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第一章
※ 知りたくなかった
僕は、フェリシアの死から長く立ち直れないでいた。
学年最後の年、最初の学年試験で、僕は解答をミスした。その所為で、僕は首席の座を別の者に明け渡した。
常に僕と首位を争っている人物。
ウィル・アルバーナ。
彼はフロンティアからの留学生だった。
妙な話だ。アルカイドよりフロンティアの方が技術も何もかも上なのに、何を好き好んでこの国に来たのか分からない。
彼に直接聞いた者の話しでは、彼はこの国に『あるものを探しに来た』と言っていたようだ。
何を探しているのかは、知らないが兎に角僕にとっては目の上のたんこぶのような存在で、目障り極まりなかった。
何をしても僕より上を行く彼が、ただの伯爵家の三男には到底思えない。何か隠している事だけは理解出来た。
二年になったベアトリーチェは、いつもより勉強が捗ったのか、その試験では首位になった。その報告を嬉しそうに僕の所に伝えに来た。
「レイノルド様。わたし、今回頑張ったかいがあったようで…」
「一番になったんだろう。知っているよ」
「そ…そうなんです。それで、よければ、一緒にカフェでランチを取りたいんですがいいでしょうか?」
あの日から、僕はベアトリーチェを避け始めた。随分と一緒に昼食を摂ったことがない。
そういえば、『もし、君が次の試験で首位に立てたなら一緒に食事をしてもいい』と言った気がした。フェリシアの死が頭から離れない僕は適当に返事をしたのだ。
嬉しそうな表情を見せていたが、いつも良くて二位止まりのベアトリーチェには無理だろうと高を括っていたのだ。
結果、彼女はやり遂げた。たかが僕との食事をするためだけに…。僕と一緒にいる為だけに頑張っているベアトリーチェを見ると、まるで、父を求め続けた母のように思えて、ますます嫌悪感が増していった。
その日、結局僕は生徒会室で食事を摂り、彼女との約束を反故にした。
生徒会の役員を選考する時にも、本来なら彼女も選ばれるのだが、僕の意志で外し、代わりにジュリアを入れたのだ。
ジュリアを見ているとフェリシアが生きている錯覚を起こした。
彼女に妹の姿を重ねていたのだ。
もし妹が生きていたら、こうしただろうか。と常にジュリアの言動に心を動かされていくようになった。
僕にとって所詮ジュリアはフェリシアの代わりでしかなかったのに、周りは勝手な想像を膨らませて、僕とジュリアは特別な関係だと誤解した。
まあ、誤解されるほど傍に置いたのは他でもない僕自身なのだが…。
僕は、噂を肯定も否定もしなかった。
それがどういう結果を生み出すかさえもあの時の僕は気にしていなかった。
それにもう一つの噂も気になった。噂というほどではないが、僕の耳に何故か、誰かが親切な忠告をしてくれる。
ーーーベアトリーチェ様が留学生と一緒に図書館で勉強をしていた。
---ベアトリーチェ様が留学生と買い物を楽しんでいた。
---ベアトリーチェ様が、ベアトリーチェ様が、ベアトリーチェ様が、
と耳障りな雑音が僕の心をかき乱していく。
馬鹿な在り得ない。ベアトリーチェは僕を愛している。僕に群がる令嬢を追い落としているのに、そんな事、あるはずがないだろう。
彼女が僕以外の男に懸想するなど…。
『レイノルド様、言いにくいのですが、異母姉には好きな人がいるんです』
いつかジュリアに言われた言葉が頭をよぎる。
まさかな。
僕は苦笑した。そんなことはない。騙されるな。僕は信じないぞ。
僕の心は矛盾している。ベアトリーチェの言葉を信じなくて距離を置いた癖に、彼女の心が他の誰かに向いている事を認められない自分がいることに。
ある時、ベアトリーチェがジュリアに咬みついた。
「婚約者のいる男性に近付くことはマナー違反よ。淑女のすることじゃないでしょう」
「そんなつもりではないの。フェリシア様を失ったレイノルド様をお慰めしようと…」
「どうして、あなたがそんな事をする必要があるの?わたしが彼の婚約者なのよ。分かっているの」
