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第三十六話 旅立ちの日
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出発の日になり、ついに牢屋から出ることになった。
事件は解決したという配慮で、少しだけ自由時間を設けてもらえることになった。
結果として罪を犯したことには変わりないが、特別に許してもらえたのだ。
見張りの騎士と一緒に、まずは宿屋に荷物を取りに行くことになった。
◆ ◆ ◆
久しぶりに外の空気を吸うと、とても新鮮に感じられた。
王都の街並みは、以前と変わらず平和そうに見える。
でも、私の心境は大きく変わってしまった。
もう、以前のような無邪気な気持ちで街を歩くことはできない。
宿屋に着くと、いつものように宿主が出迎えてくれた。
「セレナちゃん、お帰り! 心配してたのよ」
「ただいま……ではないですね。お世話になりました」
私は自分の部屋に向かった。
もう、ここに戻ってくることはない。
◆ ◆ ◆
部屋に入ると、すべてがあの時のままだった。
私は制服を脱いで、普段の冒険者の服に着替えた。
着替えた後、私は改めて脱いだ制服を見つめた。
あの夜、オリヴィアと食事をした後に着ていた制服。
ハルートとの戦いで、こんなにボロボロになってしまった。
最初にこの制服を着た時のことを思い出す。
アリアナが「騎士団の品位を守るため、外部の人にも着てもらっています。小汚い恰好じゃ、士気に関わりますので」と小言を言いながら渡してくれたっけ。
あの時は少し面倒に思ったけれど、今となっては懐かしい思い出だ。
でも、今ではこんな姿になってしまって……。
借り物なのに、こんな状態にしてしまって、アリアナに怒られるかもしれない。
でも、それでも返さなければならない。
「準備はできましたか?」
見張りの騎士が声をかけてくる。
「はい、もう少しだけ……」
部屋を見回して、私はこの場所での思い出を心に刻んだ。
楽しかった日々も、辛かった日々も、すべてがここにある。
でも、もうお別れの時だ。
「ありがとうございました」
私は部屋に向かって小さく呟いて、扉を閉めた。
◆ ◆ ◆
宿屋を出る前に、宿主に挨拶をしなければならない。
「宿主さん、長い間お世話になりました」
「どういたしまして。元気でやるのよ」
宿主が優しく微笑んでくれる。
「それから……残りの宿代をお支払いします」
私が財布を取り出すと、宿主が困ったような顔をした。
「実は……前に大量に食べた食事のツケがあるのよ」
「ツケ?」
そういえば、あの時確かにたくさん食べた記憶がある。
でも、そんなに高額になるとは思わなかった。
「手持ちのお金では足りないので……」
私が困っていると、宿主が優しく言ってくれた。
「いいのよ、今度帰ってきた時に払ってくれれば」
宿主の表情は温かくて、でもどこか寂しそうだった。
「はい、必ず」
私は深くお辞儀をして、宿屋を後にした。
◆ ◆ ◆
次に向かったのは、騎士団本部だった。
借りていたものを返しに行かなければならない。
アリアナがいるかもしれないと思うと、少し緊張した。
「セレナ!」
案の定、アリアナが受付にいた。
彼女の顔を見ると、少しやつれているように見える。
きっと、色々と心配してくれていたんだろう。
「アリアナ、お疲れさま」
「もう、心配したのよ!」
アリアナが駆け寄ってくる。
でも、以前のような明るさはなかった。
オリヴィアのことで、彼女も深く傷ついているんだ。
「借りていたものを返しに来ました」
私はボロボロになった制服を取り出した。
「こんなになってしまって、すみません」
制服を見て、アリアナは何も言わなかった。
ただ、優しく受け取ってくれる。
「制服を見て、セレナを守ってくれてありがとう」
アリアナが、聞こえないくらい小さな声で言った。
私にも聞こえるか聞こえないかくらいの声だったけど、確かにそう言ったと思う。
◆ ◆ ◆
「それから、剣も返します」
私は王都で支給された剣を差し出した。
この剣は、私の相棒のような存在だった。
一緒に訓練をして、一緒に依頼をこなして、一緒に戦った。
少し名残惜しい気持ちもあったけど、借り物は借り物だ。
「ありがとう」
アリアナが剣も優しく受け取ってくれる。
「アリアナは、見習いを卒業することになったの。この窓口からもいなくなるわ」
