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第33話 不審者
しおりを挟む倉田が初の監督、主演作品。
話題の映画「愚か者」が封切り。
ふたを開けてみると賛否両論。
倉田のコアなファンからすれば
なんか自虐みたいでつまんないという声。
一方で人間の愚かさ、愛のすばらしさを問う
秀作だと絶賛する人もいる。
だがKコーポレーションの3人は
これが堀井へのメッセージだと気づいていた。
人気アニメ「亀裂の剣」と公開が重なり
興行成績としては第5位に留まる。
かまわない。収益なんかどうでもよかった。
堀井の目に届く、それだけでよかったのだ。
映画には彼女への思いが
随所に ちりばめられていた。
「料理最高だよ」
「いつもオレを支えてくれてありがとう」
「君の想いを無下にしたオレはダメ人間さ」
「武道館で1万人が拍手してくれても
傍でオレを支えてくれる君を
泣かせた時点でオレはダメなんだよ」
神山誠が演じる歌手は自らを省みて
彼女の愛をかみしめる。
ちなみにラストシーンでは
独り病院で引退を決意する主人公に
主治医役の倉田が語り掛ける。
「愛の尊さ、それに気づいたんだ。
遅かったけど、君は救われたよ。
きっと彼女は君の歌を聞いてくれる
これからは彼女へ感謝で生きよう」
倉田が自分に言い聞かせるセリフだった。
************
公開から2カ月。 陰りが見えてきた。
ロングランというわけにはいかない。
MPS側からは打ち切りの打診がくる。
臨時契約で配給してもらった恩もある。
堀井が見てくれたか?は不明だが。
ワイドショーにまで出て宣伝した。
題名くらいは耳に入っているだろう。
もちろん連絡はない。
だが倉田は引退会見はしなかった。
吉岡のラインを見て心に決めた。
堀井に会うまでは辞めない。
倉田はTVのバラエティなどに出ながら
堀井からの連絡をひたすら待った。
映画の撮影中に倉田は家を買った。
ウィークリーマンションが週刊誌にバレた。
ファンが押し掛けて迷惑がかかるのと
彼自身静かな環境に身を置きたかった。
都内から少し離れた静かな町。
引っ越しをマスコミが嗅ぎつけた。
「倉田1億の豪邸に引っ越し」
そんなニュースだったが
実際は60坪ほどの中古の家。
普通の建売住宅に取材もしぼむ。
「ハリウッドのオーラゼロ」のおじさんは
すぐに近所の風景に溶け込んでしまう。
倉田の隠居生活にマスコミは
充電期間か?引退か?と心配した。
*********
「後藤君、もう1回、回ってくれ」
「3丁目ですか?」
「うん。倉田さんちだ」
「何か?」
「気づかなかったのか?」
「は?」
「ガレージ、不審者がいた」
「すいません。気づきませんでした」
「うん」
「またファンですかね?」
「ただのファンならいいんだが
もうすぐ日も落ちる。引っかかるね」
交差点を曲がり倉田の家へ。
「よし、徐行して」
「(パトランプ)点けますか?」
「いや、無しで、ばんかけ(職質)だ」
倉田の家は近所では有名だ。
60坪ほどの小さな建売住宅。
とても俳優が住む家には見えない。
近所の人は倉田のセカンドハウスと思っていた。
ただ近所と違うのはガレージに収まる車が
左ハンドルの日本車ということくらいか?
そのガレージで車を見ていた不審者を
パトロール中の警官は見逃さなかった。
「こんばんは。ちょっといいですか?」
その声と共に近づく警官に驚く
不審者はその場を離れようとした。
「あら、どうしたの?逃げないで
ちょっとお話聞きたいだけなんです」
「ねえ?帽子とってもらえる?
もうお日様は出てないよ」
********
「なんだ?…」
倉田はガレージの話し声にイラつく。
家を突き止めたファンだな?
彼のファンに若い子は少ない。
大体30~50代のファンだ。
なぜか?主婦が多い。
そのためか過激なファンは居ない。
サインや写真を一緒に撮って満足する程度だ。
だが夜に押しかけられるのは初めてだ。
玄関ドアを少し開けて外を見ると
パトカーの白黒が見えた。 警察?揉め事か?
「こんばんは。何かあったんですか?」
「あ?こんばんは。倉田さん」
その瞬間、ヒッと息を吸うような声が聞こえた。
その声の主はあわててチューリップハットを被り直す。
「!」
アッと思ったが倉田は俳優だ。
瞬時に感情を殺し、演技するのは簡単な事だった。
「あ!なんだ~遅かったなあ。
迷子になったんだろ?
なに?パトカーで送ってもらった?」
「え?」
若い警官が倉田の言葉に驚き 女をつかむ手を離した。
「なにかあったんですか?
彼女はうちの社員です」
「え?倉田さんの会社の方だったんですか?
ファンが押し掛けたのか?と勘違いを」
警官は不審者だと睨んでいたため
バツが悪そうに頭を下げて言い訳する。
「いいんですよ。気にしないでください」
「失礼いたしました」
女に頭を下げながらパトカーに戻る。
倉田は女をうながして家に入るよう合図した。
パトカーのテールランプを見送り家に入る。
ドアを閉め、わざと大声で言う。
「はあ~ 今までどこほっつき歩いてたんだよお!」
「オレ、毎日毎日ももちゃんに
連絡あったか?あったか?って」
「ごめんなさい」
と、言ったつもりだった。
だが、言葉にならない。
「さ、速く早く、入った入った」
いつもの優しい声だった。
その声にガマンできず
堀井は倉田に背を向けたまま号泣した。
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