「そんなことは分かっているわ。でも傷ついた人を放ってはおけないから」
「だからといって、四六時中一緒にいていいという理由にはならないわ」
「でも…レイノルド様がお望みなら、仕方がないでしょう」
「な…何を言っているのよ」
「やめろ!!僕が誰といようと僕の勝手だ。君に指図される謂れはない。僕の事に過干渉するのはやめてくれ。迷惑だ」
ベアトリーチェの身体を突き飛ばして、ジュリアを守った僕は、まるで悪女から聖女を守った騎士の様な自分に酔っていたのかもしれない。
地べたにへたたり込んだベアトリーチェが、周りからどんな奇異な目で見られていたのか、僕は知ろうともしなかったし、知りたくもなかった。
ただ僕は、僕に執着して、縋って来るベアトリーチェに母を重ねて悍ましく、疎む気持ちしかなかったのだ。
その内、冷静になってあれはやりすぎだったのでは、と後悔し始めた。
彼女の行きそうな所を学園中を探して回る僕の姿はさぞかし、滑稽だっただろう。自分が突き放した女を追いかける様な無様な姿は…。
何処にもいない彼女を旧校舎の裏庭で見かけた時、ドクンと心臓が大きく撥ねた。
「もう、いい加減諦めたらどうだ。虚しいだけだろう。想われていないことを承知で縋っている姿は見ているこっちが痛々しくなる」
「放っておいてよ。貴方には関係ないことでしょう。部外者は黙って!!」
「部外者ねぇ、あながち部外者でもないんだがな。俺は君の伯父上に頼まれているんだ。もし、君が窮地に陥っているならフロンティアに連れてくるようにな」
「伯父様から…」
「ああ、だから俺の手を取れよ。一緒にフロンティアに行こう」
「無理よ。だってレイノルド様との婚約は王命なんだから」
「大丈夫だよ。なんとかなるから」
「でも、やっぱり無理」
「なんでだよ」
「そ…それは、わたしが……」
泣いていたベアトリーチェを慰めていたのは、隣国からの留学生ウィルだった。
昔の僕の名を持つ忌々しい男がベアトリーチェを連れ去ろうとしていた。
僕の脳裏にジュリアの言葉が響き渡る。
『異母姉には好きな人がいる』
と、僕は今、その現実を突きつけられていた。
学年最後の年、最初の学年試験で、僕は解答をミスした。その所為で、僕は首席の座を別の者に明け渡した。
常に僕と首位を争っている人物。
ウィル・アルバーナ。
彼はフロンティアからの留学生だった。
妙な話だ。アルカイドよりフロンティアの方が技術も何もかも上なのに、何を好き好んでこの国に来たのか分からない。
彼に直接聞いた者の話しでは、彼はこの国に『あるものを探しに来た』と言っていたようだ。
何を探しているのかは、知らないが兎に角僕にとっては目の上のたんこぶのような存在で、目障り極まりなかった。
何をしても僕より上を行く彼が、ただの伯爵家の三男には到底思えない。何か隠している事だけは理解出来た。
二年になったベアトリーチェは、いつもより勉強が捗ったのか、その試験では首位になった。その報告を嬉しそうに僕の所に伝えに来た。
「レイノルド様。わたし、今回頑張ったかいがあったようで…」
「一番になったんだろう。知っているよ」
「そ…そうなんです。それで、よければ、一緒にカフェでランチを取りたいんですがいいでしょうか?」
あの日から、僕はベアトリーチェを避け始めた。随分と一緒に昼食を摂ったことがない。
そういえば、『もし、君が次の試験で首位に立てたなら一緒に食事をしてもいい』と言った気がした。フェリシアの死が頭から離れない僕は適当に返事をしたのだ。
嬉しそうな表情を見せていたが、いつも良くて二位止まりのベアトリーチェには無理だろうと高を括っていたのだ。
結果、彼女はやり遂げた。たかが僕との食事をするためだけに…。僕と一緒にいる為だけに頑張っているベアトリーチェを見ると、まるで、父を求め続けた母のように思えて、ますます嫌悪感が増していった。
その日、結局僕は生徒会室で食事を摂り、彼女との約束を反故にした。
生徒会の役員を選考する時にも、本来なら彼女も選ばれるのだが、僕の意志で外し、代わりにジュリアを入れたのだ。
ジュリアを見ているとフェリシアが生きている錯覚を起こした。
