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第3話 灰の息と金鱗の子
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朝の光が、かすかな金色を帯びて差し込んできた。閉じた瞼の裏を、赤く照らす。憐生は、まるで水底から浮かび上がるように、ゆっくりと意識を取り戻した。
――痛い。
全身を突き刺すような熱が、皮膚の下で暴れていた。焼け焦げたような筋肉のきしみ。血がまだ沸いているように脈打ち、指をわずかに動かすだけで、傷口の奥に埋め込まれた火種が弾けた。
昨日の戦いの光景が、まだ脳裏にこびりついている。叫び、崩れる土壁、閃く刃。無茶をした。勝てる戦いではなかった。
それでも――そうするしかなかったのだ。
「よー、燐生! 元気そうじゃん、一緒に遊ぼうぜ!」
戸口から声が飛んだ。顔を出したのは、村の若者・零士れいじだった。陽に焼けた頬、白い歯。口の端を上げている。からかいと心配の入り混じった笑みが、朝の光を跳ね返していた。
「元気……?」
喉が乾き、声が掠れた。――元気とは何だ?
立ち上がることすらできないこの体で、どう答えろというのか。零士の無邪気さに、羨望と苛立ちが同時に湧いた。
「零士、あっち行け。邪魔しないで」
その声は澪みお姉だった。彼女が入ってくると、空気が少し柔らいだ。朝露のような涼しさが、部屋を満たし、燐生は思わず息をゆるめた。
「燐生、薬よ。ちゃんと飲んでね」
差し出された椀の中には、黒褐色の液体。鼻を突く苦みの匂いがした。澪が優しく肩を支える。その手の温もりが、痛みの奥にまで届くようだった。薬を飲み下すと、喉を通るたび、苦みが胸に広がり、体の芯を掴まれるような感覚が走った。
――ああ、生きている。
それだけで、涙が出そうになった。
昼下がり、隣家の娘――雫しずくが食事を持ってきた。
「お母さんが作った粥だよ。熱いから気をつけてね」
湯気の立つ粥を木匙ですくい、口に含む。米の甘みと、かすかな灰汁の香りが舌に広がった。柔らかく、あたたかい。
笑い合うそのひとときが、どこか遠い昔の夢のように感じられた。いつ以来だろうか。誰かと、こんな穏やかな時間を過ごしたのは。
☆★☆
数日が過ぎ、傷がようやく癒えた。燐生は再び修行に戻った。体はまだ痛む。けれど、止まれば、心が崩れてしまいそうだった。
村外れの丘。
白く乾いた土が風に舞い、陽光の中で揺らめいていた。両手を合わせ、ゆっくりと息を吸い込む。灰土の匂いが肺を満たす。鉄錆と焦げた木のような重い匂い。それが灰素はいそ。命を焼き、同時に養うもの。
《灰息法》――灰を吸い、生を受け入れる修行。
吸うたびに、灰素が血流に乗って流れ込む。痛みが熱に変わり、やがて脈動になる。それを経脈に乗せ、体の奥へ、深く沈めていく。頭の中で光の筋を描くように、経の流れを感じ取る。
指先から腕へ、胸へ、腹へ――
灰素が通るたび、体が軋み、音を立てるようだった。それでも、耐えた。
灰素は毒でもある。体が拒めば、肉が裂け、血が灰に変わる。受け入れれば、それは“流れ”となる。灰流――生と死の狭間を渡る力。
