この手に“力”を、心に責任を――王都冒険譚

しらすの灯

文字の大きさ
34 / 34

第三十六話 旅立ちの日

しおりを挟む
出発の日になり、ついに牢屋から出ることになった。

事件は解決したという配慮で、少しだけ自由時間を設けてもらえることになった。

結果として罪を犯したことには変わりないが、特別に許してもらえたのだ。

見張りの騎士と一緒に、まずは宿屋に荷物を取りに行くことになった。

◆ ◆ ◆

久しぶりに外の空気を吸うと、とても新鮮に感じられた。

王都の街並みは、以前と変わらず平和そうに見える。

でも、私の心境は大きく変わってしまった。

もう、以前のような無邪気な気持ちで街を歩くことはできない。

宿屋に着くと、いつものように宿主が出迎えてくれた。

「セレナちゃん、お帰り! 心配してたのよ」

「ただいま……ではないですね。お世話になりました」

私は自分の部屋に向かった。

もう、ここに戻ってくることはない。

◆ ◆ ◆

部屋に入ると、すべてがあの時のままだった。

私は制服を脱いで、普段の冒険者の服に着替えた。

着替えた後、私は改めて脱いだ制服を見つめた。

あの夜、オリヴィアと食事をした後に着ていた制服。

ハルートとの戦いで、こんなにボロボロになってしまった。

最初にこの制服を着た時のことを思い出す。

アリアナが「騎士団の品位を守るため、外部の人にも着てもらっています。小汚い恰好じゃ、士気に関わりますので」と小言を言いながら渡してくれたっけ。

あの時は少し面倒に思ったけれど、今となっては懐かしい思い出だ。

でも、今ではこんな姿になってしまって……。

借り物なのに、こんな状態にしてしまって、アリアナに怒られるかもしれない。

でも、それでも返さなければならない。

「準備はできましたか?」

見張りの騎士が声をかけてくる。

「はい、もう少しだけ……」

部屋を見回して、私はこの場所での思い出を心に刻んだ。

楽しかった日々も、辛かった日々も、すべてがここにある。

でも、もうお別れの時だ。

「ありがとうございました」

私は部屋に向かって小さく呟いて、扉を閉めた。

◆ ◆ ◆

宿屋を出る前に、宿主に挨拶をしなければならない。

「宿主さん、長い間お世話になりました」

「どういたしまして。元気でやるのよ」

宿主が優しく微笑んでくれる。

「それから……残りの宿代をお支払いします」

私が財布を取り出すと、宿主が困ったような顔をした。

「実は……前に大量に食べた食事のツケがあるのよ」

「ツケ?」

そういえば、あの時確かにたくさん食べた記憶がある。

でも、そんなに高額になるとは思わなかった。

「手持ちのお金では足りないので……」

私が困っていると、宿主が優しく言ってくれた。

「いいのよ、今度帰ってきた時に払ってくれれば」

宿主の表情は温かくて、でもどこか寂しそうだった。

「はい、必ず」

私は深くお辞儀をして、宿屋を後にした。

◆ ◆ ◆

次に向かったのは、騎士団本部だった。

借りていたものを返しに行かなければならない。

アリアナがいるかもしれないと思うと、少し緊張した。

「セレナ!」

案の定、アリアナが受付にいた。

彼女の顔を見ると、少しやつれているように見える。

きっと、色々と心配してくれていたんだろう。

「アリアナ、お疲れさま」

「もう、心配したのよ!」

アリアナが駆け寄ってくる。

でも、以前のような明るさはなかった。

オリヴィアのことで、彼女も深く傷ついているんだ。

「借りていたものを返しに来ました」

私はボロボロになった制服を取り出した。

「こんなになってしまって、すみません」

制服を見て、アリアナは何も言わなかった。

ただ、優しく受け取ってくれる。

「制服を見て、セレナを守ってくれてありがとう」

アリアナが、聞こえないくらい小さな声で言った。

私にも聞こえるか聞こえないかくらいの声だったけど、確かにそう言ったと思う。

◆ ◆ ◆

「それから、剣も返します」

私は王都で支給された剣を差し出した。

この剣は、私の相棒のような存在だった。

一緒に訓練をして、一緒に依頼をこなして、一緒に戦った。

少し名残惜しい気持ちもあったけど、借り物は借り物だ。

「ありがとう」

アリアナが剣も優しく受け取ってくれる。

「アリアナは、見習いを卒業することになったの。この窓口からもいなくなるわ」

「そうなんですか」

アリアナも、成長しているんだ。

オリヴィアがいなくなって、きっと色々と変わることがあるんだろう。

「今までのことは通過点に過ぎない。私も先に進むの」

アリアナの言葉には、強い意志が感じられた。

彼女も、前に向かって歩いていこうとしている。

そのとき、見張りの騎士が声をかけてきた。

「そろそろ時間ですので、戻りましょう」

もう、時間なんだ。

「アリアナ、元気でね」

「セレナも。必ず、生きて帰ってきて」

私たちは軽くハグをして、お別れをした。

◆ ◆ ◆

船着場に向かう途中で、サラとバランが待っていてくれた。

「お疲れさま、セレナ」

サラが優しく微笑んでくれる。

「サラさん、バランさん」

「俺も冒険者に復帰することにした」

バランが意外なことを言った。

「セレナの姿を見て、現役に戻りたくなったんだ」

「それに、指導するのがつまらなくてな」

バランらしい理由だった。

でも、本当は私のことを心配してくれているんだと思う。

「サラさんは?」

「私はギルドの職員になることになったの」

サラがギルド職員の制服を着ているのに気づいた。

「オリヴィアの代わりに、受付の仕事をするのよ」

「そうなんですね……」

サラも、新しい道を歩き始めているんだ。

みんな、それぞれの道を見つけている。

私も、負けてはいられない。

◆ ◆ ◆

「それじゃあ、行ってきます」

船に乗る前に、私は二人に挨拶をした。

「気をつけてね」

「必ず戻ってこいよ」

サラとバランが手を振ってくれる。

私も手を振り返して、船に乗り込んだ。

船が動き出すと、王都の街がだんだん小さくなっていく。

楽しい思い出も、辛い思い出も、すべてがあの街にある。

でも、今度は一人で新しい場所に向かう。

オリエンテ要塞での生活が、どんなものになるのか分からない。

きっと、とても厳しいものになるだろう。

でも、私には目標がある。

強くなって、妹を救うという目標が。

そして、ハルートとオリヴィアの分まで生きるという使命が。

私は海を見つめながら、決意を新たにした。

新しい戦いが、始まろうとしている。

でも、今度は逃げない。

どんなに辛くても、必ず乗り越えてみせる。

それが、私の選んだ道なのだから。

船は静かに、オリエンテ要塞に向かって進んでいく。

私の新しい人生を乗せて――。

(つづく)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...