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第一章
※ それでも君を手放せない
茂みの向こうで聞いていた僕は、ベアトリーチェの返事を聞き逃した。
『そ…それは、わたしが……』
その後に続く言葉は何だったのか。『好きだから』なのか、それとも『王命に逆らえないから』だったのだろうか?
どんなに考えても続く言葉に自信が持てない。
あの日から、ベアトリーチェを遠ざけていたくせに、彼女を手離す準備は何一つできていない。覚悟すらも…。
僕の気持ちを見透かす様に、父は僕を執務室に呼び出した。
「最近、チェスター公爵令嬢と上手く行っていないそうだな。それにもう一人のチェスター公爵令嬢と親しい付き合いだと聞いている。お前の気持ちが固まっているなら、二人を入れ替える事も出来る。その方が簡単だ。それに…フロンティアからベアトリーチェ嬢を返してもらいたいとの催促状が何通も来ているからな。ちょうどいい。婚約を見直そうと考えている」
相変わらず、僕を見ようとしない青い目は本物のガラスの様だった。冷たい無機質な目。そこに移っている自分もまた無機質な存在なのだろう…。
「なぜ、そこでフロンティアが介入してくるのですか?」
「彼女がチェスター公爵の娘ではないからだ」
「ま…まさか。そんなはずはないでしょう。現にベアトリーチェ嬢も公爵を父親だと認めているんですよ」
「だが、事実だ。覚えているか?ベアトリーチェ嬢がデビュタントに来ていたドレスの事を…」
「はい。伯父から贈られたものだと」
「そうだ。しかし、そのドレスの施されていた文様も覚えているか?」
「確か蘭が刺繍されていましたが」
「問題は、ベールの方だ。桜の花を編み込まれていた。そんな衣装を纏えるのは皇族だけだ。ベアトリーチェ嬢は亡き大公殿下の娘だということだ」
「そんな…信じられません」
「信じようと、信じまいと事実だとフロンティアは言って来ている。彼女の母親前チェスター公爵夫人は、秘密裏に大公殿下と結婚しており、当時夫人のお腹には子供がいたのだと。その子供がベアトリーチェ嬢なのだ」
「なら、余計。ベアトリーチェ嬢との結婚を…」
「もう遅い!!お前の学園でも素行を理由に婚約の解消を求めてきている。直ぐにでもベアトリーチェ嬢を連れ帰るともな」
「嫌です。彼女は僕の婚約者です。フロンティには渡しません」
「なら、どうして、あんな愚行を繰り返している。周りにどう映るのか考えたことはあるのか」
「理解しているつもりです。今、暫く待ってもらえないでしょうか。ベアトリーチェ嬢との関係修復します」
「期限は」
「フェリシアの喪が明けるまでには…」
「まだ、忘れていないのだな」
「陛下は切り返しがお早いようで、僕には到底及びません」
「ふっ、嫌味の一つも言えるようになったか。余が判断を誤った事が大きな原因なのだろうな」
「………」
本当にそうだが、言葉にはできなかった。
僕とベアトリーチェの関係にできた溝は、そう簡単には埋まらないだろうと分かっている。
頭では理解していても心は違う。どうしてもベアトリーチェを自由にするという選択を選べなかった。
だが、彼女との関係修復は予想以上に困難だった。
既に、周りに僕との婚約を破棄されるという噂は学園中を飛び交い。それがベアトリーチェの心を蝕んでいる事に僕は気付かなった。
僕が気付いた時には、既にベアトリーチェはかつての母の様に、全ての原因をジュリアに押し付けていた。元凶はベアトリーチェと向き合う事が出来ずに、逃げていた僕にあったというのに…。
彼女の学園での言動は、次の王妃に相応しくないとの声が貴族達の間に広まっていった。
もう手の施し様のない状態で、僕はベアトリーチェに婚約破棄を告げたのだ。
それは、僕の愚かな行動が招いた結果だった。