自分の中にそれが生まれるのを感じた。冷たく、けれど確かな流れ。灰素が、自分の呼吸の一部になる。空気の音が変わり、世界の輪郭が、少し近くなったように思えた。
☆★☆
夜、燐生は灯を消し、巻物を広げた。闇の中で、文字が柔らかく脈打つ。
「……感じろ。考えるな……」
指先で文字をなぞった。指から、腕、胸、腹、脚へ――光が走る。鋭い電流のような衝撃が、体内の経脈を貫き、骨の奥で共鳴した。一つ、二つ、三つ――それぞれ違う道を流れていく。心臓を通り、背骨を抜け、足裏を巡って再び昇る。
三つの光が、体の中で交差し、淡く溶け合った。
燐生は知らない。三つの道が「心脈」「陽脈」「陰脈」と呼ばれるものだと。
ただ、息を乱しながら、何度もなぞり続けた。光が熱を帯び、灰素が循環を始める。頭の奥が霞み、視界が白く滲む。痛みと熱と、そして――確かな生の鼓動する。
彼の胸の奥で、まるでそれ自体が命を持つように、灰素が呼吸し、脈を打つ。それは、生なのか。それとも、死に続けることなのか。
燐生には、まだわからなかった。ただ、その夜、確かに感じた――
灰の中にも、命はあるのだと。
☆★☆
修行に励んでいた、ある日の朝だった。
燐生は息を整え、両掌に流れる灰流の律動を感じていた。呼吸を一つ整えるごとに、体の内側でざらつくような流れが、静かに沈んでいく。朝霧が薄く流れ、木々の葉に残る露が光る。鳥の声も聞こえぬ静寂――この山村における、いつもの朝だ。
その静寂を破るように、戸を叩く音がした。
「よお、燐生。起きてるか?」
扉を開けると、そこに立っていたのは零士だった。日焼けした頬に、いつものようにいたずらっぽい笑みを浮かべている。その後ろには、柚羽ゆうと雫しずく――村の仲間の少年少女が並んでいた。三人の目には、同じ火が灯っていた。
「外に出ようぜ。霧晶石むしょうせきを探しに行くんだ」
霧晶石――灰素が自然に結晶した、淡く光る石。修行の触媒にも、薬にもなる。
燐生は眉をひそめた。
「……外は危険だ。灰行の同行がなきゃ、許されない」
「澪姉さんの許可なんていらねぇよ」
零士の目がわずかに光った。「お前だって知ってるだろ。外の空気を。灰の外の“世界”を」
その言葉に、燐生の心がわずかにざわついた。この閉じた村の中では、あまりにも狭い。早く成長したいなら、少しの冒険が必要だ。
「……わかった。俺も行く」
その言葉を口にした瞬間、何かが音を立てて動き出した気がした。禁を破る恐怖よりも、胸の奥の渇きが勝っていた。
☆★☆
朝霧が濃く立ちこめる山道を、四人は静かに進んだ。
足元には露に濡れた苔が広がり、踏むたびにしっとりとした感触が伝わる。霧が風に揺れ、白い帯のように流れた。空気は湿り、木の匂いが濃い。
「すげぇ……これが、外か」
零士が息を呑む。霧の向こうに広がるのは、灰色の村ではなく、生命の色だった。
木々の葉は青々と茂り、光を受けてわずかに輝いている。燐生は目を細めた。記憶のどこかに焼きついている景色。懐かしさと同時に、胸の奥が痛む。
――あの頃の村も、こんな風だった。
「霧晶石は灰素が集まる場所にできる……そう思うだろ?」と零士が言った。
「でも違うの。灰素を吸い尽くして、周りが静かになる場所にできるのよ」雫が小さく答えた。
「へえ、灰が少ないとこにあるのか」柚羽がつぶやく。
