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理由
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仕事終わりで終電に飛び乗った。
危ない、ギリギリ間に合った。
完全に間に合わないタイミングだったが、どうやら電車が遅延しており、運良く乗ることができた。
車内はすっかり空いている。
よくよく見渡せばこの車両は1人もいない。
こんなこともあるんだなと思いながら横並びの座席の中頃にどっぷりと腰掛ける。
相変わらずの忙しさだ。
ここ最近、特にひどくなっている。
今日も散々な目に合った。
でもこうして終電に間に合ったわけだから今日はついている、とも言えるだろうか。
天井を眺めながらそんなことを考えているうちに次の駅に到着。
ドアが開き、若い女性が1人乗ってきた。
せっかくの車両独占が終わってしまったという若干の落胆ともに、その女性への好奇心が頭をもたげる。
こんな夜中に。
酒に酔っている様子もなく凛としている印象だ。こちらと同じく仕事だろうか。
そんなことを考えながら、なるべくジロジロ見ないよう視界の端で女性を追っていると、彼女はこちら側に歩いてきた。
おやと思いながらも視線は正面を保つ。
広い車内だ。普通は他人との距離を取るために違うシートの方に行くだろう。
しかし彼女はどんどんとこちらに近づいてくる。
やがて彼女は私の、すぐ近くまで来た。
そして、ドアの閉扉と同時に私の隣に座ったのだ。
心臓が跳ね上がるのを感じた。
なぜだ。
広い車内。乗客は自分以外に1人。
その状況で全く知らないその乗客の隣に座るというのはどういうことだ。
いや、まだハッキリとは相手の顔を見てはいない。
もしかしたら知り合いなのだろうか。
向こうからすれば顔見知りを見つけ、話かけようと隣に座ったのだろうか。
なるべく首をうごかさないよう、そっと横目で様子を伺う。
さすがに顔は覗き込めない。
顔は見えないが雰囲気では心当たりはなさそうだ。
ふと正面に気がついた。闇夜越しのガラスに鏡の如く車内の様子が鮮明映っている。
そこに1人の女性。顔がはっきりと確認できた。
歳は自分と同じ20代半ばくらいか。細身でまあまあの美形ではある。
記憶をたどってみるが知り合いなどではない。
赤の他人だ。
一体どういうことだろうか。
車内には他に誰もいないのに全く面識のない人物のすぐ隣に座るとは。
フル回転でその理由を考えてみる。
記憶にないだけで実は知り合いなのだろうか。
そうは見ないが泥酔しており人との距離を意識できないのか。
視力が悪いが、普段かけている眼鏡を無くしてしまい、こちらのことを全く認識できていないのか。
何者からか逃げるため、自分に助けを求めるが如く近くに座ったのか。
ここにいる男が気に入り、声をかけようとしている。逆ナン? いや、ありえない。
そもそも他人との距離感など、一般的な感覚を有していない人なのか。
およそありえないような様々な可能性を瞬時に脳内に挙げてみる。
どれもピンとこない。
気味が悪い。しかし自分の下車駅はまだ先だ。
こちらから場所を離れるべきか、思い切って話しかけてみるか……。
迷っているうちに一つ気づいた。
なんだが先ほどから寒気を感じるのだ。
クーラーのせいではない。
そう考えてさらに悪寒が増す。
再び横目で見る。
いや、ハッキリと見える。そんなはずはない。
そう自分に言い聞かせる。
今度は正面を見る。
ガラス越しでも鮮明に見える。
そんなはずはない。
そう考えながらも気付くと全身にビッショリと汗をかいている自分。
追い討ちをかけるように記憶が遡った。
そう言えばこの電車の遅延は人身事故のせい、ってアナウンスしてたな……。
どうしよう。
どうしよう。
やがて隣の女性はこちらの動揺を察したかのように横に振り向き、視線を落としながらこう言った。
