのに……!
「ん、70kgだね」
「違う、66kgよ!」
「同じだよ。四捨五入したら70kgだ。優子の身長は?」
「158cmです……」
「つまり太ってるね」
「……っ!?」
彰の両手が私のお腹に触れて、そのまま揉まれる。揉まれるなら胸にして欲しい……じゃなくって。
「僕はね、太ってる優子も可愛らしいと思うよ。でも、やっぱり前みたいに痩せてる優子の方が好きだ。
色んな服を着こなして僕を誘惑してくる、そんな優子が」
「私の魅力って外見だけなの……?」
「違うよ。ご飯を美味しそうに食べる姿、屈託の無い笑顔、一緒にいて楽しい・安心できるところ……そういう所が大好きだ」
「そ、そうなのね……えへへ」
「でも僕も男なんだ。抱きたいって、君とセックスしたいって思わせて欲しい」
「……分かったわ、私頑張るから」
「うん、僕も心を鬼にしよう。ダイエットは辛い、でも優子を1人にしない。一緒に頑張ろう」
「ええ!」
かくして、私のダイエット生活が始まった。目指せ理想体重! プリティな身体!
運動してない人がいきなり運動をしても怪我をするだけだから。
彰からそう言われて、スクワット、腕立て伏せ、腹筋や背筋といった簡単なメニューから始めた。それに、最初に足の筋肉を付けた方が痩せやすくなると言うことで、スクワットを中心に行っていく。
始めた1週間くらいは20回とかでもきつかった。でもめげずに頑張っていくとだんだんと回数を増やせるようになったし、今まで着ていたものが緩くなったり、体力も付いた気がする。
あと、お化粧が肌にのりやすくなった気がして、これが1番嬉しかった。
職場でも「あれ、谷口先輩可愛くなりましたね」って新人教育を担当した彩花ちゃんに言って貰ってとても嬉しかった。
食生活も豆腐とか野菜メインにして、お肉とかお酒、塩分を少なくしていくと、もっと痩せていって、更にジョギングと水泳もメニューに加える。
そして、なんとダイエットを始めて半年で50kg代にまで体重を落とすことが出来た!
服のサイズもLLサイズからLサイズに変わって、昔の私に近付いた気がする。
挙げ句の果てには彰の目が変わった。時折、私に欲情して目をギラギラと、そして男根を大きく膨れさせている。……そう、私が彰を興奮させているのだ。
私から誘うこともあるけど、彰からベッドに行こうとすることの方が多くなってきて私達は合体する。しかも、体力が付いたことで3回戦位出来るようになったんだ!
ダイエットを始めて1年、月に1回会うようになった皆と再び女子会をする。……女子って言うよりおばさん会って言った方が正しいけど。
皆もダイエットをしたおかげで体重が減って、旦那から求められる事が増えていたらしい。それで千沙都、雫、夏凛の3人は赤ちゃんが出来た。私と瑠依も避妊具無しで合体しているから出来るのは時間の問題だろう。って言うか、彰の子供が欲しいから早く出来て欲しい。……むむっ、不妊治療をするべきか悩む。
千沙都、雫、夏凛はそれでも女磨きは欠かさずに行っているらしく、写真の中の1年前の私達よりずっと綺麗になってた。もう雰囲気から違う。20代の若ママには負けないよ!
あの日の女子会以来、月イチ位で皆と会うようになった。新しく友達を作るのは大変だけど、昔の友達とまた仲良くなれて本当に嬉しい。
お腹が膨らんでる中で会っているからお酒とかを爆食い出来ないけど、気心知れた皆と近況報告をするのは生活にメリハリが出来た気がする。
皆の報告が終わって、最後に私の番だ。
「最後に、私谷口優子は66.1kgから52.7kgへと減量に成功しました! Mサイズです!」
「「「おおー! すごーい!」」」
「でも当たりません! 週一で合体するようになったのになんでよ……」
「あー、それは…………」
体重が減って喜んだのもつかの間、なかなか出来ないことで肩を落とす。そんな私を皆は慰めてくれた。
「体温とか量ってるんだよね?」
「もちろん、出来ることはしてるつもり」
「旦那さんの問題って事は?」
「どういうこと?」
「精子の量が少ないとか」
「検査しても異常なしだって」
「……不妊治療は考えてる?」
「うん、そろそろ始めようかって」
「妊娠してるあたし達が言っても説得力に欠けるんだけど、焦っちゃ駄目だよ。ほら物欲センサーみたいな?」
「赤ちゃん欲しがってるときには妊娠しにくいって?」
「そう」
……そっか、でも焦るんだよなぁ。35歳で初産とかは色々と弊害が。くぅぅーっ、もっと早く対処しておきなさいよ、昔の私!
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「「「おー!」」」
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極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
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