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第35話 風の無い丘陵にて
しおりを挟むすごい暑さだ。
17時を回り若干日差しは弱まったが
まだ日本の酷暑並みに感じられる。
どこかで鉄が焼けるような臭いがする。
子ども達が早口になにかを言いながら
足元にまとわりつくのをやり過ごす。
白布を靡かせて歩く女たち。
この暑さなのに裸足の者もいる。
どこからともなく浪々と響く歌声。
メロディは初めて聴くものだが
なんとなく懐かしい気がする。
きっと祈りの歌だ。
その歌声をかき消すような鈴の音。
音の主である瘦せこけた牛が
ドスドスと目の前を通り過ぎる。
この国の普段に圧倒されつつ
2人は大通りを歩く。
「オレも帽子持ってくればよかったな」
「どこかで買いますか?」
「いや、これから探すのも大変だし
早くタクシー拾おう。冷房効いてるから」
ホテルで聞いていたタクシー乗り場。
小型の日本車が並ぶ。
お世辞にもきれいだとは言えない。
倉田にとっては懐かしい旧車が並ぶ。
住所はザラから聞いてきた
その走り書きをマリオカートに乗っていそうな
ヒゲの運転手に手渡す。
「チャイナ?」
カーナビを操作しながら聞いてきた。
日本人だというと、うれしそうに
息子が日本の企業で働いていると言う。
これで遠回りはされないな。と安心した。
「A国は親日家の方が多いみたいですね」
「うん、空港にも回転寿司があったし
この車も古いけど日本車だもんな。
ガミラが留学先に選んだのもそのへんかな?」
「それに女性はきれいな人ばっかりですね」
「何となくガミラに似てるよな?」
ガミラが聞き取れたのだろう。
運転手はこっちに友達がいるのか?
と聞いてきた。
「うん、友人に会いにきたんだ」
倉田は誇らしげにそう言った。
******
あの街の喧騒がウソのような静かな丘陵。
LAを思わせる芝生が美しくひろがる。
とある静かな住宅地でタクシーが停まった。
「あ~やっぱり風は無いなあ~」
「ほんとに風が無いですね
景色が止まってるみたい」
目指す教会を探しながら2人は嘆く。
しばらく歩くと目の前に見えてきた。
隣接して墓地らしい敷地がある。
「ここだな?」
「変わった建物ですね」
キリスト系のそれとは違う。
モスクというのか?ドーム型の屋根だ。
「神父さんか?誰かいないのかな?」
恐る恐る中に入ると礼拝場か?
大理石のきれいなタイル張りの床。
壁は漆喰か?眩しいほど白い。
ここだけがひんやりとした空間だ。
右手にドアがありインターフォンがある。
押すと黒いシーツの様な服を纏った
小柄な老人が顔をだした。
英語は通じるかな?と心配しつつ
声をかけるが、やっぱり通じない。
「ガミラトンプソン、ガ・ミ・ラ」
ゆっくり確かめるように話す。
と同時に手を頬に合わせおやすみポーズ。
老人は反応も無しで奥に入った。
「今ので分かったよね?」
「ええ・・・」
堀井も不安そうに答える。
「オレ一応役者なんだけどなぁ」
困る倉田にクスっと笑う。
しばらくしてノートを片手に戻ってきた。
「ガミラァ、ガミラア~」
ページを指をさしながら言うのだが
その文字が英語ではないため読めない。
「ガミラ?」
心配でもう1度確かめる。
うなずきながら指さす先には
「F12」 の鉛筆文字。
「わかった、ありがとう」
思わず日本語で頭をさげた。
堀井をうながして外に出る。
教会の裏手の墓地に向かう。
石畳で区切られた芝生の敷地が
まるで小さな宅地のようだ。
区画ごとに手の平くらいの
銅製のプレートが埋め込んである。
「A.B.C これか?」
確認しながら奥に進む。
丘というほどではないが緩やかな傾斜だ。
F12を目指して無言で歩く。
「お、ここだ」
広さにして2畳ほどの敷地。
人工芝のようにきれいな緑。
その中央に美しく磨かれたベージュの石板。
ガミラ・トンプソン 1983~2023
その下にはアラビア語か?
読めない文字が刻んである。
「ガミラの名前かな?」
そう言った瞬間
堀井がガクっと膝をついた。
胸に抱いた白百合が折れそうだ。
「ガミラさん・・・」
「ガミラさぁあ~ん」
あの大人しい堀井が大声をあげた。
花を包んだセロファンに落ちる涙。
死の真相を知っている倉田は
震える小さな背中を見守った。
しばらくして冷静さを取り戻し
百合をそっと置き合掌する。
その姿を見て隣の倉田がしゃがむ。
石板にそっと手を置き語り掛ける。
「ガミラ、元気か?」
あきらかに目の前の人への語りかけ。
倉田の中ではガミラは生きている。
その思いに堀井はまた涙した。
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この3つを伝えた。
「まあ、そういうことだ。
安心してくれ、ありがとうな」
話が終わり立ち上がる。
あ、帰るんだな?堀井はそう思った。
だが、倉田はいったん立ち上がり
少し深呼吸をしてまたしゃがむ。
そしてガミラにまた声を掛けた。
どうしたんだろう?
まだ話があるのかしら?
堀井は倉田の動作が不思議だった。
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