彼女に妹の姿を重ねていたのだ。
もし妹が生きていたら、こうしただろうか。と常にジュリアの言動に心を動かされていくようになった。
僕にとって所詮ジュリアはフェリシアの代わりでしかなかったのに、周りは勝手な想像を膨らませて、僕とジュリアは特別な関係だと誤解した。
まあ、誤解されるほど傍に置いたのは他でもない僕自身なのだが…。
僕は、噂を肯定も否定もしなかった。
それがどういう結果を生み出すかさえもあの時の僕は気にしていなかった。
それにもう一つの噂も気になった。噂というほどではないが、僕の耳に何故か、誰かが親切な忠告をしてくれる。
ーーーベアトリーチェ様が留学生と一緒に図書館で勉強をしていた。
---ベアトリーチェ様が留学生と買い物を楽しんでいた。
---ベアトリーチェ様が、ベアトリーチェ様が、ベアトリーチェ様が、
と耳障りな雑音が僕の心をかき乱していく。
馬鹿な在り得ない。ベアトリーチェは僕を愛している。僕に群がる令嬢を追い落としているのに、そんな事、あるはずがないだろう。
彼女が僕以外の男に懸想するなど…。
『レイノルド様、言いにくいのですが、異母姉には好きな人がいるんです』
いつかジュリアに言われた言葉が頭をよぎる。
まさかな。
僕は苦笑した。そんなことはない。騙されるな。僕は信じないぞ。
僕の心は矛盾している。ベアトリーチェの言葉を信じなくて距離を置いた癖に、彼女の心が他の誰かに向いている事を認められない自分がいることに。
ある時、ベアトリーチェがジュリアに咬みついた。
「婚約者のいる男性に近付くことはマナー違反よ。淑女のすることじゃないでしょう」
「そんなつもりではないの。フェリシア様を失ったレイノルド様をお慰めしようと…」
「どうして、あなたがそんな事をする必要があるの?わたしが彼の婚約者なのよ。分かっているの」
「そんなことは分かっているわ。でも傷ついた人を放ってはおけないから」
「だからといって、四六時中一緒にいていいという理由にはならないわ」
「でも…レイノルド様がお望みなら、仕方がないでしょう」
「な…何を言っているのよ」
「やめろ!!僕が誰といようと僕の勝手だ。君に指図される謂れはない。僕の事に過干渉するのはやめてくれ。迷惑だ」
ベアトリーチェの身体を突き飛ばして、ジュリアを守った僕は、まるで悪女から聖女を守った騎士の様な自分に酔っていたのかもしれない。
地べたにへたたり込んだベアトリーチェが、周りからどんな奇異な目で見られていたのか、僕は知ろうともしなかったし、知りたくもなかった。
ただ僕は、僕に執着して、縋って来るベアトリーチェに母を重ねて悍ましく、疎む気持ちしかなかったのだ。
その内、冷静になってあれはやりすぎだったのでは、と後悔し始めた。
彼女の行きそうな所を学園中を探して回る僕の姿はさぞかし、滑稽だっただろう。自分が突き放した女を追いかける様な無様な姿は…。
何処にもいない彼女を旧校舎の裏庭で見かけた時、ドクンと心臓が大きく撥ねた。
「もう、いい加減諦めたらどうだ。虚しいだけだろう。想われていないことを承知で縋っている姿は見ているこっちが痛々しくなる」
「放っておいてよ。貴方には関係ないことでしょう。部外者は黙って!!」
「部外者ねぇ、あながち部外者でもないんだがな。俺は君の伯父上に頼まれているんだ。もし、君が窮地に陥っているならフロンティアに連れてくるようにな」
「伯父様から…」
「ああ、だから俺の手を取れよ。一緒にフロンティアに行こう」
「無理よ。だってレイノルド様との婚約は王命なんだから」
「大丈夫だよ。なんとかなるから」
「でも、やっぱり無理」
「なんでだよ」
「そ…それは、わたしが……」
泣いていたベアトリーチェを慰めていたのは、隣国からの留学生ウィルだった。
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僕の脳裏にジュリアの言葉が響き渡る。
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