スクリーンより愛をこめて

CAROL

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第28話 倉田・マリーその愛

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シアターシティは小高い丘の上にある。

その1画にある8LDK平屋の一戸建て。

200坪の敷地はこのエリアでは狭い物件だが
日本だとなかなかの豪邸と言うことになる、

その家は少し中古で年が経っている。
ガレージにはシルバーのセダンと小型車が停まる。
2台ともここには似つかわしくない古いものだ。

庭にはプールも噴水も何もなく
BBQの施設もまったく使われていない。
芝生も手入れがまったくされていない。

この豪邸の殺風景な敷地が
主のやる気のなさを物語っていた。

その家の主は冷凍食品で暮らしていた。
食べたいものもなく腹を満たすために食べる。
堀井が辞めてから彼の食生活はガタガタだった。
なんとなく暮らす怠惰な生活。

帰国のスケジュールは決まっていない。
堀井の住んでいたマンションの契約解除は済んだ。
この家の売却手続きがまだのためMPSに頼む事にした。

とにかく何もやる気が起きない。
たまにTVのゲストで呼ばれるが
週に1回程度。週休6日の暮らしだ。

1Kのアパートでの孤独は希望もあった。
だがこの家での独りは悲しいものだった。

ジェシカのマネージメントを断ってから
すべて自分で行わなくてはならない。
よく言われる心が折れたという表現が
今の倉田にはぴったりだった。


だが岡元は倉田の帰国後の仕事も準備していた。
日本映画界では倉田浩平ではなくハリウッド俳優
KOHEI KURATAでお迎えするつもりだ。
新しい企画もいくつか手元に届いている。
彼は日本でのビッグビジネスを期待していた。
だが当の倉田が何の意欲も無く暮らしていた。


そんなある日。

ビルからの連絡。

あのマリーから荷物が届いているという。

倉田は驚いた。
正直マリーの事は忘れていた。
あの授賞式からFB財団事件
突然のガミラの死。

そして帰国が決まり堀井の退職。

マリーの事など頭の片隅にもなかった。

スタッフが自宅に荷物を届ける。
A4より少し大きな箱にお菓子と手紙が入っていた。
レース風の紙ナプキンにオレンジ色がチラと見える。

みかんの輪切り?
半分チョコがコーティングしてある。
一口パクリ。オレンジはほろ苦くチョコは甘い。
美味しいな…感心しながら手紙を開いてみた。

なんと全文日本語だ。
翻訳したものをコピペ。
少し文法がおかしいのはご愛敬だ。

『クラ、お元気ですか?
急に懐かしくなってお菓子を作りました
オランジェットというお菓子です
フランスの有名なお菓子がある。
私が作った食べてほしいです』

そんな文章から始まる長い手紙だった。

マリーの故郷ではオランジェット占いをする。
ほろ苦いオレンジから食べた人は、今苦難。
チョコから食べた人は今、幸せな時期。
それ以外、半分の場所を食べれば普通の状態。

ほろ苦い時はあっても必ずチョコにたどり着く。
甘いチョコが終わればオレンジの苦さがやってくる。

日本風に言えば、人生楽ありゃ苦もあるさ。
ということだ。

マリーの手紙は続く。


実はフランス映画界で噂が流れている。
倉田が米映画界からバッシングを受けている。
日本人のくせにアカデミック賞を取ったから。
倉田は仕事を干されて、窮地に立たされている。

マリーとの共演から倉田の人気はフランスでも高かった。
それならフランスに来ればいい、歓迎する。
そんな声が仏国内のSNSでもささやかれていた。


『もしクラがOKならフランスに来ませんか?
2人で傑作を生みだしましょう!仏映画界は大歓迎です』


倉田は驚いた。
フランスでそんな噂が持ち上がっているなんて!
FB財団の事は秘密であってもオレが干されてるのは
バレているんだ?オレを心配しての手紙だったのか?

フランス映画界に?
すこし食指が動いたが
ふと「泉野 麗」が浮かんだ。
また女に頼って助けられるのか?

倉田のつまらない意地だった。
男が女を養うという昭和の感覚。
甲斐性や男気を気にする彼は絶対に
フランスへは行きたくなかった。

倉田は岡元に連絡を取りマリーが好きなアニメ
「素浪人剣真」のぬいぐるみを用意させた。
それと共に短いお礼の手紙を送る。
もちろんフランス語に翻訳して送った。


『マリーお菓子ありがとう。
美味しくいただきました。
心配してくれてありがとう。
武蔵はまだまだ修行中だよ。
これからもがんばります』

 

******



味気の無い手紙を受け取るマリー。


あのオルリー空港の撮影が浮かんだ。
あの3211での別れが浮かんだ。
やさしく抱きしめられた感覚は
未だ身体が覚えているのに。

今でも想いは募るばかりだった。

自分を頼って来ない事は予想できたが
やはり現実に突っぱねられると悲しかった。
サムライは意地を通して死さえ選ぶらしい。
彼は誰にも助けを求めずに終わるのだろう。

「クラ…愛より死を選ぶのね」

ぬいぐるみに思わずつぶやく。

それ以降、マリーは倉田の事を口に出す事も
彼に直接連絡を取ることもしなかった。



*******



47年後…


フランスの大女優マリー・デュ・コロワの葬儀が
パリのエテルネル大聖堂でしめやかにおこなわれた。
パイプオルガンが奏でるのは数ある主演作の中で
彼女が最も愛したと言われた
「 A chance Encounter 」のテーマ。

ステンドグラスの光に照らされる大聖堂。
中央に彼女の夫、子や孫、総勢18人が棺を取り囲む。

花に埋もれて横たわる美しいフランスの妖精。
枕元にはアニメキャラのぬいぐるみとハンカチ。

「こんな古い人形要らないだろう?
すり切れてボロボロじゃないか?
ハンカチもヨレヨレだし」

息子のレオンが不満気につぶやいた。
大女優の持ち物としてはそぐわないからだ。

それは倉田がお菓子のお礼に送ったぬいぐるみと
あの空港で差し出したハンカチだった。

「駄目よ、おばあちゃん大切にしてたもの。
捨てないで、ちゃんと納めてあげてよ」

隣にいた長女が涙ながらに訴えた。

「そんなに言うなら入れるか?
でも・・・これ、なんだろ?
思い出の人形かな?」

棺を取り囲む子どもや孫たちは不思議に思った。

その理由は誰も知らない。 




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