その言葉に、燐生はうなずいた。「そうだ。そう教わった」
彼の声は低く。静かに右掌の傷痕をなぞった。
生まれの村で、灰素を操る修行をしていた頃の記憶がよみがえる。だが、その村は……灰に沈んだ。何故そうなったのか、誰も知らない。ただ、燐生だけが生き残った。
☆★☆
「……なぁ、今、音がしなかったか?」
柚羽が立ち止まった。霧が少し流れ、森の奥から、枝の割れる乾いた音がした。
ピシィ。
霧の奥、何かが動いた。四人の視線が一点に集まる。白い靄の中から、影がゆっくりと浮かび上がった。
――それは、小さな影だった。
幼い子どもの獣のように見える。だが、違和感があった。頬には細い鱗のような模様が走り、瞳は淡い金色に光っている。背には薄い翼。呼吸するたび、空気が冷たく震えた。
「妖……?」
雫が小さく息を呑んだ。
幼い。見た目はかなりの子どものような動物だった。
妖は首を傾げ、何かを呟いた。意味の分からない響き。言葉のようで、風の音にも似ていた。
「……話が通じるのか?」
零士が一歩、前へ出ようとした瞬間――
妖の指先がわずかに動いた。風が爆ぜ、地面が跳ね上がる。砂と霧が舞い上がり、四人の視界が白に染まった。
「下がれ!」
燐生が叫び、灰流を放った。胸の奥の熱が腕を駆け、霧が裂ける。
だが、次の瞬間。
「きゃっ!」
雫の悲鳴。足を滑らせ、岩に足首をぶつけた。白い足首が不自然に曲がる。零士が駆け寄り、抱き上げる。
「雫、大丈夫か!」
「……痛い、ごめん……」彼女の瞳に涙が滲む。
霧の奥を見ても、妖の姿はもうなかった。
「消えた……?」柚羽が息を呑む。
「これ以上は危険だ。戻るぞ」
零士が雫を抱いたまま言った。燐生が頷く。
「零士、俺が――」
「いや、俺が背負う」零士の迷いのない声だった。
彼は雫をそっと背に担ぎ上げる。
「零士、無理するな。俺と交代――」
「いい。俺が誘ったんだ、責任は俺にある」
誰も言葉を返せなかった。霧の中、零士の背で雫が静かに息をしている。柚羽が荷を受け取り、燐生が前を警戒する。帰り道の霧は薄れ、朝の光が差し始めた。山の稜線が黄金に染まり、村の灯が見える。
零士は雫をそっと下ろした。
「着いたぞ。もう少しで家だ」
雫は微笑む。「……ありがとう、零士」
「礼なんかいらねぇよ」零士は照れくさく笑い、額の汗をぬぐった。
霧晶石は見つからなかった。だが燐生の胸の中には、確かな何かが残っていた。
――外の世界は、まだ終わっていない。その呟きは、朝の光の中に静かに溶けていった。
――痛い。
全身を突き刺すような熱が、皮膚の下で暴れていた。焼け焦げたような筋肉のきしみ。血がまだ沸いているように脈打ち、指をわずかに動かすだけで、傷口の奥に埋め込まれた火種が弾けた。
昨日の戦いの光景が、まだ脳裏にこびりついている。叫び、崩れる土壁、閃く刃。無茶をした。勝てる戦いではなかった。
それでも――そうするしかなかったのだ。
「よー、燐生! 元気そうじゃん、一緒に遊ぼうぜ!」
戸口から声が飛んだ。顔を出したのは、村の若者・零士れいじだった。陽に焼けた頬、白い歯。口の端を上げている。からかいと心配の入り混じった笑みが、朝の光を跳ね返していた。
「元気……?」
喉が乾き、声が掠れた。――元気とは何だ?