本当ならフロンティアに行くはずだったのに、チェスター公爵はベアトリーチェを部屋に閉じ込めた。婚約破棄の知らせで精神的に参っていたベアトリーチェが部屋から出て来なくなった事もあるのだが。
僕は今度はジュリアを近付けなくした。
僕に相手にされなくなったジュリアは、なんとか僕と連絡をしようと、同学年にいたある人物を頼った。
しかし、頼った相手が悪い。
よりにもよって僕と婚約の話しが出ているルシーラ・ハンニバル王女に話してしまったのだ。
ハンニバル国からの留学生で、身分を隠して学園に通っていた王女は、僕に付け入る隙を狙っていた。
僕がベアトリーチェに未練を残している事を知っていると、彼女は裏工作して、春の園遊会にベアトリーチェを招いた。
そこで、極限まで追い詰められていたベアトリーチェは、ジュリアと僕を見て、ジュリアを池に突き落した。
全ては僕の浅はかな行いが招いたことだった。
現場を大勢の貴族達に見られて、ベアトリーチェへの擁護は難しくなった。唯一の手段はジュリアに減刑を求めさせることだった。
僕がジュリアにそのことを頼むと天使の様な笑顔で残酷な言葉を紡いだ。
「やっぱり、殿下はわたしを選んでくれると信じていました。あんな怖いお姉様ではなくて。お姫様の相手はいつだって王子さまでなくては、だって、わたしは幸せなお姫様ですなんですから」
そう言って、僕との婚約を迫った。
僕は一体何を見てきたんだろう。こんな女がフェリシアの代わりだって…。愚かだ。余りにも愚かな話だ。なんて馬鹿な事をしたんだ。
僕は、女の裏の顔を見た気がした。
ジュリアの嘆願でベアトリーチェは減刑され、身柄を修道院に預けることだけを聞かされていた。どこの修道院に送られたかという事を僕は全く知らず、いや知ろうとしなかったのだ。
そして、周囲に勧められるままにルシーラを妻に迎えた。
初夜の夜にルシーラから恐ろしい秘密を聞かされるまで、僕は全ての事を何も知らなかったのだ。
『そ…それは、わたしが……』
その後に続く言葉は何だったのか。『好きだから』なのか、それとも『王命に逆らえないから』だったのだろうか?
どんなに考えても続く言葉に自信が持てない。
あの日から、ベアトリーチェを遠ざけていたくせに、彼女を手離す準備は何一つできていない。覚悟すらも…。
僕の気持ちを見透かす様に、父は僕を執務室に呼び出した。
「最近、チェスター公爵令嬢と上手く行っていないそうだな。それにもう一人のチェスター公爵令嬢と親しい付き合いだと聞いている。お前の気持ちが固まっているなら、二人を入れ替える事も出来る。その方が簡単だ。それに…フロンティアからベアトリーチェ嬢を返してもらいたいとの催促状が何通も来ているからな。ちょうどいい。婚約を見直そうと考えている」
相変わらず、僕を見ようとしない青い目は本物のガラスの様だった。冷たい無機質な目。そこに移っている自分もまた無機質な存在なのだろう…。
「なぜ、そこでフロンティアが介入してくるのですか?」
「彼女がチェスター公爵の娘ではないからだ」
「ま…まさか。そんなはずはないでしょう。現にベアトリーチェ嬢も公爵を父親だと認めているんですよ」
「だが、事実だ。覚えているか?ベアトリーチェ嬢がデビュタントに来ていたドレスの事を…」
「はい。伯父から贈られたものだと」
「そうだ。しかし、そのドレスの施されていた文様も覚えているか?」
「確か蘭が刺繍されていましたが」
「問題は、ベールの方だ。桜の花を編み込まれていた。そんな衣装を纏えるのは皇族だけだ。ベアトリーチェ嬢は亡き大公殿下の娘だということだ」
「そんな…信じられません」
「信じようと、信じまいと事実だとフロンティアは言って来ている。彼女の母親前チェスター公爵夫人は、秘密裏に大公殿下と結婚しており、当時夫人のお腹には子供がいたのだと。その子供がベアトリーチェ嬢なのだ」
