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最寄り駅に到着。
改札を通ろうと、歩きながらICカードを取り出して指定の場所めがけ手を当てる。
と、警告音とともに赤いランプが点灯し、ゲートがバタリと閉まった。料金はチャージされているはずだ。どうやら上手くタッチ出来なかったらしい。しまった、またやってしまった。
「チッ」
背後から舌打ちの音が聞こえた。
急いで後ろに下がり、脇に避ける。
その男はあからさまな不機嫌顔でこちらを睨みながらゲートを通過していった。
再びカードを手にし、人が来ないことを改めて確認してから今度はゆっくりとタッチをして入場した。
ホームに上がると初夏の熱気が押し寄せてきた。
暑い。
そういえば喉が渇いた。ちょうど自動販売機があったので財布から小銭を数枚取り出す。
その大きな機械の斜め前に立ち、投入口にコインを入れようとしたところで手元がふらついた。
やばい、と思った時すでに遅し。
甲高い金属音を上げて硬貨がホームに飛び散った。
慌ててそれらを拾い集める。しかし、一枚見当たらない。よりによって一番大きい100円玉だ。
おそらく販売機の下に潜り込んでしまったのだろう。
少し覗いてみたが見えない。だいぶ奥までいってしまったようだ。
周囲からの好奇の視線をいくつも感じた。
仕方ない。諦めよう。
買ったと思ってここで我慢すればマイナスではない。そう自分に言い聞かせてその場から少し離れ、到着した電車に乗り込んだ。
目的の駅で降りる。慎重に改札を通った。今度は無事通過。
目的地までの道のりを歩く。5分ほどで着いた。役所だ。
先ずはカウンターに向かい、決められた書類に向き合った。
紐のついたボールペンを手にする。
ペンに描かれた地域のマスコットが逆立ちをしている。
字が書きづらく、ミミズが這ったような字が紙面を埋めていく。不本意だが仕方ない。
途中で調べ物をするために併設されているパソコンに向かった。
画面を迷走するポインタをなだめながら、なんとか目的の情報にたどりついた。
ようやく書類を書き終え、最後に見返したところで気がついた。
書いた部分が擦れて滲んでしまっている。自分の手を見ると真っ黒に汚れていた。シャツの袖も少し汚れている。
少し迷ってから、腕まくりをして再度書き直した。
仕上げた書類は最後に紙を切り取る必要があるらしい。横にハサミが置かれている。
苦心しながら点線を切り取り、窓口へ持っていく。
担当者はやや困り顔でその曲がった切り口を眺め、まあいいかと呟いて手続きを済ませた。
外に出るともう日が傾いている。帰る途中でバッテイングセンターが目に付いた。
気晴らしにちょっと打っていくかと立ち寄ってみたものの、空いているわりに目的の場所が空かない。
少し待って諦めた。
帰り際、とある店が目に付いた。
定食屋だ。ガラス越しに中を覗く。数席のカウンターのみの店のようだ。半分くらいは埋まっているのでさほど悪い店ではないようだ。
腹の具合と相談して入ることにした。
暖簾をくぐり空席を確認する。
客はみな一人のようで、一席置きに空席がある。目的の一番奥の席は残念ながら埋まっていた。しかもよくよく見ると各席の間隔が結構狭い。
まあ仕方ないかと客と客の間に座る。
オススメの定食を頼むと1分も経たずに盆に乗って出てきた。なるほどと感心しながら先ずはご飯と味噌汁の位置を入れ替える。
箸を手に取とり、茶碗を持ち上げたところで隣の人に腕がぶつかった。
すみませんと軽く頭を下げた。相手は視線を合わせずあからさまに不快な表情をしている。
その後は縮こまりながら食事を済ませたが、その間もう2回同様のことがあった。
そして家路につく。
なんていうことはない。
今日もいつも通りの一日だった。
改札を通ろうと、歩きながらICカードを取り出して指定の場所めがけ手を当てる。
と、警告音とともに赤いランプが点灯し、ゲートがバタリと閉まった。料金はチャージされているはずだ。どうやら上手くタッチ出来なかったらしい。しまった、またやってしまった。
「チッ」
背後から舌打ちの音が聞こえた。
急いで後ろに下がり、脇に避ける。
その男はあからさまな不機嫌顔でこちらを睨みながらゲートを通過していった。
再びカードを手にし、人が来ないことを改めて確認してから今度はゆっくりとタッチをして入場した。
ホームに上がると初夏の熱気が押し寄せてきた。
暑い。
そういえば喉が渇いた。ちょうど自動販売機があったので財布から小銭を数枚取り出す。
その大きな機械の斜め前に立ち、投入口にコインを入れようとしたところで手元がふらついた。
やばい、と思った時すでに遅し。
甲高い金属音を上げて硬貨がホームに飛び散った。
慌ててそれらを拾い集める。しかし、一枚見当たらない。よりによって一番大きい100円玉だ。
おそらく販売機の下に潜り込んでしまったのだろう。
少し覗いてみたが見えない。だいぶ奥までいってしまったようだ。
周囲からの好奇の視線をいくつも感じた。
仕方ない。諦めよう。
買ったと思ってここで我慢すればマイナスではない。そう自分に言い聞かせてその場から少し離れ、到着した電車に乗り込んだ。
目的の駅で降りる。慎重に改札を通った。今度は無事通過。
目的地までの道のりを歩く。5分ほどで着いた。役所だ。
先ずはカウンターに向かい、決められた書類に向き合った。
紐のついたボールペンを手にする。
ペンに描かれた地域のマスコットが逆立ちをしている。
字が書きづらく、ミミズが這ったような字が紙面を埋めていく。不本意だが仕方ない。
途中で調べ物をするために併設されているパソコンに向かった。
画面を迷走するポインタをなだめながら、なんとか目的の情報にたどりついた。
ようやく書類を書き終え、最後に見返したところで気がついた。
書いた部分が擦れて滲んでしまっている。自分の手を見ると真っ黒に汚れていた。シャツの袖も少し汚れている。
少し迷ってから、腕まくりをして再度書き直した。
仕上げた書類は最後に紙を切り取る必要があるらしい。横にハサミが置かれている。
苦心しながら点線を切り取り、窓口へ持っていく。
担当者はやや困り顔でその曲がった切り口を眺め、まあいいかと呟いて手続きを済ませた。
外に出るともう日が傾いている。帰る途中でバッテイングセンターが目に付いた。
気晴らしにちょっと打っていくかと立ち寄ってみたものの、空いているわりに目的の場所が空かない。
少し待って諦めた。
帰り際、とある店が目に付いた。
定食屋だ。ガラス越しに中を覗く。数席のカウンターのみの店のようだ。半分くらいは埋まっているのでさほど悪い店ではないようだ。
腹の具合と相談して入ることにした。
暖簾をくぐり空席を確認する。
客はみな一人のようで、一席置きに空席がある。目的の一番奥の席は残念ながら埋まっていた。しかもよくよく見ると各席の間隔が結構狭い。
まあ仕方ないかと客と客の間に座る。
オススメの定食を頼むと1分も経たずに盆に乗って出てきた。なるほどと感心しながら先ずはご飯と味噌汁の位置を入れ替える。
箸を手に取とり、茶碗を持ち上げたところで隣の人に腕がぶつかった。
すみませんと軽く頭を下げた。相手は視線を合わせずあからさまに不快な表情をしている。
その後は縮こまりながら食事を済ませたが、その間もう2回同様のことがあった。
そして家路につく。
なんていうことはない。
今日もいつも通りの一日だった。
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