立ち上がることすらできないこの体で、どう答えろというのか。零士の無邪気さに、羨望と苛立ちが同時に湧いた。
「零士、あっち行け。邪魔しないで」
その声は澪みお姉だった。彼女が入ってくると、空気が少し柔らいだ。朝露のような涼しさが、部屋を満たし、燐生は思わず息をゆるめた。
「燐生、薬よ。ちゃんと飲んでね」
差し出された椀の中には、黒褐色の液体。鼻を突く苦みの匂いがした。澪が優しく肩を支える。その手の温もりが、痛みの奥にまで届くようだった。薬を飲み下すと、喉を通るたび、苦みが胸に広がり、体の芯を掴まれるような感覚が走った。
――ああ、生きている。
それだけで、涙が出そうになった。
昼下がり、隣家の娘――雫しずくが食事を持ってきた。
「お母さんが作った粥だよ。熱いから気をつけてね」
湯気の立つ粥を木匙ですくい、口に含む。米の甘みと、かすかな灰汁の香りが舌に広がった。柔らかく、あたたかい。
笑い合うそのひとときが、どこか遠い昔の夢のように感じられた。いつ以来だろうか。誰かと、こんな穏やかな時間を過ごしたのは。
☆★☆
数日が過ぎ、傷がようやく癒えた。燐生は再び修行に戻った。体はまだ痛む。けれど、止まれば、心が崩れてしまいそうだった。
村外れの丘。
白く乾いた土が風に舞い、陽光の中で揺らめいていた。両手を合わせ、ゆっくりと息を吸い込む。灰土の匂いが肺を満たす。鉄錆と焦げた木のような重い匂い。それが灰素はいそ。命を焼き、同時に養うもの。
《灰息法》――灰を吸い、生を受け入れる修行。
吸うたびに、灰素が血流に乗って流れ込む。痛みが熱に変わり、やがて脈動になる。それを経脈に乗せ、体の奥へ、深く沈めていく。頭の中で光の筋を描くように、経の流れを感じ取る。
指先から腕へ、胸へ、腹へ――
灰素が通るたび、体が軋み、音を立てるようだった。それでも、耐えた。
灰素は毒でもある。体が拒めば、肉が裂け、血が灰に変わる。受け入れれば、それは“流れ”となる。灰流――生と死の狭間を渡る力。
自分の中にそれが生まれるのを感じた。冷たく、けれど確かな流れ。灰素が、自分の呼吸の一部になる。空気の音が変わり、世界の輪郭が、少し近くなったように思えた。
☆★☆
夜、燐生は灯を消し、巻物を広げた。闇の中で、文字が柔らかく脈打つ。
「……感じろ。考えるな……」
指先で文字をなぞった。指から、腕、胸、腹、脚へ――光が走る。鋭い電流のような衝撃が、体内の経脈を貫き、骨の奥で共鳴した。一つ、二つ、三つ――それぞれ違う道を流れていく。心臓を通り、背骨を抜け、足裏を巡って再び昇る。
三つの光が、体の中で交差し、淡く溶け合った。
燐生は知らない。三つの道が「心脈」「陽脈」「陰脈」と呼ばれるものだと。
ただ、息を乱しながら、何度もなぞり続けた。光が熱を帯び、灰素が循環を始める。頭の奥が霞み、視界が白く滲む。痛みと熱と、そして――確かな生の鼓動する。
彼の胸の奥で、まるでそれ自体が命を持つように、灰素が呼吸し、脈を打つ。それは、生なのか。それとも、死に続けることなのか。
燐生には、まだわからなかった。ただ、その夜、確かに感じた――
灰の中にも、命はあるのだと。
☆★☆
修行に励んでいた、ある日の朝だった。
燐生は息を整え、両掌に流れる灰流の律動を感じていた。呼吸を一つ整えるごとに、体の内側でざらつくような流れが、静かに沈んでいく。朝霧が薄く流れ、木々の葉に残る露が光る。鳥の声も聞こえぬ静寂――この山村における、いつもの朝だ。
その静寂を破るように、戸を叩く音がした。
「よお、燐生。起きてるか?」
扉を開けると、そこに立っていたのは零士だった。日焼けした頬に、いつものようにいたずらっぽい笑みを浮かべている。その後ろには、柚羽ゆうと雫しずく――村の仲間の少年少女が並んでいた。三人の目には、同じ火が灯っていた。
「外に出ようぜ。霧晶石むしょうせきを探しに行くんだ」
霧晶石――灰素が自然に結晶した、淡く光る石。修行の触媒にも、薬にもなる。
燐生は眉をひそめた。
