34 / 36
第34話 まさかという坂
しおりを挟む「さあ、話をきかせてもらおうか?
今日は徹夜だからな」
堀井は泣き笑いでうなずいた。
岡元から事務所で話を聞かされ
倉田が窮地に立たされたのは
自分が郵便物を見落としたからだと思った。
アメリカに戻っていいのか?
悩んだ、戻るのが怖くなった。
休暇期限がすぎた。
社長にも申し訳なくて、
退職願いを出してしまった。
吉岡から連絡がきたがスルーした。
岡元に追い詰められたのが理由ではないが
なんとなく曖昧なままフェードアウトとなる。
その後、映画の封切りを知って愕然とした。
社長のメッセージ?
でも私の為に映画を撮るなんてありえない。
今回の件をヒントに映画を作っただけと思った。
映画は3回も見た。
見る度に、自分への呼びかけかな?と思った。
倉田や吉岡に連絡を取りたかったが
逃げていた後ろめたさから出来なかった。
映画の公開が終わる。
そしてそのあとの倉田の引っ越し報道。
これで完全に縁が切れると思った。
意を決して吉岡にラインをする。
「堀井さんのバカ~すぐ電話して~」
電話で泣きながら怒鳴られた。
でも直接倉田に連絡はできなかった。
吉岡から住所は聞いたが
もし、訪ねて追い返されたら?
それが怖かった。
また迷う日々が続く。
吉岡に何度も叱られやっと来る事ができた。
家を見つけたが、それより車をみて驚いた。
リオンタウンでお借りしていた車だ。
どうしてここに?
おろおろしてたら職質された。
「堀井ちゃんが帰ってきてくれないから
車だけでも連れて帰ったのさ」
堀井はそれを聞いて悔やんだ。
もっと早く連絡を取ればよかった。
こんなに苦しまなくて済んだのに。
それこそ彼女が自分に自信が無い証拠だった。
「オレの番ね、何から話そう?」
腕組みをして宙を見上げながら話す。
FB財団の件はデマだった。
招待状なんか初めから届いていない。
堀井ちゃんに聞いた話は結局噂だったんだ。
そういう事で堀井を安心させたかった、
彼女のせいでは無いと伝えたかった。
干されたというのはまんざら嘘ではない
アカデミック賞で嫉妬されたかもな。
でも心配はいらない、まだ引退は先だ。
これも嘘、うそも方便だ。
倉田は仕事の目処がつかない場合は
引退だと決意を固めていた。
だが隠せないのはガミラの死だ
本当の事を話すのなら彼女が郵便を隠し
自らを追い詰め自殺した事も言わなければ。
だが、ガミラを守ってやりたかった。
堀井もショックが倍増するだろう。
自殺は誰にも言わない。
言えばガミラが地獄へ行くような
そんな気がしたからだ。
ガミラの病死を聞かされた堀井は
嘘だ、冗談だと言い続けた。
なんとなくあの25Fでビルに噛みついた
自分を思い出した。
倉田はガミラの母、ザラに会い
彼女からガミラの持病を聞かされた事。
避けられなかった死であった事。
形見にTシャツを貰った話などを伝えた。
「そうだ、堀井ちゃんにも1枚
きっとガミラも喜ぶはずだ」
そういうとTシャツを持ってきて渡した
「これ、見覚えあるだろう?」
「いいんですか?」
ガミラのトレードマーク。
白いジャケットのインナーに着ていたものだ。
フランスで共に暮らした日々が蘇る。
お箸を器用に使うガミラ。
ごはんを美味しいと喜ぶガミラ。
シャンゼリゼ通りで燥いだガミラ。
スマホには2人の写真が山ほどあった。
堀井は泣いた
倉田との再会よりも泣いた。
堀井は倉田との再会、ガミラの死という
喜哀を同時に受け止める夜となった。
******
堀井はKコーポレーションに再雇用となる。
それからしばらくして
倉田がまた「まさか?」と言う坂を転がる事になる。
「愚か者」の公開は日本のみだったが
MPSはLAの1部の地域で公開するとした。
そこにはFB財団の動きを探る意図があった。
実は、つい最近、映画関係者の間で
フレッド・バトラーが倒れたとの噂があったのだ。
彼の年齢は公表されていないが80代だと思われる。
健康面に不安があってもおかしくない。
小さな映画館で公開された「愚か者」
MPSは固唾をのんで見守った。
アカデミック賞の倉田が日本で監督を務めた
この事も話題となり上映館は更に拡大。
またSNSを中心に別の意味で大反響となる。
人気に有頂天となり高慢な態度となる男。
そんな主人公をアメリカという大国になぞらえ
今、戦争に加担する危険な政治を改めるべき。
うぬ惚れを捨てて愛と感謝で生きるのが正しい。
そんな声が若者の間で上がったのだ。
MPSも(いける)と読み、大々的に宣伝活動を行う。
「愚か者」はアカデミック賞外国作品賞にノミネート。
評論家からは2本目のタスカーが確実だと噂される。
さすがにマスコミも黙っていられない。
「クラタは何故、帰ってこない?」
「人種差別ではないか?」
しばらくして新聞各社が動き出した。
KURATA IS BACK
Well come Back My secret wepon
そんな見出しがあちこちに見える。
これこそフレッド・バトラーが倒れた証拠だった。
エドはGOサインを出した。
倉田の再契約が決まったのだ。
それと同時にKコーポレーションで
引退宣言もあっさり撤回。
岡元は笑い泣きの顔と「ばかやろ~」の吹き出しで
倉田の首を絞める写真をHPで公開した。
復帰会見が本社ビルで行われる。
(おかえり秘密兵器)
(もう日本には戻らないでね!)
(3待ってるからな!)
色とりどりのプラカードを掲げたファンが見守る
多くの報道陣のフラッシュが稲妻のように光る中
恥ずかしそうに倉田が発した最初の言葉は
「NO WAY?」(まさか?)だった。
0
あなたにおすすめの小説
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる