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王太子視点7
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ユリウスからの報告でサフィニアは無事領地に帰って、祭りの準備に追われていると報告が遭った。
「サフィニアが無事ならそれでいい」
ユリウスは気分転換に私も来てはどうかと誘ったが、生憎私にはまだしなければならない事がある。それは隣国の王女が一月後にやってくるという知らせが入っていたからだ。
彼女を出迎える準備をしなければならない。
忙しく立ち回っていると、ローズマリア付きの侍女がお産の知らせを持ってきた。
いよいよだ。これで真実が明かされる。身の潔白を証明できるのだ。ローズマリアが私以外の男と姦通したことは分かっていたが、生まれてくる子供が私の子供でないとも言い切れない。
いくら記憶がなくても「もしかしたら…」と考えてしまっている。
王族にはある秘密の聖約があり、血を受け継ぐものは銀色の髪を持つ。これは血筋を証明すために先祖が女神と聖約を交わしたと言われている。
例外なく銀髪の子供が生まれている。サフィニアの曾祖父もそうだった。今は血が薄れた事によって髪の色は変わったが、デントロー公爵家では血が受け継がれている。かの家は第二の王家だからだ。
「見舞いに行かないのですか。殿下」
侍従に聞かれても私は、ローズマリアの見舞いにはいかなかった。冷めてどこか他人事の様に思えたからだ。
何時間か経った頃に「生まれた」と報告が来たのだが、予想通りに展開になった。父王から呼び出しを受けたのだ。
「どういう事だ。医師から王太子妃が産んだ子供は、王家の色を持って生まれなかったと報告があった。説明せよ」
「国王陛下、実は彼女は私の乳兄弟の手を借りて、私の部屋に侵入し、薬で眠らされた私と一夜を明かしたのです。相手の男も既に捕らえています」
「何故、早く言わなかったのだ」
「確証がなかったからです。状況証拠しかないので、生まれれば分かると考えていましたし、彼女が良心の呵責に耐えられなくて、正直に告白することを願っていたのですが…残念です」
「このままではミッシェルウィー公爵家も道連れだぞ」
「分かっています。彼女らの罪は重い。誰も助けられないでしょう」
そう例え、どんなに愛しいサフィニアを助けたいと思っても無理なのだ。八方塞がりの状態に終止符を打ったのは緊急の使者がきたという知らせが舞い込んだ時。
「国王陛下。王太子殿下。隣国から火急の使者が参っております」
「何、うむ。この件は後で話そう」
私は頷いて、そのまま謁見の間まで父について行った。
使者は汗だくで酷く乱れている。その異様な風体に父と顔を見合わせたながら
「国王陛下、王太子殿下。私はティエリティー皇国のベルガ・マドットと申します。お目にかかれて光栄です」
「火急の用と来たのだが、何が遭ったのだ」
「実はこちらに向かっていた王女が急死しましたので、急いで知らせに参ったのです。皇王陛下からの親書にございます。お改めください」
父は親書を読むと私に渡した。そこに書かれていた内容に私は言葉を失った。
亡くなった王女の代わりに、年端のいかぬ10才の王女を、私の妃として迎えて欲しいというのだ。流石に父もこれには同意できぬとばかりに
「申し訳ないが、隣国から10才に満たぬ王女を王太子に娶らせるわけにはいかぬ。隣国との交易はこれまで通りと致すことにする。そちらにも依存がないはずであろう」
この言葉に焦りを抱いたのは使者だった。ティエリティーは砂漠の王国で長く食糧問題が続いている。そこで王女を嫁がせて、我が国からの支援を増やしたいのだ。
だが、私はある事を思いついた。送られてきた王女の絵姿はサフィニアに良く似ていた。ならば、彼女を隣国の王女と入れ替えれば、お互いに利が得られるのではないかと。
「父上、お願いがあります。サフィニアの曾祖母は隣国ティエリティーから嫁がれた方。ですので、サフィニアを隣国の王女として私の妃にしては如何でしょう。それならば双方上手く纏まるのでは」
父は難色を示したが、結局、使者を通して皇王と交渉する旨を私に許した。
私は使者に皇王の縁者となる年頃の娘が、我が国に居る事を伝えた。その娘を王女として輿入れするならば穀物の支援を約束通り増やすと親書を認めた。そしてサフィニアの絵姿を使者に見せると驚いていた。
二人が良く似ているからだ。これならば身代わりとして十分だと考えた様で、すぐさま帰国した。
隣国からは一週間ほどで返事が来ることは予想できた。向こうも断る理由はない。
こうして私はサフィニアを生かす手段を得た。後は本人に告げるだけだ。卑怯だと思うが他に手立てがないのも事実。
公爵家の多くの無辜の命を救うためには仕方がない事なのだと、自分に言い聞かせながら。
私はユリウスとアンソニーらを王宮に戻らせたのである。これからの計画の為に。
「サフィニアが無事ならそれでいい」
ユリウスは気分転換に私も来てはどうかと誘ったが、生憎私にはまだしなければならない事がある。それは隣国の王女が一月後にやってくるという知らせが入っていたからだ。
彼女を出迎える準備をしなければならない。
忙しく立ち回っていると、ローズマリア付きの侍女がお産の知らせを持ってきた。
いよいよだ。これで真実が明かされる。身の潔白を証明できるのだ。ローズマリアが私以外の男と姦通したことは分かっていたが、生まれてくる子供が私の子供でないとも言い切れない。
いくら記憶がなくても「もしかしたら…」と考えてしまっている。
王族にはある秘密の聖約があり、血を受け継ぐものは銀色の髪を持つ。これは血筋を証明すために先祖が女神と聖約を交わしたと言われている。
例外なく銀髪の子供が生まれている。サフィニアの曾祖父もそうだった。今は血が薄れた事によって髪の色は変わったが、デントロー公爵家では血が受け継がれている。かの家は第二の王家だからだ。
「見舞いに行かないのですか。殿下」
侍従に聞かれても私は、ローズマリアの見舞いにはいかなかった。冷めてどこか他人事の様に思えたからだ。
何時間か経った頃に「生まれた」と報告が来たのだが、予想通りに展開になった。父王から呼び出しを受けたのだ。
「どういう事だ。医師から王太子妃が産んだ子供は、王家の色を持って生まれなかったと報告があった。説明せよ」
「国王陛下、実は彼女は私の乳兄弟の手を借りて、私の部屋に侵入し、薬で眠らされた私と一夜を明かしたのです。相手の男も既に捕らえています」
「何故、早く言わなかったのだ」
「確証がなかったからです。状況証拠しかないので、生まれれば分かると考えていましたし、彼女が良心の呵責に耐えられなくて、正直に告白することを願っていたのですが…残念です」
「このままではミッシェルウィー公爵家も道連れだぞ」
「分かっています。彼女らの罪は重い。誰も助けられないでしょう」
そう例え、どんなに愛しいサフィニアを助けたいと思っても無理なのだ。八方塞がりの状態に終止符を打ったのは緊急の使者がきたという知らせが舞い込んだ時。
「国王陛下。王太子殿下。隣国から火急の使者が参っております」
「何、うむ。この件は後で話そう」
私は頷いて、そのまま謁見の間まで父について行った。
使者は汗だくで酷く乱れている。その異様な風体に父と顔を見合わせたながら
「国王陛下、王太子殿下。私はティエリティー皇国のベルガ・マドットと申します。お目にかかれて光栄です」
「火急の用と来たのだが、何が遭ったのだ」
「実はこちらに向かっていた王女が急死しましたので、急いで知らせに参ったのです。皇王陛下からの親書にございます。お改めください」
父は親書を読むと私に渡した。そこに書かれていた内容に私は言葉を失った。
亡くなった王女の代わりに、年端のいかぬ10才の王女を、私の妃として迎えて欲しいというのだ。流石に父もこれには同意できぬとばかりに
「申し訳ないが、隣国から10才に満たぬ王女を王太子に娶らせるわけにはいかぬ。隣国との交易はこれまで通りと致すことにする。そちらにも依存がないはずであろう」
この言葉に焦りを抱いたのは使者だった。ティエリティーは砂漠の王国で長く食糧問題が続いている。そこで王女を嫁がせて、我が国からの支援を増やしたいのだ。
だが、私はある事を思いついた。送られてきた王女の絵姿はサフィニアに良く似ていた。ならば、彼女を隣国の王女と入れ替えれば、お互いに利が得られるのではないかと。
「父上、お願いがあります。サフィニアの曾祖母は隣国ティエリティーから嫁がれた方。ですので、サフィニアを隣国の王女として私の妃にしては如何でしょう。それならば双方上手く纏まるのでは」
父は難色を示したが、結局、使者を通して皇王と交渉する旨を私に許した。
私は使者に皇王の縁者となる年頃の娘が、我が国に居る事を伝えた。その娘を王女として輿入れするならば穀物の支援を約束通り増やすと親書を認めた。そしてサフィニアの絵姿を使者に見せると驚いていた。
二人が良く似ているからだ。これならば身代わりとして十分だと考えた様で、すぐさま帰国した。
隣国からは一週間ほどで返事が来ることは予想できた。向こうも断る理由はない。
こうして私はサフィニアを生かす手段を得た。後は本人に告げるだけだ。卑怯だと思うが他に手立てがないのも事実。
公爵家の多くの無辜の命を救うためには仕方がない事なのだと、自分に言い聞かせながら。
私はユリウスとアンソニーらを王宮に戻らせたのである。これからの計画の為に。
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