「……外は危険だ。灰行の同行がなきゃ、許されない」
「澪姉さんの許可なんていらねぇよ」
零士の目がわずかに光った。「お前だって知ってるだろ。外の空気を。灰の外の“世界”を」
その言葉に、燐生の心がわずかにざわついた。この閉じた村の中では、あまりにも狭い。早く成長したいなら、少しの冒険が必要だ。
「……わかった。俺も行く」
その言葉を口にした瞬間、何かが音を立てて動き出した気がした。禁を破る恐怖よりも、胸の奥の渇きが勝っていた。
☆★☆
朝霧が濃く立ちこめる山道を、四人は静かに進んだ。
足元には露に濡れた苔が広がり、踏むたびにしっとりとした感触が伝わる。霧が風に揺れ、白い帯のように流れた。空気は湿り、木の匂いが濃い。
「すげぇ……これが、外か」
零士が息を呑む。霧の向こうに広がるのは、灰色の村ではなく、生命の色だった。
木々の葉は青々と茂り、光を受けてわずかに輝いている。燐生は目を細めた。記憶のどこかに焼きついている景色。懐かしさと同時に、胸の奥が痛む。
――あの頃の村も、こんな風だった。
「霧晶石は灰素が集まる場所にできる……そう思うだろ?」と零士が言った。
「でも違うの。灰素を吸い尽くして、周りが静かになる場所にできるのよ」雫が小さく答えた。
「へえ、灰が少ないとこにあるのか」柚羽がつぶやく。
その言葉に、燐生はうなずいた。「そうだ。そう教わった」
彼の声は低く。静かに右掌の傷痕をなぞった。
生まれの村で、灰素を操る修行をしていた頃の記憶がよみがえる。だが、その村は……灰に沈んだ。何故そうなったのか、誰も知らない。ただ、燐生だけが生き残った。
☆★☆
「……なぁ、今、音がしなかったか?」
柚羽が立ち止まった。霧が少し流れ、森の奥から、枝の割れる乾いた音がした。
ピシィ。
霧の奥、何かが動いた。四人の視線が一点に集まる。白い靄の中から、影がゆっくりと浮かび上がった。
――それは、小さな影だった。
幼い子どもの獣のように見える。だが、違和感があった。頬には細い鱗のような模様が走り、瞳は淡い金色に光っている。背には薄い翼。呼吸するたび、空気が冷たく震えた。
「妖……?」
雫が小さく息を呑んだ。
幼い。見た目はかなりの子どものような動物だった。
妖は首を傾げ、何かを呟いた。意味の分からない響き。言葉のようで、風の音にも似ていた。
「……話が通じるのか?」
零士が一歩、前へ出ようとした瞬間――
妖の指先がわずかに動いた。風が爆ぜ、地面が跳ね上がる。砂と霧が舞い上がり、四人の視界が白に染まった。
「下がれ!」
燐生が叫び、灰流を放った。胸の奥の熱が腕を駆け、霧が裂ける。
だが、次の瞬間。
「きゃっ!」
雫の悲鳴。足を滑らせ、岩に足首をぶつけた。白い足首が不自然に曲がる。零士が駆け寄り、抱き上げる。
「雫、大丈夫か!」
「……痛い、ごめん……」彼女の瞳に涙が滲む。
霧の奥を見ても、妖の姿はもうなかった。
「消えた……?」柚羽が息を呑む。
「これ以上は危険だ。戻るぞ」
零士が雫を抱いたまま言った。燐生が頷く。
「零士、俺が――」
「いや、俺が背負う」零士の迷いのない声だった。
彼は雫をそっと背に担ぎ上げる。
「零士、無理するな。俺と交代――」
「いい。俺が誘ったんだ、責任は俺にある」
誰も言葉を返せなかった。霧の中、零士の背で雫が静かに息をしている。柚羽が荷を受け取り、燐生が前を警戒する。帰り道の霧は薄れ、朝の光が差し始めた。山の稜線が黄金に染まり、村の灯が見える。
零士は雫をそっと下ろした。
「着いたぞ。もう少しで家だ」
雫は微笑む。「……ありがとう、零士」
「礼なんかいらねぇよ」零士は照れくさく笑い、額の汗をぬぐった。
霧晶石は見つからなかった。だが燐生の胸の中には、確かな何かが残っていた。
――外の世界は、まだ終わっていない。その呟きは、朝の光の中に静かに溶けていった。
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