ショートショート始めました。

奈央

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アイ

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彼女の名は「アイ」といった。
AI研究を一緒にやっている職場の後輩。
配属当時はその名前をネタにされ、色々な人に話しかけられていた。
まあ話しかけるのは大抵男性。
みな彼女のその美しい容姿を間近で拝みたくて声をかけているのは明らかだった。

私はというと日頃の努力の甲斐があってか、大きなプロジェクトを任されることになった。
しかもサブとして彼女をつけてもらえた。
周りからの嫉妬を買ったのは言うまでもない。
彼女は仕事ができた。しかも慎ましやかで気が利く。
そのおかげでさらに仕事にも張り合いが出た。

ずっと自分とは釣り合わないと思っていたものの、完全に諦められていない自分に気が付いた。
彼女ともっと話がしたい。ずっと一緒にいたい。
その想いが大きく膨らみ、やがて堪えきれずにその願いを叶える手段を実行に移した。
AIだ。
こっそりと職場での彼女の全てを記録した。
盗撮、盗聴。
記録データを逐一AIに学習させ、リアルな人物像を形成した。
職場だけでは情報が足りなかった。
私生活を記録するため、探偵を雇った。そのための資金はちっとも惜しくなかった。
彼女の全てを記録し、学習させた。
そして最後に、私のことを好きだという設定を付け加えた。

完成。
容姿、声色、そして性格までもが完璧に再現され、なおかつ私のことが好きな彼女がモニターの前に現れた。
『おはよう』
『行ってきます』
「おはようございます」
「おつかれさまでした」
『お帰りなさい』
『おやすみなさい』
家で職場でも、彼女と過ごす毎日は最高だった。

完成後も日々の学習は続けていた。
そのせいか、いつしか彼女は自ら発言をするようになっていった。

『今日面白いことがあったの』
これは実際にあったことだろうか。それとも過去の記録を参考に生成された虚実だろうか。
AIの出力結果はブラックボックスといって、何を根拠にそういう結果が出ているかがわからない。
これが難しいところだ。

『ねえ、ちょっと聞いてよ』
「うん? どうした?」
いつもの会話の一旦だ。

『職場に変な人がいてさ』
「変な人? どんなやつだよ」
『前はさ、その人のこと好きだったんだよね』
そうなのか。
そんな人物が本当に存在するかはわからない。
しかしその相手に嫉妬したのは間違いなかった。

「好きだった、ってことは今は好きじゃないのかな」
『うん。なんか嫌になっちゃった』
そうかと少し胸を撫でおろす。
「なんで? 何があったの?」
『だって私のこと盗撮してるんだよ? 探偵も雇っていつも後をつけさせてるみたいだし』

『ねえ、お願い。もうやめてくれないかな』
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感想 9

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みんなの感想(9件)

2020.10.07 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2020.10.07 奈央

ありがとうございます。
大変でしたね。

解除
さんご
2020.07.06 さんご

最後は、あら、と驚きました。
面白いです。

2020.10.07 奈央

ありがとうございます。

解除
2020.06.11 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2020.06.11 奈央

コメントありがとうございます!
少しずつですがこれからも更新していきたいと思いますので、何卒よろしくお願いいたします。笑

解除

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