「そうなんですか」
アリアナも、成長しているんだ。
オリヴィアがいなくなって、きっと色々と変わることがあるんだろう。
「今までのことは通過点に過ぎない。私も先に進むの」
アリアナの言葉には、強い意志が感じられた。
彼女も、前に向かって歩いていこうとしている。
そのとき、見張りの騎士が声をかけてきた。
「そろそろ時間ですので、戻りましょう」
もう、時間なんだ。
「アリアナ、元気でね」
「セレナも。必ず、生きて帰ってきて」
私たちは軽くハグをして、お別れをした。
◆ ◆ ◆
船着場に向かう途中で、サラとバランが待っていてくれた。
「お疲れさま、セレナ」
サラが優しく微笑んでくれる。
「サラさん、バランさん」
「俺も冒険者に復帰することにした」
バランが意外なことを言った。
「セレナの姿を見て、現役に戻りたくなったんだ」
「それに、指導するのがつまらなくてな」
バランらしい理由だった。
でも、本当は私のことを心配してくれているんだと思う。
「サラさんは?」
「私はギルドの職員になることになったの」
サラがギルド職員の制服を着ているのに気づいた。
「オリヴィアの代わりに、受付の仕事をするのよ」
「そうなんですね……」
サラも、新しい道を歩き始めているんだ。
みんな、それぞれの道を見つけている。
私も、負けてはいられない。
◆ ◆ ◆
「それじゃあ、行ってきます」
船に乗る前に、私は二人に挨拶をした。
「気をつけてね」
「必ず戻ってこいよ」
サラとバランが手を振ってくれる。
私も手を振り返して、船に乗り込んだ。
船が動き出すと、王都の街がだんだん小さくなっていく。
楽しい思い出も、辛い思い出も、すべてがあの街にある。
でも、今度は一人で新しい場所に向かう。
オリエンテ要塞での生活が、どんなものになるのか分からない。
きっと、とても厳しいものになるだろう。
でも、私には目標がある。
強くなって、妹を救うという目標が。
そして、ハルートとオリヴィアの分まで生きるという使命が。
私は海を見つめながら、決意を新たにした。
新しい戦いが、始まろうとしている。
でも、今度は逃げない。
どんなに辛くても、必ず乗り越えてみせる。
それが、私の選んだ道なのだから。
船は静かに、オリエンテ要塞に向かって進んでいく。
私の新しい人生を乗せて――。
(つづく)
事件は解決したという配慮で、少しだけ自由時間を設けてもらえることになった。
結果として罪を犯したことには変わりないが、特別に許してもらえたのだ。
見張りの騎士と一緒に、まずは宿屋に荷物を取りに行くことになった。
◆ ◆ ◆
久しぶりに外の空気を吸うと、とても新鮮に感じられた。
王都の街並みは、以前と変わらず平和そうに見える。
でも、私の心境は大きく変わってしまった。
もう、以前のような無邪気な気持ちで街を歩くことはできない。
宿屋に着くと、いつものように宿主が出迎えてくれた。
「セレナちゃん、お帰り! 心配してたのよ」
「ただいま……ではないですね。お世話になりました」
私は自分の部屋に向かった。
もう、ここに戻ってくることはない。
◆ ◆ ◆
部屋に入ると、すべてがあの時のままだった。
私は制服を脱いで、普段の冒険者の服に着替えた。
着替えた後、私は改めて脱いだ制服を見つめた。
あの夜、オリヴィアと食事をした後に着ていた制服。
ハルートとの戦いで、こんなにボロボロになってしまった。
最初にこの制服を着た時のことを思い出す。
アリアナが「騎士団の品位を守るため、外部の人にも着てもらっています。小汚い恰好じゃ、士気に関わりますので」と小言を言いながら渡してくれたっけ。
あの時は少し面倒に思ったけれど、今となっては懐かしい思い出だ。
でも、今ではこんな姿になってしまって……。
借り物なのに、こんな状態にしてしまって、アリアナに怒られるかもしれない。
でも、それでも返さなければならない。
「準備はできましたか?」
見張りの騎士が声をかけてくる。
「はい、もう少しだけ……」
部屋を見回して、私はこの場所での思い出を心に刻んだ。
楽しかった日々も、辛かった日々も、すべてがここにある。
でも、もうお別れの時だ。
「ありがとうございました」
私は部屋に向かって小さく呟いて、扉を閉めた。
◆ ◆ ◆
宿屋を出る前に、宿主に挨拶をしなければならない。
「宿主さん、長い間お世話になりました」
「どういたしまして。元気でやるのよ」
宿主が優しく微笑んでくれる。