「なら、余計。ベアトリーチェ嬢との結婚を…」
「もう遅い!!お前の学園でも素行を理由に婚約の解消を求めてきている。直ぐにでもベアトリーチェ嬢を連れ帰るともな」
「嫌です。彼女は僕の婚約者です。フロンティには渡しません」
「なら、どうして、あんな愚行を繰り返している。周りにどう映るのか考えたことはあるのか」
「理解しているつもりです。今、暫く待ってもらえないでしょうか。ベアトリーチェ嬢との関係修復します」
「期限は」
「フェリシアの喪が明けるまでには…」
「まだ、忘れていないのだな」
「陛下は切り返しがお早いようで、僕には到底及びません」
「ふっ、嫌味の一つも言えるようになったか。余が判断を誤った事が大きな原因なのだろうな」
「………」
本当にそうだが、言葉にはできなかった。
僕とベアトリーチェの関係にできた溝は、そう簡単には埋まらないだろうと分かっている。
頭では理解していても心は違う。どうしてもベアトリーチェを自由にするという選択を選べなかった。
だが、彼女との関係修復は予想以上に困難だった。
既に、周りに僕との婚約を破棄されるという噂は学園中を飛び交い。それがベアトリーチェの心を蝕んでいる事に僕は気付かなった。
僕が気付いた時には、既にベアトリーチェはかつての母の様に、全ての原因をジュリアに押し付けていた。元凶はベアトリーチェと向き合う事が出来ずに、逃げていた僕にあったというのに…。
彼女の学園での言動は、次の王妃に相応しくないとの声が貴族達の間に広まっていった。
もう手の施し様のない状態で、僕はベアトリーチェに婚約破棄を告げたのだ。
それは、僕の愚かな行動が招いた結果だった。
本当ならフロンティアに行くはずだったのに、チェスター公爵はベアトリーチェを部屋に閉じ込めた。婚約破棄の知らせで精神的に参っていたベアトリーチェが部屋から出て来なくなった事もあるのだが。
僕は今度はジュリアを近付けなくした。
僕に相手にされなくなったジュリアは、なんとか僕と連絡をしようと、同学年にいたある人物を頼った。
しかし、頼った相手が悪い。
よりにもよって僕と婚約の話しが出ているルシーラ・ハンニバル王女に話してしまったのだ。
ハンニバル国からの留学生で、身分を隠して学園に通っていた王女は、僕に付け入る隙を狙っていた。
僕がベアトリーチェに未練を残している事を知っていると、彼女は裏工作して、春の園遊会にベアトリーチェを招いた。
そこで、極限まで追い詰められていたベアトリーチェは、ジュリアと僕を見て、ジュリアを池に突き落した。
全ては僕の浅はかな行いが招いたことだった。
現場を大勢の貴族達に見られて、ベアトリーチェへの擁護は難しくなった。唯一の手段はジュリアに減刑を求めさせることだった。
僕がジュリアにそのことを頼むと天使の様な笑顔で残酷な言葉を紡いだ。
「やっぱり、殿下はわたしを選んでくれると信じていました。あんな怖いお姉様ではなくて。お姫様の相手はいつだって王子さまでなくては、だって、わたしは幸せなお姫様ですなんですから」
そう言って、僕との婚約を迫った。
僕は一体何を見てきたんだろう。こんな女がフェリシアの代わりだって…。愚かだ。余りにも愚かな話だ。なんて馬鹿な事をしたんだ。
僕は、女の裏の顔を見た気がした。
ジュリアの嘆願でベアトリーチェは減刑され、身柄を修道院に預けることだけを聞かされていた。どこの修道院に送られたかという事を僕は全く知らず、いや知ろうとしなかったのだ。
そして、周囲に勧められるままにルシーラを妻に迎えた。
初夜の夜にルシーラから恐ろしい秘密を聞かされるまで、僕は全ての事を何も知らなかったのだ。
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