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最終話 スクリーンより愛をこめて
しおりを挟む倉田は神妙な趣で石板に向かう。
まだ何か大事な話があるのかしら?
堀井は少し心配になった。
「なあ、ガミラ、実は大事な話があって
今日はここまで来たんだよ」
「ビルにも言ったけどガミラは
今もオレのマネージャーだからな」
「でさ、マネージャーとして
今日は見届け人になって欲しいんだ」
そう言うと、立ちあがりまた深呼吸。
石板から堀井に向きを変える。
「堀井元子さん」
フルネームだった。
「結婚してください」
「は?」
「堀井元子さん、結婚してください」
「何のセリフですか?」
言葉の意味は理解できたが
なぜ私に言うんだろう?と思った。
「映画見てくれただろ?
あれはオレの思いだ。でも映画じゃなくて
直接伝えないとダメだと思って」
「だから結婚してください」
「エグい冗談やめてくださいよ」
顔がひきつる。
「映画って冗談で撮るか?」
「……」
さすがに反論できなかった。
「堀井ちゃん、これ言ってなかったけど」
「はい?」
「オレさ、アカデミック授賞式の夜
マリーに告白されたんだ」
「ええっ?」
堀井は飛び上がって驚いた。
「でも、断ったんだ」
「どうしてですか?」
「マリーより堀井ちゃんだったんだよ。
だから彼女に告白されても断ったんだ。
堀井ちゃんと暮らしたい。傍に居て欲しい」
そんなバカな・・・
マリーさんと私なんて
比べ物にならないのに。
「オレ、アメリカに戻って分かったんだ。
豪邸も車も何の支えにもならない。
堀井ちゃんが辞めて死ぬほど悲しかったよ。
オレは堀井ちゃんが好きだった。
独りになって自分の気持ちに気づいたんだ」
「・・・・」
「無・・・理・・です」
消えそうな声で絞り出した。
倉田は水を被ったような表情になった。
「……そか」
「うん、わかった、了解!」
「うっうっ……ごめんなさい」
「いや、いいんだ、すまん、すまん。
ヤバっ!ガミラ、オレどうしよう?」
わざとおどけた声を上げ
石板にしゃがみこみズッコケる。
精いっぱいの下手な芸だ。
堀井の負担を減らしてやりたかった。
「わたっ。うっ」
話そうとするが涙が止まらない。
「堀井ちゃん、ごめん、冗談キツイよな
さ、ほんと。暑いし帰ろうか?」
「いえ、違、ちが、ちがうん…」
息を整えようと必死だ。
下手に明るく振る舞うと
彼女を追い詰める事になる。
静かに待つことにした。
少しして話せるようになった。
堀井はチューリップハットを
握りしめながら懸命に話す。
「私は料理バカの冴えない女
それがこんな…ありえないです。
スターの社長となんて
そんな話…信じられません」
「オレもそうだったよ」
「え?」
少し微笑んで言う。
「あのオーディションの時ひどかったんだ。
ハリウッドコップの時さ」
「マスコミもだけど、オレの友達までが
身の程しらずって。バカにしたんだよ
SNSでも総攻撃で、日本中に笑われた」
「で。受かった時思ったよ、信じられないって」
「オレは奇跡でスターになったからね
だから奇跡って本当にあると思ってるんだ」
「だから堀井ちゃんが信じてくれるのを待つよ」
堀井は信じられなかった。
私を待つ?
待つなんて言わないで
私なんか、待つ値打ちがないよ…
『ホリィ、大丈夫よ』
ガミラの声がする。
私なんか、ダメよ…
『ホリィ、クラを支えてあげて
あなたしか居ない、お願いよ』
私だよ?
社長にからかわれてるのよ。
『ちがうわ、ホリィのために撮ったのよ
あの映画はクラのラヴレターじゃない?』
私に思いを伝えるために
あの映画を撮ったなんて…
そんな個人的な事で映画撮る?
やっぱり信じられない。
どうして私?
マリーさんより私だなんて・・・
『ホリィ、クラの愛に応えてやってよ』
そんなの無理よ・・・
『私はもうクラの傍には居られないの。
ホリィしか居ないのよ。お願いよ』
『クラを独りにしないで・・・』
ガミラさん…
ほんの1分ほどの沈黙だったが
この風が無い丘陵の景色が時間を止める。
倉田には恐ろしく長い沈黙だった。
「あの映画・・・」
「え?」
もう泣いていなかった。
「あの映画は社長の想いですね?」
「うん、嘘偽りなしのオレの想いだ
堀井ちゃんに伝えるにはあれしかなかったんだ」
「私、映画、3回見ました」
顔をあげた。
まっすぐに倉田を見上げる。
「その思い、お受けします」
「え?信じてくれるのかい?」
ガミラに背中を押された堀井は
倉田のプロポーズを受けた。
「倉田浩平さん」
「よろしくお願いします」
そういいながら静かにお辞儀をした。
その姿はどんな大女優でも出せない
力強さと自信に満ち溢れたものだった。
何も言わずに一歩踏み出し
静かに堀井の肩を抱く。
「堀井ちゃん・・・」
それに返事はせず、静かに瞼を閉じた。
同時にまた涙が一筋頬を伝う。
(真剣な恋愛ならよろこんでします)
そうマリーに言った事を思い出す。
チューリップハットが石畳に落ちた。
本物のラヴシーンはガミラが見届けた。
*****
帰り支度をしながら倉田の手が止まる。
「あ、そうだ!」
まだあるのか?と堀井は身構えた。
西に沈みかける陽を見上げてつぶやいた。
「やっぱり、題名変えたいな…」
「何のですか?」
「愚か者だよ」
「フラれたなら、愚か者でいいけどさ」
「堀井ちゃんがOKしてくれたから
愚か者って、なんか合わないなぁって」
言われてみればそうかも?と堀井も思った。
「あれ、オレの想いだから
愚か者って合わないなあと思ってさ」
堀井は恥ずかしさで返事ができない。
「ん~ 愛の告白…ちょっダサいな」
「あ!愛をこめて」
「うん、スクリーンより愛をこめて」
「どう?」
「いいですね」
素敵なタイトルだと堀井も思った。
「どう?ガミラ?いいと思わない?
ねえ?しっくりくるよ、かっこいいし」
「スクリーンより愛をこめて」
「いいよね?」
ガミラが眠る石板に語りかけた瞬間
彼女に捧げた百合の花が
風もないのに揺れた。
Fine
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