「それから……残りの宿代をお支払いします」
私が財布を取り出すと、宿主が困ったような顔をした。
「実は……前に大量に食べた食事のツケがあるのよ」
「ツケ?」
そういえば、あの時確かにたくさん食べた記憶がある。
でも、そんなに高額になるとは思わなかった。
「手持ちのお金では足りないので……」
私が困っていると、宿主が優しく言ってくれた。
「いいのよ、今度帰ってきた時に払ってくれれば」
宿主の表情は温かくて、でもどこか寂しそうだった。
「はい、必ず」
私は深くお辞儀をして、宿屋を後にした。
◆ ◆ ◆
次に向かったのは、騎士団本部だった。
借りていたものを返しに行かなければならない。
アリアナがいるかもしれないと思うと、少し緊張した。
「セレナ!」
案の定、アリアナが受付にいた。
彼女の顔を見ると、少しやつれているように見える。
きっと、色々と心配してくれていたんだろう。
「アリアナ、お疲れさま」
「もう、心配したのよ!」
アリアナが駆け寄ってくる。
でも、以前のような明るさはなかった。
オリヴィアのことで、彼女も深く傷ついているんだ。
「借りていたものを返しに来ました」
私はボロボロになった制服を取り出した。
「こんなになってしまって、すみません」
制服を見て、アリアナは何も言わなかった。
ただ、優しく受け取ってくれる。
「制服を見て、セレナを守ってくれてありがとう」
アリアナが、聞こえないくらい小さな声で言った。
私にも聞こえるか聞こえないかくらいの声だったけど、確かにそう言ったと思う。
◆ ◆ ◆
「それから、剣も返します」
私は王都で支給された剣を差し出した。
この剣は、私の相棒のような存在だった。
一緒に訓練をして、一緒に依頼をこなして、一緒に戦った。
少し名残惜しい気持ちもあったけど、借り物は借り物だ。
「ありがとう」
アリアナが剣も優しく受け取ってくれる。
「アリアナは、見習いを卒業することになったの。この窓口からもいなくなるわ」
「そうなんですか」
アリアナも、成長しているんだ。
オリヴィアがいなくなって、きっと色々と変わることがあるんだろう。
「今までのことは通過点に過ぎない。私も先に進むの」
アリアナの言葉には、強い意志が感じられた。
彼女も、前に向かって歩いていこうとしている。
そのとき、見張りの騎士が声をかけてきた。
「そろそろ時間ですので、戻りましょう」
もう、時間なんだ。
「アリアナ、元気でね」
「セレナも。必ず、生きて帰ってきて」
私たちは軽くハグをして、お別れをした。
◆ ◆ ◆
船着場に向かう途中で、サラとバランが待っていてくれた。
「お疲れさま、セレナ」
サラが優しく微笑んでくれる。
「サラさん、バランさん」
「俺も冒険者に復帰することにした」
バランが意外なことを言った。
「セレナの姿を見て、現役に戻りたくなったんだ」
「それに、指導するのがつまらなくてな」
バランらしい理由だった。
でも、本当は私のことを心配してくれているんだと思う。
「サラさんは?」
「私はギルドの職員になることになったの」
サラがギルド職員の制服を着ているのに気づいた。
「オリヴィアの代わりに、受付の仕事をするのよ」
「そうなんですね……」
サラも、新しい道を歩き始めているんだ。
みんな、それぞれの道を見つけている。
私も、負けてはいられない。
◆ ◆ ◆
「それじゃあ、行ってきます」
船に乗る前に、私は二人に挨拶をした。
「気をつけてね」
「必ず戻ってこいよ」
サラとバランが手を振ってくれる。
私も手を振り返して、船に乗り込んだ。
船が動き出すと、王都の街がだんだん小さくなっていく。
楽しい思い出も、辛い思い出も、すべてがあの街にある。
でも、今度は一人で新しい場所に向かう。
オリエンテ要塞での生活が、どんなものになるのか分からない。
きっと、とても厳しいものになるだろう。
でも、私には目標がある。
強くなって、妹を救うという目標が。
そして、ハルートとオリヴィアの分まで生きるという使命が。
私は海を見つめながら、決意を新たにした。
新しい戦いが、始まろうとしている。
でも、今度は逃げない。
どんなに辛くても、必ず乗り越えてみせる。
それが、私の選んだ道なのだから。
船は静かに、オリエンテ要塞に向かって進んでいく。
私の新しい人生を乗せて――。
(つづく)
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