「やだ、怖い。この席誰もいないのにすごい濡れてるわ……」
危ない、ギリギリ間に合った。
完全に間に合わないタイミングだったが、どうやら電車が遅延しており、運良く乗ることができた。
車内はすっかり空いている。
よくよく見渡せばこの車両は1人もいない。
こんなこともあるんだなと思いながら横並びの座席の中頃にどっぷりと腰掛ける。
相変わらずの忙しさだ。
ここ最近、特にひどくなっている。
今日も散々な目に合った。
でもこうして終電に間に合ったわけだから今日はついている、とも言えるだろうか。
天井を眺めながらそんなことを考えているうちに次の駅に到着。
ドアが開き、若い女性が1人乗ってきた。
せっかくの車両独占が終わってしまったという若干の落胆ともに、その女性への好奇心が頭をもたげる。
こんな夜中に。
酒に酔っている様子もなく凛としている印象だ。こちらと同じく仕事だろうか。
そんなことを考えながら、なるべくジロジロ見ないよう視界の端で女性を追っていると、彼女はこちら側に歩いてきた。
おやと思いながらも視線は正面を保つ。
広い車内だ。普通は他人との距離を取るために違うシートの方に行くだろう。
しかし彼女はどんどんとこちらに近づいてくる。
やがて彼女は私の、すぐ近くまで来た。
そして、ドアの閉扉と同時に私の隣に座ったのだ。
心臓が跳ね上がるのを感じた。
なぜだ。
広い車内。乗客は自分以外に1人。
その状況で全く知らないその乗客の隣に座るというのはどういうことだ。
いや、まだハッキリとは相手の顔を見てはいない。
もしかしたら知り合いなのだろうか。
向こうからすれば顔見知りを見つけ、話かけようと隣に座ったのだろうか。
なるべく首をうごかさないよう、そっと横目で様子を伺う。
さすがに顔は覗き込めない。
顔は見えないが雰囲気では心当たりはなさそうだ。
ふと正面に気がついた。闇夜越しのガラスに鏡の如く車内の様子が鮮明映っている。
そこに1人の女性。顔がはっきりと確認できた。
歳は自分と同じ20代半ばくらいか。細身でまあまあの美形ではある。
記憶をたどってみるが知り合いなどではない。
赤の他人だ。
一体どういうことだろうか。
車内には他に誰もいないのに全く面識のない人物のすぐ隣に座るとは。
フル回転でその理由を考えてみる。
記憶にないだけで実は知り合いなのだろうか。
そうは見ないが泥酔しており人との距離を意識できないのか。
視力が悪いが、普段かけている眼鏡を無くしてしまい、こちらのことを全く認識できていないのか。
何者からか逃げるため、自分に助けを求めるが如く近くに座ったのか。
ここにいる男が気に入り、声をかけようとしている。逆ナン? いや、ありえない。
そもそも他人との距離感など、一般的な感覚を有していない人なのか。
およそありえないような様々な可能性を瞬時に脳内に挙げてみる。
どれもピンとこない。
気味が悪い。しかし自分の下車駅はまだ先だ。
こちらから場所を離れるべきか、思い切って話しかけてみるか……。
迷っているうちに一つ気づいた。
なんだが先ほどから寒気を感じるのだ。
クーラーのせいではない。
そう考えてさらに悪寒が増す。
再び横目で見る。
いや、ハッキリと見える。そんなはずはない。
そう自分に言い聞かせる。
今度は正面を見る。
ガラス越しでも鮮明に見える。
そんなはずはない。
そう考えながらも気付くと全身にビッショリと汗をかいている自分。
追い討ちをかけるように記憶が遡った。
そう言えばこの電車の遅延は人身事故のせい、ってアナウンスしてたな……。
どうしよう。
どうしよう。
やがて隣の女性はこちらの動揺を察したかのように横に振り向き、視線を落としながらこう言った。
「やだ、怖い。この席誰もいないのにすごい濡れてるわ……」
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